13 勇者への挑戦
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私はシルビナをその場に残し、勇者に向かって走り出した。
正面から近づいていくと、50mくらいまで接近した時点で、勇者も私の存在に気付いたようだ。
勇者の索敵能力は、そんなに高くないみたいだね。
さて、挨拶代わりに、ちょっと挑発してみようか。
土魔法で拳大の岩石を生み出し、それを弾丸の如きスピードで撃ち込んでみよー!
高速回転も加えているから、かなりの威力にはなるはずだけど、まさかこの程度では死なないよね?
おっ、剣で弾いた!
凄いけど「結界」での防御を選ばなかったってことは、魔法防御が苦手なのかな?
それとも、剣術に自信があるからなのか……。
ともかく挨拶は終わった。
私は左へと曲がり、茂みの中に突っ込んだ。
「万能感知」によると、この先に少し開けた場所があるから、そこで戦うことにしよう。
勇者は……よし、ついてきているな。
ちょっと挑発しただけで、無警戒に追ってくるとは、好戦的な奴だねぇ。
よし、目的の場所に到着。
ふむ……特に私の不利になりそうな、地形的要素はなさそうだ。
そして数十秒後に、勇者が現れる。
……やっぱり、日本人の顔だな。
年齢は私と同じくらいの、13~14才ってところだろうねぇ。
その若さに似合わない、ヤバイ気配を漂わせている。
「今晩はー。
君が勇者でいいんだよね?」
「そうだが……思っていたよりも幼い娘だな。
その若さで僕に喧嘩を売るなんて、無謀すぎないかい?
いや、さっきの魔法はなかなか凄かった。
ステータスも……なんだこれ……?
なるほど、自信を持つのは分かるが……やはり無謀だね」
……う~ん、なんだかこの勇者の態度、何処となく芝居がかっているなぁ。
中二病の一歩手前というか、あるいはもっとこじらせた何かというか……。
とにかく勇者という身分に、陶酔している感じだ。
それにしても今、勇者は「鑑定」を使用したっぽいのに、そこまで動揺していないってことは、数値上での戦力は互角かそれ以上ってことなのかな?
だけど私のスキルの多さを見て、あそこまで平然としていられるとも思えないので、スキルや称号はやっぱり見えていないのかもね。
私の表面的な強さしか、あいつは理解していないと思う。
どのみち私と互角の身体能力ってだけでも化け物なので、精神的に揺さぶっておこうか。
「まあ、御託はいいよ。
で、君は日本の何処から召喚されたんだい?
あの平和な国に生まれ育って、君のような凶暴な人格に育つのは、ちょっと理解できないねぇ……。
それともチート能力を手に入れたことで、調子に乗ってしまったのかな?」
「なっ!?」
勇者の顔色が変わる。
先程までは余裕たっぷりで、何処か人を馬鹿にした態度だったけれど、今は動揺を隠そうとしつつも隠しきれない──そんな感じだ。
案外、メッキが簡単に剥がれるタイプじゃないかな、こいつは?
おそらく日本にいた頃は立場が弱い人間で、それを見透かすような私の言動は、彼にとって気持ちの良くないものだったのだろう。
「貴様……どこまで知っている?
まさか、転生者なのか?」
「うん、それに近い存在だと思うよ」
私も転生してはいるけど、勇者は「異世界転生」という意味で言っているのだろうし、それならば条件に当てはまるのは母さんだけだ。
「そうか……ならば──勇者は2人もいらない!」
勇者の姿が、一瞬で目の前まで迫って来る。
たぶん常人ならば、消えたとしか見えなかっただろうね。
そしてシルビナがそうだったように、全身を斬り刻まれていた──。
しかし勇者の剣は、空振りに終わった。
でも危なっ!!
シルビナから話を聞いていなかったら、避けきれなかったかも。
しかもいきなり首を狙うなんて、殺意が高いなぁ……。
まあ、私も勇者を生かしておくつもりはない。
遠慮無くお返しをさせてもらおう。
私は勇者に向けて熱線を撃ち放った。
「くっ!」
これも避けるのかぁ。
でも構わずに、私は連続して熱線を撃つ。
勇者はそれを躱しながら、後退していった。
でも私は、接近戦がそんなに得意ではないから、その方がありがたい。
だけど勇者も、別に遠距離からの攻撃が不得意な訳でもないようだ。
「雷光!」
上空から雷が、私目掛けて落ちてくる。
勇者と言えば、雷撃魔法だよねぇ……。
強力な攻撃だけど、私の「結界」を破壊するほどではない。
それよりも、これがシルビナの命を奪った魔法か……。
それを私に向かって使ったことを、後悔させてやる!
私はお返しに「雷撃」のスキルで、勇者に向けて電流を撃ち出した。
「お、これも躱すのか」
やはり勇者の素早さは厄介だなぁ。
それでも数撃ちゃ、当たるんじゃないかな。
私は右手で電流を撃ちつつ、左手からは空気の塊を連続で撃ち続ける。
電流を使いながらだと、あまり複雑な魔法は同時に使用できないので、空気を勢いよく押し出すだけの簡単な魔法だ。
この空気の塊の殺傷力は低いけれど、目で見ることが難しいそれを、完全に回避することは難しいと思う。
それが命中すれば、さすがに勇者の動きも阻害されるだろう。
事実、勇者の動きは乱れつつあり、これならば電流の直撃も時間の問題──、
「この──地爪!!」
その瞬間、勇者を中心にして、地面から無数の何かが突き出した。
勇者は「地爪」と言っているけど、爪と言うよりは、サメの背びれのようにも見える
それは地面が変化したもので、しかも高さが3mはあろうかという、巨大なものだった。
それに阻まれて、私の電流も何もかもが霧散する。
しかも私の方にも迫ってきたので、攻撃を中断して後退するしかなかった。
……なかなか一筋縄ではいかないねぇ……。




