21 成 長
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いきなりだけど、もうゴールしてもいいよね?
無理……もう無理なの……。
かれこれ3日間──アイ姉といくら戦っても、成長が実感できない。
下手な実戦よりも余っ程厳しい戦闘経験を積んでいるはずなのに、アイ姉との実力差と、自身の未熟さばかりを思い知らされる。
「もうやめてっ、 私のヒットポイントはゼロよ!!」
「そういうことを言っていられる内は、まだ余裕があるね。
血と汗と涙とかを流せーっ!!」
アイ姉の指が伸びて、鞭のように襲いかかってくる。
10本の指の複雑な動きなんて、見極めることができるはずがない。
私は転移魔法で、はるか後方へ逃げることしかできなかった。
だけどそういう逃げ方ができないシルビナは、今の一瞬で何十回もアイ姉の攻撃を受けている。
霊体だからただの物理攻撃ではダメージを受けないが、その攻撃に浄化の力が付与されていたら、その受けた攻撃の回数だけ消滅していたということになる。
「シルビナちゃんは、目で私の動きを捉えようとするから駄目なんだよ。
もう実質的に眼球は無いのだから、全身で魔力や気、音に臭いと体温、そして空気の流れとかを知覚することを意識しよう!」
『は、はい!』
うん、最低でも「万能感知」のスキルを獲得しないと、勇者よりも上の存在の攻撃は見切れないだろうねぇ……。
しかも「万能感知」の他に、「思考加速」や「予見」を持っている私でさえも、アイ姉の攻撃を完全には見切れない。
対勇者用になるべく身体能力だけで戦おうと思っているんだけど、こんなの無理やん……。
せめて最初は、ハゴータみたいにそこそこの強さの相手から始めようよ……。
結局その日も、アイ姉にボコボコにされて終わった。
そして翌日──、
「さー、今日はリゼと戦ってみようか!」
と、アイ姉は言った。
なるほど、高レベルの相手との戦いに慣れた頃に、ランクの低い相手と戦うことで、成長を実感させようという訳だね。
「それじゃあ、いっくよー!!」
実際、きつねの姿で襲いかかってきたリゼの動きに、シルビナは少しだけど反応できるようになってきている。
元々近接戦闘を得意としていた彼女は、徐々に順応しつつあるようだ。
だけど私は──、
「あれ? あれっ?」
リゼの強さが、アイ姉と大差ないように感じるのだ。
アイ姉の方がはるかに強いはずなのに、数段実力が落ちるリゼとの戦いが、まったく楽だと感じない。
つまりアイ姉は、あれでもかなり手加減していたってこと!?
あるいは私の近接戦闘のレベルが低すぎて、両者の実力の違いが分からないだけということもあるのかもしれない。
それにリゼは、アイ姉ほど手加減をしてくれなかった。
「お姉ちゃん、そろそろ本気を出していくよー」
「ちょっ!?
ぎゃあああああああぁぁーっ!!」
巨大なエネルギーを身に纏って突進してくるリゼに、私は撥ね飛ばされる。
こんなの、トラックと正面衝突するようなものじゃん……。
下手をしたら異世界転生しちゃうぅ……!!
ともかく、本気を出したリゼは、昨日までのアイ姉よりもはるかに強かった……。
結局私は実力不足を、更に思い知らされただけだったよ……。
「あう~……」
その夜私は、ベッドへ寝そべり、顔を枕に埋めていた。
そんな私の背中の上では、きつねの姿になったリゼが眠っている……。
……重い。
『アリタ、なにやら落ち込んでいるな?』
「シルビナはいいよ、私から見てもちゃんと成長しているし……。
でも私は、成長の実感が無い……。
やっぱり私には、近接戦闘は向いていないのかも……」
『じゃあ、諦めるか?』
シルビナのその声は、「私はどちらでもいいが……」と言っているような調子だった。
だけどいくら私でも、親友を殺されたことへの報復を、諦めるなんて有り得ない。
「諦めないよ。
……諦めないけど、やり方は考え直した方がいいと思い始めている……」
アイ姉が私達をリゼを戦わせた意図も、それを気付かせる為だったのかもしれない。
事実、このまま真っ当に修行しても、勇者に確実に勝てるようになるまで、どれだけ時間がかかるのか分からない。
そして残された時間は、そんなに多くないと思った方がいいよね……。
まず、どう考えても私は、魔法系のスキルを中心に戦った方が強い。
ではどうやって、勇者が得意とする近接戦闘に対処するか──なのだが……。
「……あ!」
そもそも私1人でどうにかしようというのが、間違っているのではないだろうか……?
大体、何故シルビナが一緒に修行をしているのか……。
それは2人で一緒に戦って、勇者を倒す為だ。
そしてシルビナは騎士であり、近接戦闘に関しては私よりもスペシャリストなのだから、彼女にその辺を任せることができれば……。
ただ、肉体を失ってしまい、霊体だけになっている今のシルビナでは、魔法主体の戦闘スタイルを取らざるを得ない。
まあ、『結界」などを駆使すれば、物理的な影響力を持つことも不可能ではないけれど、効率はどうしても悪くなってしまう。
それならば──。
私は部屋の隅に積まれた、ミスリルのインゴットに目を向けた。
量は十分にあるな……。
「よし、シルビナ。
新しい身体を作ろうか!」
『はあっ!?』
私の提案に、シルビナは素っ頓狂な声を上げた。




