78 穴の底にいた者
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「あああああああーっ!!」
私達を乗せたトロッコは、巨大な穴の中を落ちていく。
だが、その速度はゆっくりだ。
その事実に気付いたエリは、間の抜けた声を上げた。
「ああぁぁ……あれ?」
「風の魔法で落下スピードをコントロールしているから、安全ですよ」
「そのようね……。
でも、さすがに驚いたわ……。
何かしら、この大穴……?」
「地盤沈下でしょうかね……?
あ……上の方に空が見えますね。
帰る時は、あそこからにしましょう」
帰り道がショートカットできるのはありがたい。
初めて来た場所では、あまり転移魔法は使いたくないからなぁ。
使ったとしても、なるべく目で見える範囲が無難だ。
それ以外の場所だと、座標を間違えて事故を起こすなんてことも有り得るのだから。
それにしても、この大穴はなんなのだろう?
前の世界でも、地盤沈下で町の真ん中に大穴が空いてる画像を見たことがあるので、自然でもまったく有り得ない現象ではないのだろうけれど、私の目でも底が見えないほど深いというその規模には驚かされる。
これ、アレフ●ルドに繋がっていないよね……?
そんな危惧をした私だったが、暫くすると底が見えてきてホッとする。
「着地しますので、一応トロッコにしっかりと掴まっていてください」
私達が辿り着いたのは、広い空間だった。
たぶんドーム球場とかよりも、何倍かは広いんじゃなかろうか……。
「う~ん……?」
「どうしたのよ、アリゼ?」
「いえ……地盤沈下にしては、沈下した地面の形跡が無いな……と」
あのトロッコが使えたぐらいだから、あの坑道が放棄されてから経過した時間は、どんなに長くても数十年だろう。
そしてその坑道を切断するように大穴が空いたのも、その数十年以内のことであるはずだ。
それなのに、沈み込んだ地面の形跡が何処にも無い。
事実、この空間の床は頑強なな岩盤で、沈下した地面の土砂が流れ込んで形成されたようには見えなかった。
これはむしろ、この空間にいた何者かが天井を突き破って……?
ゴ●ラだって地下の巨大空洞に繋がる大穴を熱線で穿ったことがあるし、それの逆をやった奴がいると思えば、そんなに不思議な話では……。
……って、いやいや、どんな化け物だよ!?
封印されていた地獄の帝王でも復活したのか?
でも、地上では特に騒ぎにはなっていないし、危険は無いのか……?
ちなみに現在、この鉱山の周辺に人はいない。
ただ廃墟が広がるばかりだ。
昔はミスリルの採掘で町の財政が潤っていたのだろうけれど、ミスリルが採れなくなって鉱山が廃棄されると、一気に町は衰退してしまったらしい。
元々山岳地帯で農業には向かないし、近くに漁業ができる河や湖も無い。
結局、基幹産業をミスリルにほぼ全て依存していた町は、滅びるしかなかったのだろう。
何事も一方向に偏るのは危険だってことだね。
で、人気の無いこの地から、人知れず強大な何者かが何処かへ消えた。
あまり気持ちの良い話ではないが、現状では何の被害も出ていないので、何の対策も取りようがないな……。
「ともかく、ここをもう少し調べてみましょうか」
で、索敵をかけてみると、何か動いているのがいるなぁ。
しかも結構大きい。
それがこちらに向かって近寄ってくる。
「皆さん、気をつけて!!
何か来ます!!」
直後、私達に向かって炎が吹き付けられた。
勿論、結界でガードしたので被害は無いが、クラリス達は生きた心地がしなかったかもしれない。
それだけ凄まじい炎だった。
これは魔法ではなく、息攻撃だな。
「な、なによ、一体!!」
「たぶん、竜ですねぇ……」
そう、おそらくこの世界で最強の座を魔族と争う魔物──竜だ。
ただ、今の息攻撃の感じから、ここの天井をぶち抜くほどの強さは感じない。
おそらく丁度いい穴がたまたまあったから入り込んで、巣を作っていた野生の竜かな?
そんな私の予想通り、全身が真っ赤な鱗で包まれた巨大な竜が姿を現した。
「ひっ、ひいぃぃ!?」
エリが悲鳴を上げているが、ダンジョンでもここまで大きいのって、今はいないからなぁ……。
その昔、80階層の守護者──古竜ガイガってのがいたけど、あれの方が今目の前にいるのよりも大きくて強そうだった。
ガイガは立ち上がると全高が15mくらいだったから、頭から尻尾の先まで含めて15m程度のこの竜は小さい方だと言えるかもしれない。
それでも、初めて見る者にとっては驚異的な大きさか。
「アリゼ、これ結構危ない奴なんじゃないの!?」
さすがにクラリスも焦っているが、
「大丈夫ですよ。
昔、キエルさんとマルガで、これよりも強そうなのを倒したことがありますし」
「先生が!?」
「あの子達、そこまでなの!?」
エリとクラリスは驚いている。
確かにキエルとマルガはSランクの冒険者だが、見た目だけならそんなに強そうには見えないからなぁ。
ある程度の強さの魔物ならともかく、さすがに竜を倒せるほどとは彼女達も考えてはいなかったのだろう。
「その時と同じように、私は防御に徹しますので、安心して戦ってください」
「よし、そういうことなら、あたしも負けていられないな!」
お、カーシャがやる気のようだ。
でも、それは当然かな。
なにせ彼女は、竜の血に連なる者なのだから──。




