81 指 輪
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レイチェルなのです。
学園の卒業式も目前に迫っていますが、その準備もそっちのけで、ちょっと前からママがエリと一緒に何処かへ出掛けるようになりました。
何をしているのかは私にも教えてくれませんが、まさかあのママが宗旨替えをして男の娘に手を出すなんてことは無いでしょうし、そういう意味ではさほど心配していません。
ええ、心配なんかしていませんよ。
ただ、突然大きな竜を連れ帰ってくることもあって、おかしなことをしているのは間違いないですね……。
なんですか、フレアって!
ペット枠はカナウで間に合っていますよ!?
とにかくママの企みがなんなのか──それが判明したのは、卒業式の前日でした。
その日の放課後、私とアイリス様は、エリに呼び出されました。
なお、カナウは勝手についてきているのです。
「あの……お集まりいただき、ありがとうございます」
と、エリは何やら顔を赤くしてモジモジとしているのです。
いちいち可愛いのが少しムカつきますね……。
事実──、
「はい、エリ様!
お声をかけていただき、光栄ですわ!」
ほらぁ、アイリス様が頬を染めて、凄く嬉しそうじゃないですか!
愛らしいなぁ、もお!
「で、一体何の用なのです?」
私はエリに対して話を進めるように促します。
「それは……その……」
だけどエリは、まだモジモジしていて、なかなか言い出せないようなのです。
ハッキリしないのは、ちょっと苛つきますね。
そこへ、
「おい、エリ!
早くしろよ」
と、カナウが急かします。
私が言いたかったことなので、ナイスなのですよ。
「あっ、ハイ!
そ、その……こういう物を用意したのですが……」
「これは……指輪ですか?」
エリが取り出したのは、2つ指輪でした。
ははぁん、婚約指輪ですか。
よく見れば、エリも左手の薬指に同じ物をはめていますね。
ああ、ママと隠れて、これを作っていた訳ですか……。
ママが竜を拾ってきたことを考えると、何処か人も寄りつかないような秘境で、材料を採取するところから始めたのでしょうね。
「メイド長の故郷では、婚約者に指輪を贈る風習があるそうです」
「まあ、それを私達に!?」
「はい、切っ掛けは成り行きだったのかもしれませんが、婚約するからには私もアイリス様の想いに、本気で応えていきたいと思います。
これは私達が婚約者だという証です。
どうか受け取ってください」
「はい、ありがとうございます、エリ様!」
あ~あ、涙まで浮かべて喜んじゃって……。
私が指輪を贈っても、あんなに喜んではくれないでしょうね……。
正直言って、悔しいのです……。
そしてエリは、アイリス様の左手の薬指に指輪をはめました。
「はあぁ……私、幸せですわ……!」
くっ、アイリス様。
私もなんとかして、同じくらい──いえ、それ以上幸せにしてあげるのですよ!
エリ、あなたには負けません!
私がエリに対して鋭い視線を送ると、彼は少し怖じ気づいたように顔を青くします。
それでも勇気を振り絞ったのか、
「あの……姫様も、受け取ってくれますか?」
自信なさげに、指輪を差し出してきました。
はぁ……これの材料を集める為に、竜と戦うなど、色々な苦労してきたのでしょう?
ならばその努力を、少しは信頼すべきではありませんか?
まあ、エリはそういう弱気な性格だから、仕方がないのでしょうけれど……。
だけどもう少し自信を持った方が、格好いいと思うのですよ?
「……アイリス様のと、お揃いのが欲しいだけなんですからね?」
と、私はエリに左手を差し出します。
「あ、ありがとうございます!」
エリは嬉しそうに私の指に指輪をはめようとしますが、緊張しているのか手間取っています。
まったく……世話が焼ける子なのですよ……。
これはこれからも私が面倒を見てあげないと、駄目なんですかね……?
その時──、
「あーっ、あたしも姫さんとお揃いのが欲しいぞ!」
カナウが駄々をこねました。
いやいや、あなたはエリの側室候補ではないでしょう?
ここはむしろ私が、用意しておくべきでしたね……。
「あ、はいはい、先輩の分も用意してありますよ」
あるのですか!?
エリはポケットから指輪を取り出します。
「おー、やったー!
姫さんのとお揃いだー!
エリ、お前いい奴だなー!」
カナウがはしゃいでいますね。
彼女にまで指輪を贈るのはどうかと思いますが、喜んでいるのなら良いことにしましょう。
でも、これでなし崩し的に、カナウまでエリの側室になるなんてことは無いですよね?
……それにしても指輪ですか。
ふむ、綺麗ですね……。
太陽の光にかざして見ると、不思議な色合いに光を反射しています。
ミスリル製でしょうか?
ま……貴重品なので、大切にはしてあげましょうかね……。
ふふふっ……。
アイリス様、名前を出した時点では完全にモブだったんですけどね。他に悪役令嬢っぽいのを出そうかな……と思っていたんだけど、いつの間にかこんなことに……。




