17 その頃、南では
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あたし──シスは、海岸を走りながらも、横目に海を眺めていた。
『これが海……』
北の大森林で育ったあたしにとって、今日初めて見た海だ。
噂には聞いていたけど、本当に大きな水たまりだなぁ……。
いくら見ていても飽きない。
これだけ大きければ水が飲み放題……と思ったけど、塩辛くて飲めないそうだ。
でも、魚は沢山いて、それは食べ放題らしいので楽しみだねぇ。
だけどその前に、しっかりと仕事をしないとなぁ……。
『シスちゃん、シスちゃん、村が見えてきたよ!』
前を走っている姪っ子のリゼが、そう呼びかけてきた。
私達はお姉ちゃんに頼まれて、南の海岸沿いに点在する漁村を見回ることになっている。
なにやら北方の村々が「帝国」とかいう勢力からの襲撃を受けているらしく、念の為に南方も警戒する必要が出てきたのだという。
そこで戦闘力や機動力の面を考慮した結果、あたしが選ばれたという訳だ。
お姉ちゃんとしては、この仕事を私1人に任せたかったらしいが、リゼも付いてきている。
リゼは能力こそ私よりも上だけどまだまだ子供だし、人間同士の争いにはあまり巻き込みたくなかったようだ。
でもあたしがノーザンリリィ辺境伯領を出ようとした時点で、リゼにはその動きを悟られてしまった。
あの子は「ついていく」と言って聞かず、仕方が無く連れて行くことになったのだ。
こうならないようにお姉ちゃんとは、密かに「念話」でやりとりしていたのに、それも無駄だったなぁ……。
だけどリゼには、あたしが使えない転移魔法も使えるし、この子がいた方が助かるのも事実なんだよねぇ……。
実際、かつてリゼがお姉ちゃん達と一緒に行った海のリゾート地?……とかいうところまで転移してもらい、そこからキツネの姿になって、走りながら西へ向かって移動している。
予定では海に辿り着くまで、更に数日かかるはずだったのだから、かなりの時間短縮だ。
で、リゾート地を出発してから最初に辿り着いた村には、まだ襲撃された形跡が無かった。
そしてあたし達が村へ入ろうとすると、子供達は物珍しげに近づいてきて──、
「あ~、変なキツネー!」
と、言った。
「変な」とはなんだ。
だけどあたし達を撫でてくれたので、良しとする。
でも、尻尾は強く握るな!
一方大人達は──、
「こら、あっちへ行け。
しっしっ!」
と、あたし達を追い立てた。
キツネの姿で人里に入ろうとすると、大抵こういう扱いを受ける。
おそらく作物を荒らしたり、家畜が襲われたりすることを恐れているのだろう。
そんなの、余っ程お腹が減っている時くらいしか、やらないのに……。
ともかくこの村は大丈夫そうだ。
次、行ってみよう。
それからもあたし達は、西へ西へと向かって進んでいく。
いくつもの村を通り過ぎ、丸1日が経過し頃──、
『シスちゃん、ここ誰もいないね……』
『そうね……。
お姉ちゃんの危惧していたことが、当たってしまったみたい……』
廃村のように、誰もいなくなった村へと辿り着いた。
村は不気味に静まり返っているけど、それでいてつい最近まで日常生活が続いていたことを感じさせる。
実際、作りかけの魚の日干しがあちこちに見られた。
村人達は直前まで作業をしていた……ということなんだよね……。
手遅れだったか……。
しかしリゼには、緊張感はあまり無かった。
『誰もいないのなら、この干してあるお魚、食べてもいい?』
『駄目……ということもないのかな?
このままじゃ腐っちゃうし……。
いや、それよりもこれからのことを考えてよ!』
う~ん、ここから更に西の方の様子を見に行った方がいいのだろうか?
それとも東に戻って、他の村で襲撃に備えた方がいい……?
そんな風にあたしが迷っていると、
『シスちゃん、シスちゃん。
沖の方に船がいるよ?』
『船?』
あたしの索敵では、ちょっと分からないなぁ……。
ということは、2~3km以上も岸から離れているってことなんだろう。
『たまたま通りかかった訳じゃなくて?』
『さっきから動いていないし、夜なのに灯りもついてないのは変だと思う』
リゼには索敵だけではなく、普通に肉眼で見えているらしい。
あたしには全く見えん……。
でも確かに灯りが見えないのは、変だねぇ……。
それじゃあ夜の闇の中に紛れてしまって、他の船に衝突されるなんて危険性も有り得るから、普通はやらない。
だから闇に紛れることで得をする連中なんて、やましいところがあると自白しているようなものだ。
つまりそいつらは海上に潜伏して、なにかを企んでいるのかもしれないということだ。
そんな船が、この無人となった村と無関係だとは考えにくい。
『リゼ、転移でそこまで行ける?』
『大丈夫だよー。
臨検する?』
『うん、行ってみようか』
あたし達は直接船に乗り込んで、何をしているのかを確かめることにした。
ちなみに強さの基準はアリゼを「100」とすると、アイが「70」、リゼが「40」、レイチェルが「35」、アリタが「20」で、シスとグラスが「10」くらいのイメージ。




