エピローグ 卒 業
ブックマークをありがとうございました!
そして今回で第5章は終わりです。
クラリーゼ学園の卒業式当日。
私は来賓として訪れたクラリスの付き人として、出席している。
まあ、娘のレイチェルを始めとする身内が卒業するので、実質的には保護者のポジションではあるのだけどね。
さて、卒業とは言っても、この学院で学んで身につけることができるのは小中学生レベルの学力や、各種職業の基礎的な技術程度だ。
もっと学びたいという者には、学園に残って勉強を続けてもらってもいいのだが、大学のような施設の開設も急務だねぇ……。
しかし指導者が足りないので、なかなかすぐにとはいかない。
それよりも優先すべきは、平民向けの学校の方だし……。
この学園の卒業生から、なんとか講師として活躍してくれる者が増えてほしいものだが、ここの生徒は貴族ばかりだから、平民の相手をできる人材が多いかというと全然だ……。
まあ、アイリスは身分にさほどこだわりがないようなので、文字の読み書きと簡単な計算くらいなら教えられるかなぁ……と思い、打診中である。
エリの側室として宮中に引き籠もらせるには惜しい人材だし、今後も色々な場面で活躍してもらおうと思う。
それはさておき卒業式だが、卒業証書は代表者が受け取って、後でそれぞれに配るということになっている。
1人1人に授与を行うと、時間がかかってかったるいし。
前世の私の時もそういう意識しかなかったので、省略することにした。
なお、卒業証書を受け取る代表者は、成績首位のレイチェルだ。
……まあ、彼女の能力は私から受け継いだチートみたいなものだし、当然の結果ではあるが。
ただ、知識や技術を維持して活用する為にはそれなりの努力が必要なので、その努力は認めて祝福すべきだろう。
で、卒業証書の授与が終わると、主賓の挨拶だ。
クラリスがステージに登壇する。
まあ、私もすぐ斜め後ろに控えているんだけどね。
そしてクラリスは、台の上に設置されているマイク──を模して私が作った魔道具に向かって語り始めた。
「第43代ローラント国王、クラリス・ドーラ・ローラントである。
皆の者、卒業おめでとう!
だがこれは、出発点に立っただけに過ぎないわ。
皆の真価は、これからこの学園で学んだことを、どのように社会の中で活かしていくのか、それで問われることになる。
その活躍を──これから入学してくる後輩達に誇れる活躍を、どうかこの私に見せて頂戴!
楽しみにしているわ!」
と、クラリスの挨拶は簡潔なものだった。
長々と演説をしても内容が薄まるだけだろうし、子供達からは聞き流されるだけだと思うので、これで正解だな。
それにこれから、重要な話もある。
「……さて、これから私事で申し訳ないけど、この場を借りて発表したいことがあるわ。
エリ、こちらへ」
あらかじめ舞台袖で待機していたエリが、クラリスの横に並ぶ。
あ~……かなり緊張しているのが、オーラでも分かるな。
「皆も知っていると思うけど、我が娘・レイチェルのメイドとして、この学園に通っていたエリよ。
実はこの子……私の弟・エリリークでした」
「「「「「えっ!?」」」」」
会場の各所から声が上がり、すぐに静まり返る。
女王の話を遮るなど、本来はあってはならないことだけど、さすがに衝撃の告白過ぎて、驚きの声が漏れてしまったようだ。
見た目は美少女メイドにしか過ぎないエリが、女王の弟──つまりは、昔王子で今は王弟だとは、誰が予想できようか。
「エリリークは生まれつき身体が弱かったので王位継承も難しく、地方にて隠遁生活を送ってもらっていたわ。
しかしこの度、病気も完治して王室に復帰することが決まったので、その準備としてレイチェルのメイドとして学園に通ってもらっていたのよ。
これまでの彼には何の権力も無かったけど、王族と言うだけで利用しようとする者はいるでしょうから、身分を隠してね」
うん、オーラからも会場が混乱していることが感じ取れる。
エリがクラリスの弟だったというところよりも、弟なのに何故メイドなのか……というところが、大きな混乱を生んでいるのだと思う。
そのことをクラリスに念話で伝えておくと、
「あ、何故メイドなのかについては、似合っているからよ!」
などと、とんでもないことを言い切った。
しかし聴衆からは、一定の納得感を得られたようだ。
実際、エリの完璧なメイド姿には、説得力がありすぎる……。
「私の国では、それぞれが身分や性別に囚われず、自身に相応しい生き方ができるようにしたいと考えているわ。
エリリークにはそれを示す、象徴的な存在になって欲しいと思っている」
うむ、良い感じに話をまとめたな。
たぶん今思いついたことを、適当に言っているだけだろうけれど。
でも、それも王としての才能ではある。
「それでは我が弟から、挨拶をしてもらいましょう!」
と、クラリスは横に身を引き、先程まで彼女がいた場所にエリが立つ。
「え、え~と、皆さん卒業おめでとうございます。
今し方、姉クラリスからご紹介に与りましたエリリーク・ドーラ・ローラントです。
本日、皆さんは卒業し、これから新しい生活が始まる訳ですが、それは私も同様です。
私は本日より正式に、王女レイチェル様の婚約者として、活動していくことになります」
このエリの発言に、会場が少しざわついた。
だけどクラリスが右手を挙げると、一斉に静まり返る。
言わずとも、「話を遮るな」というサインは伝わったようだ。
「そしてオーラント公爵家令嬢、アイリス様を私の側室として迎え入れることになっております。
この我々の繋がりが、王国の結束をより強固なものにしていくことでしょう」
また会場がざわついたが、今度はクラリスが動く前に静かになった。
うむ、学習能力が高いな。
「これから新しい時代が来ます。
その時に活躍するのは、今日卒業した我々のような若者です。
そして将来、より繁栄したこの国を、次の世代に引き継がせるのが我々の使命となります。
その為にもこれからの日々の中で、欠かさず精進していくことを、私はここに誓います。
卒業生の皆さんも、同じ想いであることを願い、私の挨拶はこれで終わることにしましょう」
礼をしつつ演説を終えるエリ。
始めて会った時は、本当に弱々しい印象だったけど、今では随分と逞しくなったものだ。
私は拍手をして、エリを祝福した。
すると会場からも倣うように拍手が始まり、やがて万雷の如き物となる。
クラリスはエリを引き寄せて彼の肩を抱き、仲の良さをアピールしつつ手を振って拍手に応えた。
エリも手を振るが、顔はちょっと引き攣っているな。
やはりまだ完全には、姉とは打ち解けていないようだ。
それでも今日のエリは、この卒業式で大きな役割をしっかりと果たしたと言える。
うん、彼やレイチェル達に任せておけば、この国の将来も安泰だろう。
……と思うのは、まだまだ早計だったと私が思い知るのは、もう少し未来の話である。
動乱の時代が近づきつつあることを、私は……いや、この国の何者も、まだ知らなかったのだ。
現時点ではストックが1話分も無いので、とりあえず最低でも1日休んでから6章に入りたいと思います。




