10 次の開拓村へ
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『まさかアリタが、王女殿下の実の妹だったとは……。
今までのご無礼、お許しください!』
私とレイチェル姉さんの関係を知ったシルビナは、深々と頭を下げた。
腰が鋭角に曲がっている。
「ちょっ、やめーい!」
『おぶっ!?』
私はズビシッと、シルビナの頭に手刀を落とす。
これは僅かに浄化の力を込めたので霊体にも効く。
『!? !?』
だがそんなことを知るはずもないシルビナは、実体が無いのに痛みを感じていることについて混乱していた。
「シルビナ……親友からそういう態度を取られても、嬉しくない」
『し……しかし』
シルビナはまだ納得していない。
彼女は武人系のキャラだから、変なところで頑固なんだよなぁ……。
それじゃあ……こうしようか。
「シルビナ、今から君を私専属の騎士に叙任する!」
『えっ、私が騎士に!?』
「実力的には申し分ないと思うよ~。
そして私の騎士になったからには、態度は普段通りでいい。
これは命令!」
そんな私の言葉を受けて、シルビナは固まる。
なにやら葛藤しているようだけど、暫くして彼女は、答えを出したようだ。
『め……命令なら仕方がないなぁ』
よし、折れた。
シルビナは騎士道を重んじるが、直情的で単純なところもあるから、言い訳を与えてやれば多少は融通も利くようになる。
でも普段は堅物な面も強く、それで損をしていると感じる部分もあった。
これは私が気をつけて、柔軟な考え方を身につけさせないと、今後も色々と苦労するだろうなぁ……。
それから私達は、次の村へと向かう為に、再び空を飛んだ。
ヘイローから東にある村は、既に3つほど勇者によって潰されているらしいので、目的地は更に東の村ということになる。
こうなると陽が沈むまでに、辿り着けるかどうか……。
しかも魔物を見つけたら戦闘訓練を兼ねて駆除していくのだから、更に時間はかかるだろうねぇ……。
結局、私達が次の村に辿り着いたのは、すっかり夜になってからだった。
辿り着いたのはカタガヌという開拓村だ。
村の入り口には門番が立っていた。
つまり勇者による襲撃は、まだ受けていないということだ。
で、辺境の地では魔物や猛獣、山賊などが出現することも多い為、村の周囲を柵や塀などで囲まれていることが多い。
このカタガヌも同様で、基本的には正門などの決まった場所以外からの出入りは、認められていないようだ。
更に夜が深くなると、その正門さえも閉ざされてしまうので、ギリギリ間に合ったと言える。
だが、こんな辺境に女の子が1人で訪れれば、普通はそれだけで怪しまれる。
良くて厳重な所持品検査、最悪の場合は村に入れてもらえないなんてことも有り得るのだが……。
ん? 今この門番、見えないはずのシルビナの方を見た?
いや、というか──、
「……なんでメイド隊が門番をしているの?」
「えっ!?
あの……その……」
門番の女性は衛兵の姿こそしていたが、メイド隊の中で見たことがある顔だった。
彼女はなんとか正体を隠そうとしていたようだが、私に嘘を吐くという無礼を働くことに罪悪感を抱いているらしく、引き攣った作り笑いを浮かべた顔が、たちまち冷や汗に濡れていく。
「……分かっているよ。
母さんの命令なんでしょ?
もしかして村人全員がメイド隊に入れ替わって、勇者を待ち伏せしている?」
それが図星だったのか、彼女は大きく息を吐いた。
そしてもう隠す必要もないとばかりに、ぶっちゃける。
「はい、お嬢様の推測は概ね正しいです。
ただ、さすがに全員がメイド隊ではありません。
国の騎士も相当数投入されています」
「ふ~ん、じゃあ母さんもこの村にいるの?」
「いえ、襲われるのがこの村だと決まっている訳ではないので、北方の開拓地の何処が襲われてもすぐに駆けつけられる位置で、メイド長は待機しております」
「あ~、それじゃあ他の村にも、メイド隊が連絡要員として配置されている訳だね?」
「その通りでございます」
なるほど、母さんが考えている勇者への対策方法が、大体見えてきたぞ。
襲われる可能性がある村の住人を避難させた上で、メイド隊や騎士を村人に偽装させて配置し、襲撃を待ち伏せする。
ただ、それだけでは強大な力を持つ勇者には対処できないので、いざという時にはメイド達が念話で母さんに一報を入れて、転移魔法で急行してもらうという手はずなんだろう。
その為に母さんは、北方の何処から念話を送っても届く場所にいる訳だね。
そしてその念話を確実に受け取る為に、通常の念話はシャットダウンして、緊急の念話だけを受信できる体制になっているのだろう。
私が念話を送っても、留守電みたいなのしか返ってこなかったのは、そういう理由か。
しかしこの作戦、開拓民は避難しているので、これ以上一般人の犠牲者は出ないというメリットはあるけれど、勇者は「鑑定」のスキルを持っているらしいので、不自然に強いメイド隊や騎士の存在から、罠だと看破される可能性もある。
そうなるとこれ以上の襲撃は無いかもしれない。
まあ……勇者が自身の強さを過信して、襲撃してくる可能性もあるけれど……。
どのみちここで待機していても、勇者に会えるかどうかは賭けだな……。
「ねえ、母さんは何処にいるの?」
「それはちょっと……分かりません。
ご自身で、各地を見回っておられるようなので……」
「あ~……」
まあ母さんなら、念話が届く範囲でそうするだろうな……。
母さんと一緒なら、すぐに勇者の情報が入ってくると思ったけど、現状では合流するのは無理か。
いや、そもそもなんでも母さんに頼るのは良くない。
シルビナの仇は、私とシルビナ自身でとらなきゃ。
むしろ「子供が首を突っ込むな」と、止められるかもしれないから、母さんと接触しない方がいいかもねぇ……。
「じゃあ今晩は疲れたからこの村に泊まるけど、いいよね?」
「お嬢様のお力ならば、何があっても問題は無いでしょう。
どうぞ、ごゆっくりお休みください」
そんな訳で私達は、この日はカタガヌの村に泊まることになった。
土日は定休日となります。




