16 勇者の運命
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アリゼ様の出現によって、敗北が確定していた私達の状況は一気に逆転した。
現在は勇者の方が追い詰められている。
なにせアリゼ様によって、軽々と片腕を吹き飛ばされているのだから……。
あれは回復魔法でも、治すのには苦労するだろうな……。
「さて……1つ質問に答えてください。
攫った我が国民は、帝国内ですか?」
「……だとしたら?」
「無条件で全員を無事に返還すれば、まだ情けをかける余地はあります。
しかしその条件がのめないと言うのならば、私は帝国を滅ぼすしかなくなりますね」
「さ、さあ……それを判断するのは、皇帝であって僕ではない」
勇者はアリゼ様から目を逸らす。
彼女のあまりの迫力に、直視することができなくなったようだ。
実際、身体も小刻みに震えている。
「それならば、あなたが皇帝にお伝えください。
我が国に対して間違った回答をするようならば、覚悟しておくように……と」
え、何を言ってるのだ、この人?
勇者をこのまま帰国させるなんて、とんでもない!
しかしアリゼ様には、考えがあるようだ。
「ぼ、僕を逃がすというのか……?
いいのか、そんなことをして?」
「いいんですよ、あなたなんていつでも潰せますし、それにあなたを倒す役目は私ではありません」
と、アリゼ様は、倒れているアリタの方を見た。
あくまでも私を殺したことへの報復は、アリタにやらせるということなのか……?
「ただしあなたをこの場から逃がすのは、2度とこの国に入らないことが条件です。
あなたには既にマーキングをしているので、今度この国に入ったらすぐに分かりますよ。
その瞬間に潰しますので」
「くっ……!」
勇者が短く呻いた瞬間、その姿が消えた。
転移魔法で国に帰ったのだろうか。
アリゼ様の言葉通りなら、勇者は2度とこの国には入れないだろう。
……あれ?
ということは、私とアリタは勇者を倒す為に、帝国へ行かないと駄目ということなのか?
そんなことを考えていると、アリゼ様が私の方を見た。
私の姿が見えている!?
「シルビナさんですね?
娘のことでご心配をおかけしました」
と、アリゼ様は頭を下げる。
やっぱり見えているぞ!?
というか、国の実質的なトップに、頭を下げさせるとか──!?
『と、とんでもないです!
むしろ私の方が、娘さんに大変なご心配をおかけした上に、こんなことに巻き込んでしまって……!!』
私も慌てて頭を下げる。
「……いいのですよ。
結局は無謀なことをしたアリタの責任なので。
今回は痛い目を見て、戦いの現実を学んだと思います。
次に勇者と戦う時は、もう油断はしないでしょう」
『やはり……アリタをまた勇者と戦わせるつもりなのですか?』
「まあ……この子が望めば……ですけど。
でも、昔から無気力なところがあるこの子が、本気でやりたいというのなら、応援するのは吝かではないのですよ」
『しかし……危険なのでは?』
勇者と戦うのならば、再び命の危険はあるだろう。
親として、それはどうなのか……と思う。
「勿論危険はありますが、今回のように無策で突っ込ませる訳がないでしょう?
次はちゃんと準備をさせますよ。
しっかり対策を立てれば、勝てない相手ではないと思いますし」
確かにアリタも途中までは、勇者と互角だった。
準備を整え、油断さえしていなければ、負ける要素は無いのだろう。
「それに……何年か前にアリタのことを、鑑定士に視てもらったことがあるのですけどね。
そこに書かれていた称号を考えると、勇者との戦いはやはり避けられないではないかと思いまして……。
実際、こうして勇者と戦った訳ですし……」
『称号……ですか?』
高レベルの鑑定士が視た場合、ステータスやスキルだけではなく、その人物がこれまで行ってきたことを端的に表す、「称号」も視ることもできるという。
まあ、その称号自体には何も効果は無いらしいのだが、時としてその人物の未来に関わることが記されている場合もあるらしい。
「アリタの持っていた称号の中に、『勇者の卵』というものがありました」
『な──!?』
「これは他の姉妹も持っていない、アリタだけの特別なものです。
だから勇者との戦いは、おそらく運命なのでしょうね……」
まさか……アリタは将来勇者になるのか?
その試練として、あの勇者を──いや、本当は偽の勇者なのかもしれない。
それを倒すことを、宿命づけられていたというのか!?
「あ、これはアリタには秘密ですよ?」
だったら何故私にそれを話す!?
そう思ったのだが、アリゼ様は、
「どうかこれからも、アリタの助けになってやってください」
と、再び頭を下げた。
ああ……そうか。
どうやら彼女は私を信頼し、そしてアリタのことを託してくれたようだ。
『当然です!
私はアリタの騎士なのですから!!』
今度は──今度こそは、アリタと一緒に私も勇者と戦うぞ。
明日は所用の為、更新はお休みすると思います。




