3 姉との会談
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レイチェル姉さんってこの国では既に、「合法ロリ」と呼べる年齢だけど、合法ロリなだけあって相変わらず背が小さい。
遺伝的には従姉妹になるクラリス母さんと比べても、頭1つ分とまではいかないけど、そこそこ身長差がある。
たぶん生命力とかのステータスが強化されすぎていて、成長が遅くなっている所為もあるのだと思う。
実際アリゼ母さんなんて、もう「不老不死」を獲得しているのではないかという疑惑すらあるくらい、数年前から老けていないし……。
いや、母さんの場合は、「変形」のスキルで身体を弄っている可能性もあるけどさ……。
ただそれならば、クラリス母さんにもアンチエイジング処理はしていなきゃおかしいので、その形跡がみられないということは、今のところは天然の状態なのだと思う。
で、姉さんについては背が小さいのは勿論だけど、クラリス母さんやその母親であるクリスちゃん(お祖母ちゃんと呼ぶと怒る)と同様に、胸部装甲は控え目だ。
クリスちゃんと姉さんの前世の母親は姉妹だから、完全に遺伝だよね……。
そんな訳で、私の胸を見る時の姉さんの顔は、いつも悔しそうだった。
遺伝的に母さんとほぼ同じ私は、将来母さんのような巨乳になるのは確定しているし、現時点でも姉さんよりも大きいからねぇ……。
だから姉さんは私の姿を認めるとムッとした顔をしつつ、書類仕事をやめてそれを空間収納の中に仕舞い込んだ。
私には見られたく内容なのかな……?
「なんですか、アリタ?
あなたが私に会いに、わざわざ城へ来るなんて……」
「最近姉さんは家に帰ってこないし、こうして会いに来なければ話もできないよ。
そんなに忙しいのー?」
「まあ……そうですね……。
そういうあなたは、相変わらずいかがわしい絵ばかり描いているのです?
私はああいうのは苦手です」
そういう人は見んかったらええねん。
そもそも姉さんは男が苦手なだけなんだし。
BLでさえなければ、嫌いじゃないんでしょ、このむっつりスケベ。
「そんなことを言うなら、いつか百合漫画も描いてみようかと思ったけど、姉さんには見せてあげない」
「む……」
あ、前言を撤回しようかどうか、葛藤している。
姉さんは思っていることが顔に出やすいし、案外チョロいよねぇ。
「……で、何をしに来たのですか?
ただの世間話をする為に、ここに来たのではないのでしょう?」
「それじゃあ、単刀直入に聞くけど、今この国で何が起こっているの?」
「……!
……私から話せることは無いのです」
姉さんの眉間に皺が寄る。
都合が悪いことを聞かれたって顔だなぁ。
「私も親友が死んでいるんだから、ハイそうですか……と、引き下がる訳にはいかないんだよねぇー」
「……あなた、友達がいたのですか?」
「いたよ、みゃ●姉じゃあるまいし……!
姉さんこそいるの?
とにかく、せめてシルビナが何処で命を落としたのか、それだけでも聞かないと引き下がれないよ」
「…………」
姉さんが難しい顔をしている。
これはもう一押しかな……?
「姉さんとアイリスお姉さんとの仲を取り持ってあげたのは、誰だったかな~?」
「ぬ……仕方がありませんね。
でも、分かっていることはそんなに多くないのです」
「開拓地で、住人が拉致されてるって?」
「……!
そこまで知っているのですか。
一体誰に……いえ、それは聞かないことにします」
姉さんは、私の目が鋭くなったのを見て、情報元について詮索するのをやめた。
さすがにそこへ深入りされたら、ガチで戦争をするしかなくなるからね。
「確かに拉致事件は起きています。
しかも数十人から数百人単位の人間を、徒歩や馬車で移動させた形跡が見つかっていない……。
つまり転移魔法が使えるような、高レベルの魔法の使い手が関わっている可能性が高いということなのです。
だからあなたにも顔を突っ込んで欲しくないというのが、本音なのですよ。
魔族が絡んでいたら、万が一もありますからね……」
ああ、以前魔王軍の四天王と戦った時、姉さんは弱点を突かれて不覚を取ったんだってね。
エリお兄さんがいなかったら、敗北していた可能性もあったと聞いている。
私達姉妹は強いけれど、決して万能ではないのだ。
そして転移魔法のような高度な魔法を使いこなすような相手ならば、油断できないというのも事実だしねぇ……。
「まあ……できるだけ無茶な真似はしないよ……。
それで、シルビナという警備隊員がやられたのは、どの開拓村で、どういう状況だったのかな?
私は親友の最期を、知らないままで終わりたくはないんだよ……」
「……それはヘイローという、北方の西から5番目にある開拓村ですね。
村に戦闘の形跡があったそうなので、警備隊は襲撃者に対して最後まで抵抗した為、排除されたのではないかと……。
相手の目的が拉致ならば、抵抗しなければ命までは取られなかった可能性もあったのでしょうが、兵士として最後まで民を守ろうとした結果なのでしょう……。
立派ですが、大きすぎる犠牲なのです」
「くっ……!」
騎士になりたいって言っていたシルビナは、その誇りに殉じたのかもしれないな……。
でもできれば、逃げるなり投降するなりして、自身の命を優先して欲しかったよ……。
だけどこれで目的地は分かった。
それならばもう、ここに長居する必要もないな……。
と、私がこの部屋を後にしようと考えていたところ、
「あ、アリタちゃん。
お茶とケーキの用意ができましたよ。
姫様も休憩してください」
タイミングを見計らっていたかのように、エリお兄さんが声をかけてきた。
いや、実際に狙っていたのだろうな。
「焦ってもろくな結果にならないですから、一休みして落ち着きましょう。
……ね?」
……これだもの。
私が焦っているのも、冷静さを欠いているのも見抜いている。
ここはお兄さんの顔を立ててやろう。
「まったく……。
お兄さんは本当に立派なメイドになりましたねぇ」
「……そこは褒められても、そんなに嬉しくないんですけどね……」
お兄さんは肩を竦めるけど、世界で唯一にして最高峰の男の娘メイドであることは間違いないのだから、誇ってもいいと思うけどなぁ……。
で、なんで姉さんがどや顔しているのかな?
なんだかんだでお兄さんのこと、気に入っているよね……?
その時──、
「おやつか!?」
カナウが部屋に飛び込んできた。
ケーキの匂いに釣られて来たんだろうけれど、今まで何処にいたんだろうね、この駄メイド……?
この子はいつも呑気そうで、羨ましいよ。




