12 勇者来る
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カタガヌ村での宿泊2日目。
私とアリタは今晩も泊まり込んで、勇者の襲撃を待つことになった。
他の村へ行っても、そこに勇者が現れる確証はないからな……。
そしてアリタは、また私を残して眠っている。
寂しい……。
それでも有り余った時間で必死に訓練した結果、なんとかスケッチブックに触れている感覚が得られるようになった。
どうにか指先に、「結界」を形成できるようになりつつあるということだ。
ただ、ページをめくれるようには、まだ至っていない。
私はまだまだ悪戦苦闘することになりそうだ……。
そしてそれは、何事も無ければ朝まで続く。
だがその修練は、日の出があと3~4時間に迫った頃、それ以上継続できなくなった。
アリタが目覚めたからだ。
「!!」
『あ……アリタ!?』
眠っていたアリタが、突然ガバリと跳ね起きる。
私はその兆候を、感じ取ることもできなかった。
「……来た!」
『来たのか、勇者が!?』
「うん、たぶんそう。
北の方から村に接近してくる集団がいる。
まだ3kmは離れているけどね……」
『そ、そんなところまで分かるのか……!?』
まったく……アリタの索敵能力は、常識外れだな……。
「母さんなら十数kmはいける」
『なんと!?』
どうなっているのだ、この親子は……!?
「それじゃあ、準備をして迎え撃つよー!
テクマ●マヤコン・ムーン●リスタル・メタモ●フォーゼ!!」
アリタが謎の呪文を唱えると、彼女が纏っていた寝間着が消え失せ、下着姿になっていた。
……と思ったのもつかの間、次の瞬間にはアリタはいつの間にか旅用の服を着ている。
『な……!?
今、どうなったんだ……!?」
「空間収納に着ていた服だけを収納して、それと入れ替わるように新しいのを出しただけだよ。
で、転移魔法も併用して、私に重なるように服を転移させた感じかなぁ。
着替えが面倒臭い時に、一瞬でできるようにと生み出した技なんだ」
『そ、そうか』
うむ、説明を聞いても、「そんなことは不可能だろう!?」という感想しか出てこない。
しかしそれができるアリタだからこそ、勇者に対抗することができるのだと確信できる。
「さあ、他の人達に気付かれる前に、一気に村の外まで転移して勇者を迎え撃つよー!」
『ああ!』
私達にとって、運命の戦いが始まった。
アリタの転移魔法で森の中へ移動した私達は、そのまま北へと進む。
そして暫くすると、
「止まって」
アリタの合図で、身を潜める。
そして前方の様子を探ると、100m以上前方の木々の間に光が見えた。
「あ~、ヤバイ色のオーラを、凄い勢いで出しているのがいるなぁ。
あれが勇者か」
『ここから見えるのか?』
「黒髪の少年でしょ?
見える見える」
本当に見えているようだ。
相手が照明の魔法を使っているとはいえ夜中の森の中だし、距離もかなり離れているのだが……。
「私は勇者の相手をするから、シルビナは雑魚を始末して。
まだ能力は使いこなせていないけど、『霊視』のスキルを持っていない人には、シルビナの居場所を感知するのは難しいから、なんとかなるでしょ。
あ、私から500mくらい離れたら、自動で引き戻されるから気をつけてね」
『お、おう、任せろ!』
私がそう答えると、
「じゃあ、行ってくる!」
アリタは物凄い速度で飛び出して行った。
……さて、私も行くか。
勇者は……アリタが引きつけてくれた。
その部下の帝国兵達は、その場へ置き去りにされている。
今なら安全に近づけるな……。
不意打ちは騎士道に反するかもしれないが……今の私は死人。
こだわっても仕方がない。
それよりも民を守る為に、敵の排除を最優先にしよう。
そもそもアリタが遠くへ離れたら、私もこの場にとどまれなくなるみたいなので、そうなる前に早く片付けなければ……!
私は帝国兵の背後に回り込む。
そしてそこで、魔法剣を発動させた。
「なっ……空中に炎が……!?」
帝国兵は、炎の灯りには気付いたが、私の姿は見えていないようだ。
そう、今私は炎を手にしている。
本来ならば魔法剣は、剣に魔法を付与させて攻撃力を上げる技だが、今の私には剣を持つことができない。
だから魔法の炎で剣を形作り、それで敵を焼き切るのだ。
今回は帝国兵を捕縛して情報を引き出す必要も無いから、容赦はしないっ!!
そんな訳で私は、帝国兵の首筋目掛けて斬りかかった。
1人目は──即死。
アリタから借り受けている魔力のおかげか、威力については申し分ない。
うむ、こちらの攻撃さえ通用するのなら、問題無く彼らを殲滅することができるだろう。
前回戦った時点で、帝国兵の実力は低かったからな。
しかし──、
『っ!?』
何かが光った瞬間、全身に焼けるような痛みが走った。
魔法!? 今の私に効くって、浄化魔法か!!
いかん、私が手にしている炎の剣は、帝国兵にとっていい目印だ。
幸い身体が消滅するほどではなかったが、何度も食らうのは危ない。
私は炎の剣を消しつつ、浄化魔法を使ったと思われる者の背後に回り込む。
よし、やっぱり私の姿は見えていない。
それならば──、
「がはっ!?」
攻撃の瞬間だけ、炎の剣を出せばいい。
そして剣を消しつつ移動すれば、相手は私の位置を見失う。
さて……これをあと何度か繰り返せば、余裕で勝てるな。
それよりも勇者と戦うアリタの方が心配だ。
早くこいつらを片付けて、加勢に向かうぞ。




