15 最 強
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悪夢を見ているようだった。
私は帝国兵を片付けて、アリタの助太刀をする為に合流することにした。
ところがいざ現場に駆けつけてみれば、アリタと勇者の戦いは凄まじく、私が手を出せるようなレベルではなかった。
勇者の実力は想像していたよりもはるかに上で、私と戦った時は少しも本気を出していなかったのだということを思い知らされた。
しかしアリタも、負けてはいなかった。
むしろ多彩なスキルで、勇者を翻弄しているようにすら見える。
実際、勇者はアリタにまったくダメージを与えることができない一方で、アリタは少しずつではあるが、勇者にダメージを与えている。
このままなら勇者は攻めあぐねて、良くて引き分けに持ち込むしかないのではなかろうか。
アリタはここまで強かったのか……!!
これならば勇者に勝てる──私がそう思い始めた時、勇者の身体は巨大な炎へと変化した。
だが、それすらもアリタには通用していない。
が──勇者は突然アリタの背後に現れた。
『アリタ、後ろ──っ!!』
私は叫んだけど、それでは遅かった。
今まで通用していなかった勇者の攻撃が、あっさりと通ったのだ。
アリタは背中を剣で刺し貫かれ、それで勝敗は決してしまった。
実際、アリタが受けた傷は、明らかに致命傷だと思う。
流れ出ている血液の量が、それを物語っている。
私はアリタを助ける為に動こうとしたが、それはアリタに止められた。
確かに私が見た勇者の情報は、国にとって有益な物となるだろう。
だけど私の目の前で、アリタが力なく倒れる。
『アリタっ!!』
私にそんな親友の姿を、見過ごせというのか!?
そもそも私の為に、アリタは勇者と戦うことになったんだぞ!?
『くっ!
済まん、命令は守れないっ!!』
私は魔法剣を発動させた。
すると剣を振り上げ、アリタにトドメを刺そうとしていた勇者の動きが止まる。
「……なんだ?
何かいるのか?
……幽霊だと?」
──!
鑑定を使われた。
たとえ魔法剣を消したとしても、鑑定で位置はすぐに把握されるのだろうか?
まあいい、どうせ勝ち目なんか無いんだ。
勇者が持つあの剣は魔力を斬るらしいので、もしかしたら霊体となった今の私の身体にも効くかもしれないな……。
私は今度こそ消えることになりそうだ。
それでもアリタが死ぬところを、この目で見るよりはいい。
ところがその最期の瞬間は、いつまで経っても訪れなかった。
「な……!?」
驚愕に上擦る勇者の声──。
だか驚いたのは私も同じだ。
倒れたアリタの影が広がり、そこからメイドが生えて来る。
なんだ……これ──!?
いや、その姿はアリタを大人にしたような感じて、瓜二つと言えるくらいに似ていた。
まさかこれが、アリタの母親か!?
というかこの人、学院の卒業式に来賓として訪れた女王陛下の、すぐ近くにいたような気がする。
あの時は距離が離れていたから確信はなかったけど、なんとなくアリタに似ていると感じたことを今思い出した。
「う……!」
アリタが呻いた。
今一瞬、彼女の身体が淡く光ったような気がする。
回復魔法の光……?
だとしたら、アリタは助かるはずだ……!
「な、なんだお前は……?」
「この子の身内ですよ。
よくもまあ……ここまでやってくれましたね……」
あの勇者が、焦りの表情を浮かべていた。
だがそれも当然だろう。
私もアリタの母親から発せられる怒気を感じて、身体が押し潰されそうな感覚を味わっている。
もしも肉体があったとしたら、胃の内容物を吐くか、小水を漏らしていたかもしれない。
「お前が4姉妹とかいう奴の1人か……?
どれ……え──?」
勇者が愕然とした顔になる。
おそらく鑑定を使ったのだと思うが、一体何を見たんだ?
「ば、馬鹿なっ!?
なんだこの桁外れの数値は!?
まさか……まさか、お前が魔王なのか!?」
まさかの魔王認定!?
勇者はアリタを鑑定した時ですら平然としていたのに、あの動揺の仕方……。
余っ程の鑑定結果だったのだろうな……。
「魔王ではありませんよ。
私は魔族とは敵対していますので。
ただの女王陛下専属の侍女……アリゼと申します」
「そんな訳があるかっ!!
それでは魔王じゃなければ、一体何だと言うんだよ!?」
「……大変不本意ですが、女神の眷属らしいですね」
「つまり邪神の使徒か!?」
「……もう、それでもいいです」
何故か反論を諦めたような調子の、アリタの母──アリゼ様。
「まあ、私がなんなのかについてはどうでもいい。
今は勇者──あなたの処遇です。
この国を散々荒らし回って、ただで済むとは思っていませんよね?」
「ぎっ、ガアッ!?」
アリゼ様の右手が一瞬ぶれたように見えたその瞬間、勇者の左腕が吹き飛んだ。
まさかあのアリタですら捉えるのに苦労した勇者が、反応することすらできずに、こうも易々と……っ!!
「なっ、な……っ!?
僕の腕がァっ!?」
「あら……結構脆いですね?
私がちょっと本気を出して、寸止めで小突いただけでそうなるなんて」
それって「小突いた」と言うのか!?
まさか当ててすらいないのに、あの威力とは……っ!!
いや、もしかしたら、放出された「気」とか「魔力」は当たっているのかもしれないが……。
それとも、風圧だけであんな威力を出したのだろうか?
「ば……化け物め……!」
いかん……。
思わず勇者に同意してしまったぞ……。
土日は定休日です。他の作品は更新します。




