5 開拓村の異変
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私はシルビナ・ナタリー。
騎士爵である母と同じ騎士になる為に、私は国の兵士になった。
今はまだ無理だけど、真面目に働いて功績を挙げれば、騎士になることも可能だという。
ただ貴族の子が兵士になった場合、最初から騎士の位から始まるという。
それを考えると不平等だと感じるが、これでも昔よりはマシになったそうだ。
昔は女性が騎士になることすら難しかったそうで、例外的に選ばれた貴族の女子だけが女性王族お付きの騎士になることができたらしい。
しかしその条件が今の女王様の代になってから大幅に緩和され、そのおかげで平民だった母も騎士になることができたのだとか。
とはいえ、母も盗賊団を壊滅に追い込むという功績があったからこその叙勲であり、北方の開拓地を見回るだけの任務しかしていない私が騎士になれるのかというと、現状では難しい。
一応クラリーゼ学園という女王様が設立した学園を卒業している私は、エリートということになるらしいのだけど、それだけでは足りない。
やはり功績は必要なのだ。
しかし開拓地が野盗か魔物にでも襲われなければ、私が戦果を挙げる機会は無いのだが、民にとってはそんな機会は無い方がいい。
……その方がいいのだが、何者かの襲撃をまったく期待していなかったと言えば、嘘になるな……。
だからたぶん、罰が当たったのだろうと思う。
それはヘイローという開拓地を見回る任務を終え、宿に泊まっていた時のことだ。
ここのところ移動中は野営ばかりで、久々にベッドの上で眠れる。
翌日にはまた別の開拓地へ向けて出立する為、早めに就寝することにした私だったが、何故かその夜はなかなか寝付けなかった。
それならばいっそ、最近滞っているアリタへの手紙を書こうかと思いもしたのだが、やはり早寝をする為にはベッドで待機すべきだと迷い、結局動けずにいた。
そもそも手紙を書いても、それを王都へ送る手段はもう少し大きな町へ行かないと無い。
このヘイローのような辺境では、他の村との人や物資の定期的な往来自体が無いのだ。
ならば手紙は後回しでもいい。
おそらく手紙を書くのは、私達が受け持つ地域の巡回を終えて、警備隊の本部がある町へ戻った時だろうな。
その時にはアリタからの新しい手紙も届いているかもしれないし、まとめて返事を書くのは大変だと思う。
ただし見回らなければならない村はまだいくつもあるので、それは1ヶ月以上は先の話だろうけれど……。
はあ……アリタと会いたいな……。
そして「びーえる」?……とかいう、あの絵を見せてもらいたい。
あれは私にとって、騎士道以外では初めて熱中できるものになったと思う。
私はアリタのように絵は描けないけれど、いつか文章として挑戦してみるのもいいかもしれない……。
そういえば先輩のバルターとラントは、親友同士で今は同じ部屋に泊まっているんだよな……。
あんな仲のいい男達が部屋で二人きり……。
なんだかドキドキするなぁ!
そんなあられもないことを妄想した所為か、ベッドの中で余計に眠れなくなった。
そんな風に悶々としていると、爆音のようなものが外から聞こえてくる。
「なんだ!?」
私達は慌てて装備を調えて、外に飛び出す。
すると同様に、村人達が外に出てきている。
だが、何が起こったのかはよく分からない。
村人達も事態を把握していないようで、不安げにザワザワと話し合っていた。
私は取りあえず、村人全員の安否確認をしようと考えた。
しかしその前に──、
「村人は全員、村の広場に集まれーっ!!」
そんな呼びかけの声が聞こえてくる。
ん? 私達警備隊のものではないな?
じゃあ、村人の誰かが自主的に?
私達はその声に従って、村の広場へと向かう。
私も村についてはそんなに詳しくないので、集まった村人から話を聞いた方が良さそうだと考えたからだ。
そして村の広場に着くと──、
「よーし、全員いるかぁー?
隠れていても、後で捜し出すからなぁ。
そしてお前らは、無駄な抵抗をするな!
命が惜しかったらなぁ?」
と、武装した一団が現れた。
十数人ほどだろうか。
野盗? それとも人身売買組織か?
「なんだ、貴様らは?」
私の問いに彼らは、奇妙な言い回しで答えた。
「おお、ローラントの狗がいるな」
ローラントの?
この国の人間ならば、わざわざローラント王国のことをそう呼んだりはしない。
普通に「国」や「王国」と呼ぶ。
それで十分通じるからだ。
それにこれが王族を指しているのなら、王国の名と混同してしまうので、やはりそういう呼び方にはならない。
今この国には、「ローラント」を名乗る王族は4人しかいないので、「女王」、「王女」、「王弟」、「王太后」……と、これらの称号に敬称を付けて呼ぶのが一般的だ。
王族を快く思っていない者ならば、敬称を抜かすこともあるかもしれないが、それでも「ローラント」と呼び捨てにするようなことはまずないだろう。
こいつら……もしかして隣のクバート帝国から来たのか?
これは捕らえて、詳しく話を聞いた方が良さそうだな。
「貴様ら、一体何者だ?
大人しく武器を捨てて、投降しろ!」
私が剣を抜くのと同時に、同僚達も剣を抜く。
だが、相手は余裕の態度を崩さない。
確かに数の上では向こうの方が上で、私達は7人しかいない。
約半分だ。
しかしそんなものは、実力でいくらでもひっくり返すことができる。
私だって学園で、アリタのように人間離れした実力者を見てきた。
そんな彼女に追いつく為に、今まで努力してきたのだ。
「先輩達は村人の保護を!
こいつらは、私がやります!」
「お、おいっ!?」
私は1人で飛び出す。
無謀だとは思わなかった。
相手からの気配で、大した実力が無いことは分かりきっていたからだ。
一方相手は、私の実力が見抜けないようで、馬鹿にした態度のままだ。
「なんだよ、嬢ちゃん。
俺達と遊んでくれるのかい?」
そんな下卑た笑みを浮かべる男の手首を、私は斬り付けた。
彼は反応することもできずに、持っていた剣を取り落とす。
筋を断ち切ったのだから、回復魔法を使わなければ2度と武器は持てないだろう。
「が、があっ!?」
「こ、こいつぅ!?」
今頃になって、彼らは慌てだした。
やはりこの程度ならば、相手を無力化することは難しくない。
むしろ剣を使うまでもないのではないか?
事実乱戦の中、何人かは蹴りや殴打だけで気絶させることもできた。
これならば人質を取られるとか、卑怯な真似でもされない限りは、負ける気はしなかった。
勿論、相手の動きには気を配って、村人に手を出されるような油断はしていない。
油断はしていなかったはずなのだが──、
「っ!?」
背後から殺気を感じて、私はその場から飛び退った。
そして一瞬前まで私がいた場所を、衝撃波が通り過ぎていく。
今のは……斬撃なのか?
魔力は感じなかったから、風の魔法ではないだろう。
斬撃を飛ばした……!?
「おお、今のを躱すんだ?」
聞き覚えの無い、感心したような声が聞こえてくる。
私がその声の方を見ると、近くの家の屋根の上に少年がいた。
……今まであんな奴、いたか?
ずっと気配を消して、潜んでいたと?
私の索敵スキルも通じないとは、どんなレベルなんだ……!?
有利だと思っていた私は、この少年1人の出現によって、状況を覆されることになった。
ストックがほぼ無いので、土日はお休みします。




