11 辺境の村の夜
ブックマーク・☆での評価・いいね・感想をありがとうございました!
今回は途中から視点が変わります。
私達はカタガヌ村の宿屋へ、宿泊することにした。
ここで勇者を待ち構えて、そしてあわよくば討つ──それが目的だ。
まあ現状では、勇者が来るかどうかは分からないけれどね……。
で、私が泊まる部屋は、村で唯一の宿屋の1番高級な部屋らしい。
まあ田舎の宿屋だから、最高級のホテルのような豪華さは期待できなかったけど、清潔で寝心地のいいベッドと美味しい食事があれば、それだけでも十分だよ。
「ふ~ん、結構いい部屋だね」
1人用の部屋だから狭いけれど、私はどちらかというと狭いところが好きだ。
トイレの個室とか、あれくらいの狭さの中に収まっていると、不思議な安心感がある。
他人が入り込む余地が無いというところが、何者にも邪魔されずに自分の世界に浸れて良いのかもしれないねぇ……。
いや、これからは常にシルビナが一緒だけどね。
でも彼女ならばいいや。
で、そのシルビナだが、何か複雑な顔をしていた。
『…………』
「どうしたの、シルビナ?
変な顔して~」
『いや……アリタは、本当に殿下の妹なんだな……と思って。
村中の人が歓待してくれたが、あの人達は勇者を倒す為に、国によって集められた名だたる騎士達なんだよな?
私では絶対に勝てないほどの、強者もいた……。
そんな者達ですら、アリタには礼を尽くしていることに驚いた』
「まあ……騎士と言うか、母さん直属の部下も多いけどね。
強いのは大抵そっちだよ~」
『……お前の母親は、一体なんなのだ?
勇者の対策を主導しているのも、その人なんだろ?』
「う~ん、この国の実質的な支配者。
クラリス母さんは、その代理……って言ったら信じる?」
『そ、それは……』
シルビナは口籠もる。
既に本物の身体が無いのに、唾を飲み込む音が聞こえるのではないかと思えるほど、彼女の喉は大きく動いた。
「いや、今は無理して信じなくてもいいよ~。
実際に会ったら、嫌でも理解できると思うし」
『そ、そうか……。
今から怖くなるな……』
「でもそんな人だからこそ、勇者は絶対に母さんには勝てない。
だから勇者が母さんと接触する前に、私達が先に勇者を倒さないと……ね。
先を越されるのは嫌でしょ?」
『う、うむ!』
シルビナは意気込むけど、勇者が現れてくれないと、その意気込みも無駄なんだよなぁ……。
私、シルビナ・ナタリーは、アリタのスケッチブックを凝視していた。
アリタは先に眠っている。
だが、死人である私は眠ることができない。
だからアリタは、私の為にスケッチブックを用意してくれた。
彼女が眠っている間に、これに描かれた「びーえる」絵を楽しんでくれ……という訳ではない。
何故ならば、実体が無い私には、そのスケッチブックをめくることができないからだ。
ただ、アリタは、
「魔力を上手く使えば、めくれるようになるから頑張ってね~」
と、言った。
スケッチブックの中身を見たいのならば、魔力の扱いを必死で身につけろという訳だ。
目の前に心の底から欲する物があるというに、それに触れることができないとは、なんという苦行……!!
いや、魔力の扱いを習得すれば、それで済むこと……!!
なんとしても、このスケッチブックをめくってみせるぞ……!!
しかし私がスケッチブックに触れても──いや、触れられない。
手はすり抜け、その下にあるテーブルへと突き抜ける。
では、どうすればいいのかというと、アリタがくれたヒントは「結界」だった。
それは防御魔法であるが、剣などによる物理的な攻撃も受け止めることができる。
つまり、触ることができるのだ。
ただ、盾のような大きな「結界」を作っても、それではスケッチブックをめくることができない。
必要なのは、指先ほどの小さいものだ。
私の指先に「結界」を作り、それを指の動きに連動させることができれば、薄い紙を挟んで動かすこともできる……はずだ。
だがそれは、「箸」というアリタがよく使っている食器で、小さな米粒を掴むのと同じくらい繊細な作業になるだろう。
いや、先程からいくら頑張っても、「結界」をまともに形成させることすらできていない私には、それ以前の話ではあるのだが……。
結局その晩は、スケッチブックの中身を覗くことは叶わなかった……。
そんなあぁぁぁぁぁーっ!!
翌朝、陽が昇ってからかなりの時間が経っても、アリタは目を覚まさなかった。
思えば学園にいた頃も、よく屋根の上で昼寝をしていたし、寝るのが好きなのかもしれない。
いや……私のことで、疲れているというのもあるかもしれないな……。
アリタが私の死を知った時、一体どんなことを想ったのか──それを考えると申し訳ない気持ちになる。
「う……ん」
その時、アリタが寝返りを打ち、彼女を覆っていたシーツがめくれた。
しかしシーツに触れない私は、かけなおしてあげることができない。
このまま放置すべきか……それともそろそろ彼女を起こすべきか……。
実に悩ましい。
それにしてもアリタの寝間着の裾がめくれ上がって、太股が露出してしまっている。
同性でもちょっとドキっとしてしまうくらい色白の綺麗な脚だが、なんとも無防備でだらしない姿だ。
この姿だけ見ると、あんなに超絶的な能力を持っているとは思えないな……。
年相応の女の子にしか見えない。
ただ、胸のサイズは年相応ではないけれど……。
既に私と同じくらいのサイズはある。
私はもうこれ以上成長できないから、数年と待たずに追い抜かれるだろうな……。
そんな風にアリタの寝姿を見つめながらあれこれと考えていたら、昼過ぎになってしまった。
さすがにそろそろ起こそうか……。
米はこの世界で既に発見されています。かなり前にクラリスが「親子丼」について言及しているので、その時点で実用化されていたということですね。
新作というか、昔書いた作品を加筆修正して投稿し始めました。
『潜夜鬼族狩り』https://ncode.syosetu.com/n7378hl/
週1回程度の遅いペースでの更新ですが、暇つぶしにどうぞ。




