6 勇 者
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その少年は、背格好から察するに14~15才くらいだろうか。
しかし私とは人種が違うのか、いまいち分かりにくい。
顔の作りが少し平たく、子供じみた印象があるのだ。
もしかしたらもっと年上かもしれないし、逆に年下かもしれない。
ただ我々と顔の作りは違っても、不細工だとは感じなかった。
たぶん整った顔つきをしているのだろうとは思うが、幼い印象は拭えず、どちらかといえば可愛らしいと感じる。
あと、黒髪なのがアリタを想起させるが、彼女の緩い雰囲気とこの少年はまったく違う。
何か剣呑な気配があって、やっぱり似ていないな……。
剣呑……そう、剣呑だ。
この少年からは貴族が平民を見下す時と同じような、他人を侮蔑しているかのごとき嫌な空気を感じる。
そして──強い。
この少年はアリタと同様に、強さの底が見えない。
そんな気配が感じられた。
これだけ強大な存在感を放っているのに、今まで気づくことができなかったとは……そんなことが有り得るのか?
それだけ「隠蔽」のスキルが高いということなのだろうけど、それだけでも脅威だと言える。
「貴様が……こいつらのリーダーか?」
「へぇ……分かるんだ。
お姉さんも、お仲間の中では1番強いね?
ほとんどの項目の数値が600前後……この世界では超人の部類だ。
まあ、僕には全然届かないけどね」
こいつ……鑑定のスキル持ち……!?
厄介だな。
ただ、かなり高レベルにならなければ、スキルや称号までは見抜けないはずだ。
手の内の全ては知られていない……と思いたいが……。
いや、そもそも問題なのは、私の実力を知った上で、少年が余裕の態度を崩していないことだ。
たぶん、戦ったら私は負ける。
それでも、このままヘイローの住人を見捨てる訳にはいかなかった。
「貴様の目的はなんだっ!?
今すぐ不穏な活動はやめて、投降しろっ!!」
「なんで僕が、邪悪な連中の言うことを聞かなきゃいけないのさ?」
邪悪……?
我々が……邪悪?
「何を言っているんだっ、貴様ぁっ!?」
私は跳躍して、屋根の上にいる少年に斬りかかる。
しかし少年は、いつの間にか抜いた剣で、私の斬撃を受け止めていた。
そして軽く振り払うような動作で、私を吹き飛ばす。
「かはっ!?」
少年はそんなに力を入れているようには見えなかったのに、私はあっさりと地面に叩きつけられた。
まさに軽くあしらわれた感じだ。
「……弱いね」
「ガッ!」
「ぎぃあっ!?」
そして私が立ち上がる前に、同僚達が全員斬り伏せられている。
まさか、今の一瞬で!?
「ひ……!」
あまりのことに、村人達も動けないようだ。
まさにヘビに睨まれたカエルのごとく硬直し、逃げることすらできないのだろう。
下手に動けば、自分達も一瞬の内に斬られる──それを確信しているに違いない。
だが、私はこのまま引き下がる訳にはいかなかった。
「貴様……よくも仲間を……!!」
「なにを怒っているんだい?
邪悪なローラントの人間なんて、いくら死んでも構わないじゃないか」
「ふざけるなっ!!
我々が邪悪だとっ!?」
「……ふざけているのは君達だよ。
なんで魔族の手下の、獣人を保護しているんだよ?
君達の国は、魔族に支配されているってもっぱらの噂だよ?」
「な……!?」
確かに獣人達は、その姿から魔族と同一視されていた時代もあったという。
だけどそんなのは古い考え方だ。
帝国では、まだそんな思想が蔓延しているのか?
「十数年前もローラントを征伐しに軍を準備していたら、我が国を魔王のごとき存在が襲って、大変だったらしいよ。
だから僕が呼ばれたんだ。
邪悪な者達を滅ぼす為に、勇者である僕がね……!」
何を言っているのだ、こいつは……!?
そんな世迷い言の為に、平和に暮らしている民を脅かして、何がしたい!?
それに勇者だと!?
勇者は魔王を倒す為の存在だ。
それが我が国に敵対するとか、そんな──、
「そんな馬鹿な話があるかっ!!」
私は再び少年に斬りかかる。
今度は我が全身全霊の一撃──相手を殺す為だけではなく、遺体も残らぬほど粉々に打ち砕く為の一撃。
これで勝てるとは思えないが、せめて一矢報いるっ!!
たが──、
「ぐっ……!?」
気がつくと、目の前にいたはずの少年が、私の背後にいた。
いつすれ違った!?
いや、それよりも──、
「が……あ、あ、あ!?」
全身に激痛が走る。
そして剣を持っていた右手が、地面に落ちた。
更に膝や足首から血が噴き出し、立っていられなくなった私は、地に膝を突く。
なんだ!?
いつ斬られた!?
何箇所やられた!?
私の手がっ!?
混乱する私の前に、少年が立つ。
「お姉さんは綺麗だから、もう抵抗しないのなら、命だけは助けてあげるよ?
まあ、僕たちの遊び相手にはなってもらうけれどね?」
こいつ……私を陵辱する気か!?
「──?」
傷の痛みが消えていく?
回復魔法──そんなものまで使えるのか!?
こいつ……私が回復して再び暴れても、すぐに無力化できると舐めているな?
私は左手で、地面に落ちた剣を拾う。
その柄を、未だに切断された我が右手が握っている。
その手を見ると、私はもう助からないのだと実感するしかなかった。
「誰が貴様らの好きにさせるものか!
殺すならば、殺せ!」
私は立ち上がって少年に剣を向け、最後まで抵抗することを宣言した。
しかし少年は楽しげに笑う。
「……あはは、本物の『くっころ』だよ。
本当にやる人がいるんだ?」
意味は分からなかったが、その少年の態度が酷く私を侮辱していることだけは察することができた。
「この、痴れ者がああああぁぁーっ!!」
私は無駄だと半ば自覚しつつも、左手で剣を振るった。
そして予想通り、その剣は空を斬る。
「そっか、じゃあもういいや」
また背後から少年の声が聞こえてきた瞬間、私の左手が地面に落ちる。
おそらくまた全身が斬り刻まれた。
だけど私は構わずに振り返り、少年に向けて走る。
すぐに動けなくなるだろうけれど、せめてその前に体当たりでもなんでもいいから、最後まで戦──
「雷光──!」
「ア゛っアアアアぁぁぁぁぁ──っ!?」
その瞬間、眩い光と轟音が私を包み、衝撃が身体を突き抜ける。
これが最初に、村人達を驚かせた轟音の正体──?
この音と光、そういえば雷に似て──
そこで私の意識は途切れ、次に気がついた時には、目の前にアリタがいた。




