9 ゴーストでバスター!
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私達が遭遇した魔物は虎……ではなく、鹿でした。
確か「人面鹿」と言う、名前そのまんまの存在だ。
某もののけな姫に出てくる、シ●神に近いねぇ……。
なんでも増えすぎると森の緑を食べ尽くしちゃう上に、人里に降りてきて畑も荒らすとかで、農民からは駆除が推奨されている魔物だ。
魔物というか、ただの害獣と言った方が正しいような……。
実際、魔物と動物の判断基準が、いまいち分からないんだよね。
もしかしたら、人間にとって害があるかどうかだけの差なのかもしれない。
……ん?
だとすると魔族も?
まあそれはともかく、その人面鹿が10頭ほどいた。
遠慮無く狩ってしまおう。
「まずはシルビナの能力を試してみようか?」
『能力?
私の能力ってなんだ?』
「まあ、それは実践してみれば分かるよ。
これからちょっと、シルビナのことを私が操るからね?」
『う……うむ。
分かった……』
私は「死霊魔術」のスキルで、シルビナの霊体を支配する。
「ヘイ、シルビナ!
GO!!」
『なっ!?』
私が操るシルビナの身体は、人面鹿へと突撃した。
う~ん、なんとなくポ●モンのトレーナーになった気分……。
まあ今のシルビナって、私の使い魔同然というのが現実だしねぇ……。
で、人面鹿に突っ込んだシルビナだけど、霊体である彼女の身体は標的に接触してもすり抜けるだけだった。
人面鹿も平然とした顔をしている。
そもそもシルビナの姿も、見えていないのではなかろうか。
『これ、どうにかなっているのか……?』
「一応、霊体が他の生物に触れることで生命力を奪う、『ドレインタッチ』っていうスキルがあるんだけど、それで弱らせて倒すまでに数日はかかりそうだねぇ……」
これは著しく、スキルのレベルが足りていないなぁ。
シルビナ自身のスキルは勿論、私の「死霊魔術」のスキルも高くないからなぁ……。
それが高ければ、もっとシルビナの能力を引き出すことができるはずなのに……。
むしろどんな高レベルの相手に対しても、そこそこの効力を発揮するエリお兄さんの「吸精」の性能が異常というか……。
直接標的に触れなくても、十分な効力があるしね……。
『数日って、そんなに時間はかけていられないだろう!?』
だよね……。
それじゃあ──、
「魔法を使ってみよう」
『魔法!?
使えるのか、私に!?』
「うん」
生前のシルビナは騎士志望だったから、魔法関連のスキルはほぼ持っていないだろう。
実際、学園での実技訓練でも、魔法が全然駄目だったところを、私も見ている。
だけど今のシルビナは、私の「死霊魔術」のスキルで実体化した幽霊だ。
ただし天然物ではなく、私のスキルに依存して存在を保っている擬似的な幽霊だとも言える。
つまりある意味では、魔法の塊だ──とも。
実際、今のシルビナは私から生命力と魔力の供給を受けて、魂の状態を維持している。
ならば魔力は十分だ。
そして彼女の身に内包する魔力を私が操ることで、魔法を発動させることができる。
『っ!?』
『『『ピギャアーッ!!』』』
シルビナを中心にして発生した炎が、人面鹿達を飲み込んだ。
それだけで駆除は完了だ。
圧倒的な火力が、その身体を瞬時に炭化させている。
「今の魔力の動きの感覚を記憶すれば、シルビナも地力で使えるようになると思うよー」
『な……こんな高等な魔法を、私が……?』
「え、違う違う」
『ん? 何が?』
「今のは高等ではない。
初歩だ」
『な……!?』
シルビナは驚いているけど、今の彼女はそれだけ膨大な魔力を持っているってことだ。
メ●を使っても、メラ●ーマの威力になるくらいにはね。
そもそも私と半ば繋がっているような状態だから、もうシルビナはただの死に損ない系最下級の存在である幽霊ではない。
その潜在能力は、最上位の吸血鬼とかに匹敵するんじゃないかな?
まあ、うちの吸血鬼メイド達はかなり強化されているから、たぶん今の彼女では勝てないだろうけれど……。
ちなみに吸血鬼メイドの多くは、フレアを見つけたというミスリル鉱山で、ミスリルの採取作業に従事している。
元々は罪人達なので、キツイ仕事を割り振られることが多いんだよね……。
でもそんな厳しい環境だからこそ、特殊な結束が生まれるのかもしれない。
しかもその大半が元男のTSメイド達だと思うと、胸が熱くなるね……。
精神的なBLも嫌いじゃないよ。
……ただ、肉体的には百合だからややこしいし、解釈が分かれるところだけれどね……。
それはさておきシルビナは、
『……魔法は凄いが、やはり私は剣の方が性に合うな……』
と、不満があるようだ。
「じゃあ、魔法剣でも習得してみる?」
『魔法剣か……!
確か王女殿下が得意だと聞くなぁ』
「ああ、そういえば姉さんも得意だね~。
私は姉さんほどじゃないけど……」
『え、姉さん?
殿下が?』
「あ」
しまった。
いずれ前情報無しでシルビナを姉さんに会わせるというサプライズを考えていたのに、ネタバレしちゃった。
まあ、喋っちゃったものは仕方がない。
この後、滅茶苦茶説明させられた。
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