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1 訃 報

 ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました!

 シルビナからの手紙が途絶えたのは、彼女が学園を卒業してから8ヶ月ほどが経過した頃だった。

 彼女は北方の地で警備部隊に所属していたそうで、あちこちの村を巡回していたらしい。


 北方というのも色々とあって、アイ(ねえ)やリゼがいるノーザンリリィ辺境領は王都から北東の方に、半島のごとく大森林の中へ突き出した領地だ。

 そしてそこから西の方は開拓が進んでおらず、全部大森林となっている。

 その大森林の南側に面した開拓地の数々が、所謂(いわゆる)「北方」と呼ばれる地域を指す場合が多い。


 ちなみに王国の東側は、険しい山脈が有り、そちらには(ドラゴン)が住み着いているとかで前人未踏の土地となっているし、南側は海となっていて、その果てに大陸があるのかどうかはよく分かっていない。

 唯一西側にだけ、クバート帝国という人類の領域が存在する。

 

 なお、この大陸にその他の国が存在するのかは、今のところ確認されていないそうだよ。

 意外と狭いね、人類の領域。


 ともかくその北方は王都から数百kmも離れていて、交通インフラも整っていないんだよねぇ。

 しかも開拓村は無数に分散している。

 だから警備任務での移動で忙しくて、手紙を書く暇が無かったり、そもそも辺境では郵便のシステムが整備されておらず、王都へと手紙を送る手段が少なかったり……と、手紙が届かない理由はいくらでも考えられた。

 たとえ手紙を送ることができたとしても、輸送の途中で紛失することも珍しくないそうだしね。


 だけど再び春が近づき、私の卒業も目前に迫った頃、シルビナの実家経由で彼女の訃報(ふほう)が届く。

 ……訳が分からない。

 なんでそんなことになっているの?


 私から見ても、シルビナは相当強い。

 たぶんAランクの冒険者──そのくらいの実力はあったはずだ。

 その辺の魔物や山賊に負けるとは思えない。


 じゃあ事故か?

 それとも病気か?

 いくら考えても分からないよ……。


 だから私は、シルビナの実家であるナタリー騎士爵家へと向かった。


 

 

「ようこそお越しいただきました、キンガリー様」


 シルビナの実家を訪問した私は、通された部屋で1人の女性に出迎えられた。

 一目見て、シルビナの母親だと分かるくらいそっくりだ。


「私はナタリア・ナタリー騎士爵です。

 以後、お見知りおきを」


 と、ナタリアさんは深々と頭を下げる。

 立場としてはキンガリー侯爵(何年か前に陞爵(しょうしゃく)した)の親類ということになっている私の方が、上ということになるのかな。

 それにしても、この人が騎士爵本人なのか。

 おそらくは元々家名も持たない平民で、何らかの功績を挙げてその地位を得た実力派なのだろう。

 

 そして「ナタリー」という家名も、たぶん騎士爵になる時に急遽必要になった為、「ナタリア」を捻って付けたのかな?

 母さんの前世の世界では別の意味があったように思うけど、こっちでは関係ないし……。

 道理で女の人の名前みたいだ……とは思っていたけど、あまり深く考えず、苦し紛れに付けたのかもな……。

 思えばシルビナも、細かいことを考えるのが苦手なタイプだったように思う。


「あの……この(たび)は……」


 そこから先の言葉が出てこない。

 お悔やみの言葉を言うべきなのに、まだ私はシルビナが亡くなったという現実を受け止めきれていないのか、どうしても言葉が出てこない。

 その代わりに涙が出てくる。


「キンガリー様、これを……」


 ナタリアさんからハンカチ渡されて、更に涙が溢れてくる。

 本当なら私よりも泣きたいのは、彼女の方なのに……!

 そんな彼女を差し置いて涙を流す自分が情けなくて、涙はなかなか止まってはくれなかった。


「す、済みません……ごめんなさい……っ!」


 私が落ち着くまで、ナタリアさんは私に寄り添って、(なぐさ)めてくれた。



「……お恥ずかしいところをお見せしました」


 十数分後、ようやく落ち着いた私は頭を下げる。


「いえ……娘の為に泣いてくださり、ありがとうございました。

 生前は……親しいお付き合いをしていただいたのですね?」


「はい……親友だったと思います」


「そうですか……。

 あの子の遺品の中に、あなた様からのお手紙が残っていたので、ご連絡いたしました」


「ありがとうございます。

 何も知らずに手紙の返事を待ち続けることにならなくて、良かったです……」


「いえ……こちらこそ娘の為に、わざわざありがとうございます」


 私とテーブルを挟んで椅子に座っているナタリアさんは、微笑みを浮かべた。

 ただ、その微笑みには何処か疲れたような印象がある。

 やはり娘の──シルビナの死は(つら)いのだろうな……。

 辛いはずなのに、気丈に振る舞っている。


 だけど私は、そんな人からもっと辛いことを聞き出さなければならない。


「あの……一体何があったのか……国から説明はされたのでしょうか?」


 シルビナの死因──それを私は知りたい。

 そして必要ならば、私は報復の為に戦う。


「……詳しくは……。

 そもそも国の方も、事態をよく把握できていないようでした。

 ただ娘……と、同僚の警備隊員達の遺体が、無人になった開拓地の村の中で発見された……とか」


 無人になった?

 つまり村人達が、いなくなっていたということだよね?

 彼らがシルビナ達を殺害して逃げた?

 いや……ただの村人にそんな実力も、そもそも動機も無いだろう。


 だとしたら、拉致……?

 だけど犯人は魔物なのか、奴隷商なのか……。


「……その村はどこなのでしょう?」


「それが……教えてはもらえませんでした。

 今は捜査中で、犯人に国の動きを悟られたくないから、極力事件のことも話すな……と」


 なんだ? 箝口(かんこう)令?

 それだけ大きな事件だということなの?

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、Aランクの冒険者位だと、一般人より強いは強いですが、死ぬ時は死ぬ程度しかないでしょう。これはどちらと言うと、単純にアリタさんが甘い、根拠無くて楽観し過ぎるだけだと思います。 しかし、今…
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