24 迫る衝突の時
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そういえば、300回突破していましたね。皆さんのおかげです。
「…………」
カーシャの報告を聞いて、私は押し黙る。
さーて、どうしようかな……。
このまま帝国の暴挙を見過ごす?
否! 断じて否!!
「アリゼ、アリゼっ!!
抑えてっ、怒りを抑えてっ!!」
「あ……」
クラリスに呼びかけられて初めて、部屋全体が小刻みに振動していることに気が付いた。
私は怒りのあまり膨大な量の魔力を放出していたらしく、それに呼応した精霊が暴れていたようだ。
そしてフレアが部屋の隅でガタガタと震えていたけど、私はそんなに怖くないよー?
「ねえ……奴隷の解放については、アリゼが1番詳しいでしょ?
どうすればいいのかしら?」
「う~ん……」
クラリスにそう問われるが、私は首を傾げる。
確かにかつて私は、奴隷商を狩りまくっていたから、奴隷解放についてはプロだと言ってもいい。
しかしだからこそ、その難しさも分かっているつもりだ。
「やりようはありますが、一気に全てを解決する方法は無いですね……」
「アリゼの魔法で、奴隷契約を解除することはできないってこと?」
「できます。
できますが……あれは精神というか、魂を縛る術式でして……扱いが難しい。
それに奴隷によって契約内容が異なることも、奴隷商によってやり方が違うことも有ります。
千人単位の奴隷がいるとなれば、複数の奴隷商が関わっているはずですから、かけられている術式も一律ではないでしょう」
「つまり解除の仕方が、全員バラバラってこと?」
クラリスは、対処の難しさを理解したようだ。
「はい、極端なケースだと、そういうことも有り得ます。
だから複数人へ強引に解呪すると、無理が生じて精神などに後遺症が出ることもあるでしょう。
なるべくなら1人ずつ、慎重に時間をかけて、処置すべきものです」
「戦争中に、そんな暇は無いわね……。
そもそも保護も難しい状態だから、大人しく解呪処置も受けてくれないでしょうし……」
「ええ……。
ですが奴隷契約の術式を施した奴隷商人ならば、簡単に奴隷を解放する手段を持っています。
まあ……そいつらが何処にいるのか……それが問題ですが、私がどうにかしましょう」
「じゃあ、人質の解放はなんとかできるのね?」
それは可能だが、おそらく奴隷商は本国にいると思うので、後で乗り込むことになるだろうな……。
そう、後でだ。
根本的な解決は後回しにして、今は人質を帝国軍から引き離さなければ、戦いにならない。
つまり奴隷契約の状態を維持したまま、救出作戦を決行する必要がある。
私ならば、おそらく可能だ。
「……試してみなければ分かりませんが、救出することは可能かと」
ただその為には、十数年ぶりに「乗っ取り」のスキルを使わなければならないだろうな……。
こんなところで、このアリゼの身体を捨てなければならなくなるとは……。
姿自体は「変形」のスキルでどうとでもなるが、この愛着のある身体を死なせるのは、元々の持ち主であるアリタにも申し訳がない……っ!!
「アリゼ、顔が怖い、怖いわ!?」
クラリス達が恐れ戦いたが、私は奥歯をきつく噛み締めることをやめられそうになかった。
「……ともかく、人質を解放しただけでは、戦争は勝てません。
正直言って気は進みませんが、レイチェル達にも手伝わせた方が良さそうですね……」
子供達に戦争の惨状を見せたくないけど……まあ、記憶を共有して部分がある以上、今更か……。
奴隷商狩りの時に、色々と酷い光景を見ているからな……。
我は誇り高きクバート帝国貴族・カリバン子爵の7男──ナキナキである。
現在我は、魔族に与するとされるローラント王国への、征伐軍に参加している。
我としてはこの聖戦にはさほど興味は無いのだが、7男という立場では家も継げず、この戦いで功績を挙げねば、出世の道が無いのだ。
まあ、これは楽な仕事となるだろう。
ローラントの女王は、愚かしくも奴隷を禁止し、平民の権利を尊重しているという。
馬鹿な考え方だ。
それは我ら貴族にとって、損にこそなれど、得になることは無い。
そもそも平民は、我ら貴族に支配されるからこそ、価値があるのだ。
しかしローラントは、それを否定するがごとき政策を進めている。
それが世にはびこることは、貴族どころか君主による支配体制すらいつか揺るがすだろう。
皇帝陛下がローラントの在り方を危険視するのも、当然の話だ。
だから道を誤ったローラントは、完全に破壊しなければならない。
そこで我が国の誰かが考えた。
奴らが大切にしている物を利用してやろう──と。
異世界から召喚した勇者を使って集めた人質は、大きな効果を発揮し、あの巨大な竜すらも、退けた。
これがいつまで通用するかは分からないが、我らは7万にも登る大軍勢──。
普通に戦っても負けるはずはない。
それに勇者の存在もある。
異世界から超越的な能力を持つ人間兵器──つまり勇者を召喚するという、そんな術式が我が国にあったというのは初耳だが、少なくともその勇者が強いことは間違いないようだ。
あの竜が再び出てきたとしても、恐れることはない。
そしていよいよ、ローラントの砦を攻める時がやってきた。
盾となる人質や奴隷達を軍の前面に展開させ、我らは進んで行く。
ただ、雲行きが少し怪しい。
ローラントが人質の命を惜しむのならば、砦の門を開放するはずだが、未だにそれは固く閉ざされていた。
それどころか、砦の方から歌が聞こえてくる。
奴らの国家だろうか?
少女と思しき綺麗な声で、それが歌われているようだ。
その歌の意図は分からないが、どうやら奴らはまだ砦から撤退していないようだった。
人質を見捨てることを、決めたのか?
もしかしたら、本格的な攻城戦になるのかもしれないな……。
我がそう思い始めた頃、前方にいたはずの奴隷達の姿が、一斉に消えた。
……何事だ!?
王国の方での動きは、次回以降に。
なお、土日はお休みです。




