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閑話 ゴブリンに攫われた少女

 ブックマークありがとうございました。

 うちはキエル。

 キエル・グランジ。

 サンバートルの町で、新米冒険者をやっている。


 冒険者とは言っても、こんな田舎町では新米に割り振られる仕事は雑事ばかりで、冒険とは程遠い。

 近隣にはモンスターが生息するダンジョンも無いし、モンスターが町に近づくことも滅多に無いから、戦闘をすることなんてまずありえない。

 精々畑を荒らした(けもの)を、罠を使って退治する程度だ。


 いや、それですらまだマシな方で、最近は森で薬草の採取程度の仕事しか無い。

 こんなの、一般人の子供にだってできる仕事だ。

 ただ、過去に獣に襲われたり、遭難したりする子供がいたから、最近は子供達の安全を考慮して、新米の冒険者が代わりにやるようになっただけにすぎない。


 うちだって本当は、こんな仕事よりも、もっと大きなことがしてみたい。

 強いモンスターを退治して、有名になってみたい。

 ……でもそれが大それた野望だとは、自覚できないほどうちは未熟だった。

 きっとこの冒険者という仕事を、甘く見ていたんだと思う。

 

 事実──最近、森の様子がおかしいという噂は聞いていた。

 だけどうちは、それがさほど重大なことだとは思っていなかった。

 完全に油断していたんだな。


 だからうちは、ゴブリンの集団と遭遇した時に、戦うことは勿論、逃げることすらできずに、あっさりと捕まってしまった。

 この周辺でゴブリンが現れたなんて話は、ここ10年くらい無かったから、こういう事態を全く想定していなかったんだ。


 ……うちは、冒険者としての心構えが、全くできていなかったということを、思い知らされた。

 そしてうちが置かれたのは、絶望的な状況だった。

 

 うちは手足を縛られて、ゴブリン達の巣に運ばれた。

 そこには数十匹のゴブリンがいて、うちはどうやっても逃げられないことを確信する。

 これからうちは、死ぬまでゴブリン達に陵辱され、死んだ後も食料にされるという、人間としての尊厳を全て奪われることになるだろう。


「くっ、いっそ今すぐ殺してくれ!」


 ゴブリン達には伝わらなかっただろうけど、そう叫ばずにはいられなかった。

 この時はもう、死んだ方がマシだと思ったんだよ。

 

 しかし一匹のゴブリンが、他の者達の凶行を止めた。

 そのゴブリンの身体は小さく、比較的若い個体だということが察せられた。

 そいつは短い髪が一房だけ赤いという特徴を持っていたので、うちは「赤毛」と呼ぶことにした。


 うちは最初、赤毛が獲物(うち)を独り占めしようとしたのだと思っていた。

 おそらく他のゴブリン達も同じように考えたようで、制裁を加える為に赤毛一匹に対して集団で襲いかかる。

 多勢に無勢で、赤毛はあっというまに肉塊にされる──そう予想したが、実際にはそうならなかった。


「えっ!?」


 どういう訳か、赤毛に襲いかかったゴブリン達が、一斉に倒れる。

 何が起こったのか、それはうちにも分からなかったけど、赤毛が平然としていることから、そいつの仕業だということは分かった。


 そして赤毛は、うちに近づいてくる。

 これから起こることは、集団ではなくなっただけで、結末は何も変わらないだろう。

 抵抗しても無駄だと分かっていたけど、うちは抵抗せずにはいられなかった。


 ところが、うちが抵抗を続けている内に、事態は思わぬ方向に動いた。

 大きなゴブリンが、現れたのだ。

 その巨体から、ホブゴブリンなどの上位種に進化していることは間違い無く、おそらくは群れのボスなのではないかと思われた。


 ボスは身勝手な行動をする赤毛に、制裁を加えようとしているようだった。

 しかし赤毛は余裕の態度だった。

 通常ならば、ただのゴブリンが上位種に勝てるはずはない。


 うちには赤毛が何故そんなに余裕なのか分からなかったが、その真実は「実際に余裕があるから」というだけだった。

 赤毛はボスの攻撃を物ともせず、しかもボスに対して少しも傷つけることもなく、あっさりと屈服させてしまったのだ。

 一体どれだけの実力差があれば、こんなことができるのだろうか……。


 え……ゴブリンって、こんなに強くなるの?

 これは……新種のゴブリンなのでは?

 そんな風に困惑しているうちに、赤毛は近づいてきた。


 うちには、もう抵抗する気なんて無くなっていた。

 抵抗しても無駄なのは分かりきっていたし、そもそも恐怖で身体がまともに動かなかった。

 だけどそんなうちを嘲笑うかのように、赤毛はうちを解放した。


 訳が分からなかった。

 赤毛の目的は、一体何なのだろうか?

 まさかうちの後を追って、町の位置を特定しようとしているのか?


 だからうちは、追跡を警戒しつつ、更には道に迷ったフリをしてわざと遠回りをしながら、町へと帰った。

 幸い追跡は無かったようだが、ますます意味が分からなかった。

 なんの為に、うちは解放されたのだろう?


 まさか助けられた?

 そんな可能性を少しだけ考えたが、ゴブリンがそんなことをする理由は無いだろう。

 いずれにしても、赤毛が狡猾で危険な存在だという前提で対処をしなければ、町に大きな被害をもたらすかもしれない。


 うちはすぐに冒険者ギルドに駆け込んで、ことの顛末を報告した。

 ギルドの職員は、うちがゴブリンの集団に捕まりながらも、無事に帰還できたことから、うちの嘘を疑ったようだ。

 確かに普通なら、今無事なのが奇跡だも言える状況だった。

 だけど必死なうちの様子に、一応確認することにしたようだ。


 ギルドは腕の良い冒険者に調査を依頼し、翌日にはゴブリンの集団の足跡を確認する。

 少なくともゴブリンの集団の存在は確実だということで、大規模な討伐隊が編成された。

 ここ10年ほど出現したことが無かったタイプの魔物が相手ということで、中堅以上の冒険者の殆どが参加することになった。


 これは実質的に、この町の最高戦力だと言っても良かった。


 そんな中に新人のうちが、道案内として参加することになる。

 大物のベテラン冒険者達を前にして、うちは緊張していたし、彼らの熟練した技を見られるのだと、興奮もしていた。


 しかし、その高揚とした気分が吹き飛ぶような事態がこの先に待っているとは、うちは予想だにしていなかった。

 閑話はもう1話続きます。

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