7 今後の対応
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シルビナの話を聞き終えて、私は額を手で押さえた。
軽く頭痛がするような気分だよ……。
「シルビナ……」
『な、なんだい、アリタ?』
シルビナは私の態度から何かを感じ取ったようで、少し怖じけづいたような反応を見せた。
そりゃあ、怒っているしね、私……。
「無茶しすぎだよ!
なんで逃げようとしなかったのさっ!!」
『いや……でも、民を守る兵士としては……』
「でも、じゃないっ!!」
『は、はいっ!!』
相手がシルビナを陵辱しようとしていたことを考えると、たとえ命が助かったとしても、安易に降伏してくれとは言えなかった。
それでレイチェル姉さんも、未だにトラウマを抱えているしね……。
だけどせめて──、
「……せめてシルビナには、もっと生きようとして欲しかったよ。
もしも逃走に成功して、この事件のことを国に報告することができていたら、もっと早く対策を立てることだってできたんだ……」
『そ、それはそうだな……。
あのときは頭に血が上っていて……その……』
「私もシルビナには、生きていて欲しかった……!」
『済まない……』
私の涙混じりの声を聞いて、シルビナが頭を下げる。
1番生きたかったのは彼女なんだろうけれど、私も言わずにはいられなかった。
唯一の親友を失った私だって悔しいんだ……って、シルビナは今、私の目の前にいるけどさ……。
……さて、どうしよう。
聞くべきことを聞いたから、シルビナとはこのまま「はいサヨナラ」という訳にもいかないだろうな……。
ここは当人の意思に任せようか。
「ねえ、シルビナ……。
これからどうしたい?
このまま魂を浄化して、本当に終わりにすることもできるけど……」
『勿論あの勇者の暴挙を止めるところまで、私は見届けたいぞ』
だよねぇ……。
たぶん国が──母さんが動いているのならば、勇者の件はいずれ解決するのだろうけれど、母さんが何処にいるのか分からないから、合流は難しいかもしれない。
ここは私が、独自に動くしかないということか。
「よし、分かった。
私の『死霊魔術』のスキルがあれば、シルビナの魂も最良の状態で維持できるから、一緒に勇者を追いかけよう!」
『うん、よろしく頼む』
しかし問題は、勇者が何処へ行ったのか……だ。
この国は勿論、帝国も北側は大森林に接していて、その深い森の中は国境線が曖昧だ。
まあ、道らしい道も無い大森林の中を軍隊が移動することは難しいから、帝国による北からの侵攻はあまり想定されていないらしい。
魔物も出現するから、あんな森の中で何日も過ごすことはあまり考えられないしね……。
だけど勇者ほどの力がある者なら、大森林を踏破することは勿論、潜伏することも可能だろう。
しかし転移魔法が使えるのなら、いつでも帝国に戻れるはずだし、もう国内にはいないかもしれない。
……となると拉致された人達も、既に帝国か。
帝国へ乗り込めば、いずれは勇者に会えるかもしれないし、拉致された人を救出することもできるかもしれないけれど……。
いや、私1人の判断で、他国に喧嘩を売るのは拙いな……。
それに帝国の何処にいるのか分からない数百人もの拉致被害者を、全員見つけ出して無事に救出するのは難しいし……。
帝国のことについては、たぶん母さんの方で何か対策しているかもしれないから、今は任せるか。
「……まずは姉さんに報告して、それから考えるよ」
『ん? アリタに姉なんかいたのか?』
「あ~、シルビナは知らないんだっけ。
まあ、いずれ紹介するよ。
会ったら驚くと思うよー」
『?』
今はシルビナにサプライズを仕掛けている場合ではないから、レイチェル姉さんには念話で報告することにした。
『……なるほど帝国ですか。
ママの温情も知らずに、また馬鹿な真似を……』
私の報告を受けて、姉さんは溜め息交じりに念話を返してきた。
私が生まれる前に母さんは、帝国の首都の近くで山を吹き飛ばしたことがあったけど、あれだって極力人的被害を出さないようにした結果だ。
なのに帝国は、それを魔王の仕業だなんだと騒いでいるらしい。
しかしあれは、王国に余計な干渉をしてきたことに対する警告に過ぎない。
本当は皇族を皆殺しにすることも、軍隊を壊滅させることも、帝国領の全てを焦土にすることだって不可能ではなかったのに……。
母さんがそれをしなかったのは、ひとえに一般人の被害を出したくなかったからだよね……。
実際、帝国を壊すだけなら簡単なんだよ。
しかし悪政を行う支配者排除すれば、それで全てが良くなるかというとそうでもなく、結果として国が更に混乱して大勢の犠牲者が出たという例は、母さんの前世の世界でもよくあることだし……。
あの頃の母さんには他国の支配体制にまで口を出している余裕が無かったから、仕方がなく現状の維持を選択した。
それに我が国への侵略の手段となる軍隊だって、徴兵された平民や奴隷が嫌々と従軍している場合も多いのだから、母さんは彼らを犠牲にすることを忍びなく思い、直接攻撃することはしなかったのだ。
まあ、山を吹き飛ばしたことで多少なりとも農林業にダメージを与えることにはなったのだろうけれど、それで困窮した国民を救うのは帝国の義務であって、さすがに母さんの知ったことではない。
ともかく一般人を守る為に帝国の愚行を見逃してあげた結果が、今回のような我が国民の拉致だというのならば、母さんも甘い対応はもうしないと思う。
これは帝国自体を潰して、王国に併合することも辞さないだろうねぇ……。
今は王国も安定しているから、母さんも本腰を据えてそれに取り組むくらいの余裕はあるんじゃないかな。




