8 運命の出会い
ブックマークと☆での評価、ありがとうございました。
我が輩はネコである(ガチ)。
相変わらず名前は無い。
やっぱり身体を頻繁に乗り換えていると、名前って必要ないな。
でも、そろそろ1つの身体に、落ち着きたいものだ。
そんなことを考えつつ、来ました大邸宅。
こんな田舎町には不釣り合いなほど大きな屋敷だけど、一体どんな身分の人間が住んでいるのだろうか?
大商人かな? 貴族かな? 領主かな?
まあ、金持ちであることだけは、間違いないだろう。
ならば、豪華な餌を所望する!
そんな訳で、使用人が使っていそうな裏口を見つけて、「ニャア、ニャア」と鳴いて催促してみたところ、何故か庭師っぽいおっさんに箒で追い立てられた。
解せぬ。
なんでや!?
ネコだぞ、可愛いだろ!?
餌を貢ぎたくなるでしょ!?
ぐぬぬ……他に餌をくれそうな人はいないかな……。
私は人を探して、広い庭を探検することにした。
すると、声が聞こえてくる。
いや……これは歌?
歌詞が分からないので、外国の曲を聴いているような印象になっているが、間違い無く歌声だろう。
私はその歌の出所の方に向かうと、屋敷から離れた場所に平屋建ての建築物があった。
なんとなくフォルムは、日本武道館を小さくしたような印象だ。
勿論、建築様式とかは全く違うのだろうけど、なんとなく似ている。
人間が独りで住むには、丁度良いくらいのサイズに見えるな。
しかし──。
んん……?
私は小首を傾げる。
歌が漏れ出てくる窓には、鉄格子がはまっているのですが……。
これはもしかして、座敷牢的な何かなのでは……?
そこから、小さな少女のものだと思われる歌声が聞こえてくるって、途端に犯罪臭が増してきた……。
もしもし、ポリスメン?
……って、異世界に警察を呼べるはずもなく……。
そもそもネコの私にできることって、おそらく何も無い。
だから厄介事を避ける為に、この場から立ち去るのも1つの選択肢だったのだが、私は好奇心に負けた。
窓に飛び移り、中を覗き込んでみる。
中で歌っていたのは、やはり10才くらいの少女だった。
金色の髪と青い瞳をした、まさに美少女って感じの娘で、私がイメージするお姫様を具現化したような可愛さだ。
こんな娘と百合百合してみたい。
ただ、そんなお姫様のような少女の服装は、高貴な身分の者が着るような物ではなく、その年齢には似合わない少々セクシーなものだった。
いわゆるベビードールっぽいというか……まるで娼婦を思わせる服装だ。
あ~……、ますます嫌な予感がしてきた。
これはどう見ても、変態貴族に囲われている感じだわ……。
いや、事情が分からないから、なんとも言えない部分はあるけどね……。
とにかく色々と不穏な物を感じさせるけど、今の私にできることは何も無いな……。
ここから逃がしてあげることならできるかもしれないけれど、それを本人が望んでいるのかも分からない。
少なくとも孤児になってしまえば、確実に今よりも生活の質が落ちることは、間違い無いからだ。
実際、仮にこの娘を逃がしたところで、保護者がいなければ野垂れ死ぬ可能性が格段に跳ね上がる。
ネコの私では彼女の生活の面倒をみてあげることができないから、逃がしてそれでお仕舞いなんて、そんな無責任な真似はできないのだ。
う~ん、せめて人間の身体が手に入った後ならなぁ……。
そもそも、この少女の置かれている状況が、この世界において全て合法の内ならば、私が異議を唱えるのは筋違いかもしれないし……。
そんな風に私が悩んでいると、いつの間にか歌は止まっていた。
そして私を見つめていた少女と、目が合う。
おぅ、存在に気付かれていたか。
ん? 少女が手招きしている。
そちらへ行っても、よろしいのですか?
ネコの私なら、鉄格子もすり抜けられるから、行けることは行けるが……。
大丈夫? 捕って食わない?
私は怖々と、少女に近づいていった。
すると少女の方も、おずおずと手を伸ばしてきた。
そして、私を撫でてくる。
あば~、撫でられるの気持ちいい。
私はそのまま少女に身を任せて、なすがままになっていた。
「~~~~」
うん……?
少女は私を撫でながら何事かを話しかけてきたけど、ちょっと何を言ってるのか分からないですね。
日本語でおk。
つか、私は野良ネコだから、あまり触るとダニや病気が伝染るかもよ?
そろそろ解放してくれません?
でも、少女は私の身体を掴んで離さなかった。
それどころか、私を掴む手の力が徐々に強くなってくる。
あれれ? どういうことなんです?
これ、普通のネコだったら、結構痛いと思うんですけど?
異常を感じて私が少女の顔を見上げると、そこには表情が無かった。
ただ目を見開いて、動かない表情のまま、私を凝視している。
ひえっ、これは確実に病んでる顔ですわ。
いつぞやの妹ちゃんがヤンデレ化した時よりも、更に深い闇を感じる。
彼女が一体何を想っているのかは分からないけれど、これは……こんな小さな少女がしていいような表情じゃない。
私は怖くなって、少女の手から強引に逃げ出した。
多分今の私なら、人間の手で絞め殺されるということは無いだろうけれど、精神的に危機感を覚えたので。
すると少女は、ハッとした顔をして表情が戻る。
そして自分が何をしてしまったのかを自覚したのか、私から目を逸らした。
たぶん無意識に八つ当たりみたいなことをしてしまったので、それに罪悪感を覚えているのだろう。
やっぱり彼女も、ここにいることには、納得していないのだろうな……。
だけど私には、この娘を助けてあげられない。
なのでむしろ私の方が、罪悪感を覚えてしまう。
私は「ゴメンね」と、一声鳴いて、窓の鉄格子の隙間から逃げ出した。
いずれまた、様子を見に来るからね。
後日、ここで何もしなかったことを、私は後悔することになる。
たぶん、今生で最大級の後悔を──。
今後は2日休んで、1回更新……というペースでやっていけたらいいな……と思っています。つまり、週2回くらいの更新。
まあ、家族の入退院の問題とか色々のあるので、情勢次第では不定期になりますが……。