77 ジェットコースター
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トロッコだ。
ゲームなどでもこれに乗って移動するのを、私はよく見てきた。
だからちょっとした憧れのようなものがある。
「丁度いい。
これに乗って移動しましょうか」
「え、こんな長い間整備されていないような物に乗って、大丈夫なんですか!?」
そんなエリの疑問はもっともだ。
ただトロッコ自体は多少錆びてはいるが、車輪もしっかりしているし動きそうだな。
何か魔法的な保護処理でも、されていたのかもしれない。
取りあえず駆動部に、魔法で生成した油を差しておこうか。
しかし問題はレールだろうな。
レールの上に石などが載っていたら、あっさりと脱線する危険性がある。
まあ石程度なら、トロッコの前面に「結界」を展開させて、はね除けながら進めば問題は無いと思うが……。
これには車両の前方に排雪板を設置して雪をかき分けながら進む、ラッセル車をイメージしてもらえればいいだろうか。
ただ、さすがにレール自体が破損している場合は、大事故不可避である。
しかし──、
「大丈夫ですよ。
万が一脱線とかしそうな場合は、転移魔法で安全な場所へ脱出しますし、常に『結界』も使っておきますので」
「そうね、そろそろ歩くのも疲れたし、これで一気に奥まで進んじゃいましょう!」
「ええぇ……そうですか……」
クラリスも乗り気なので、エリもこれ以上は文句を言えないようだ。
そんな訳で私達はトロッコに乗り込む訳だが、4人だとちょっと狭いかな……。
特にカーシャは180cm近い長身の体格だし、結構なスペースを占有している。
「ほら、エリ!
私に抱きついていいから、もっと詰めなさい」
「あうっ、ああぁぁ……」
クラリスに密着されて、エリが情けない声を上げている。
このラッキースケベ体質め……。
まあ、姉弟だから許すが……。
本来ならおねショタなんて、私のとは宗派違いで弾圧対象やぞ!
でもこの姉弟、見た目だけならおねロリなので、私でもちょっと反応してしまいそうになるのが悔しい……!
「ああ……そういえば。
うっかりトロッコに乗った所為で、延々と走り続けるトロッコの上から、数十年間も降りられなくなったという、呪われたバーテンダーの話を思い出しました」
「なんで今、そんなことを言うんですか!?」
エリが怖がっているが、私の嫁と密着しているのだから、これくらいの報復は許して欲しい。
「それでは行きますよ!
しっかり掴まっていてください!」
トロッコ自体には動力は無いので、普通ならば乗っただけでは動くなんてことはないのだが、風の魔法で後ろから押せば問題無く動きだす。
するとトロッコは、いきなり結構なスピードで走り始めた。
ちょっとした傾斜があるようだ。
「わー、馬車よりずっと速ーい!」
おい、やめろ!
その台詞は「サラマンダーよりずっと速い」と宣った、某NTR王女を思い出すじゃないか!
マジで縁起でもない。
でも、基本的にクラリスは楽しんでいるようでなにより。
なんというか、肝が据わっているのはさすが女王様だ……。
一方エリは、
「きゃあああぁぁぁぁぁ!?」
女子のような悲鳴を上げている。
まあ、ジェットコースターみたいだし、普通は怖いよね。
正直言って、私も少し怖い。
だってトロッコやレール自体には、一切安全は配慮されていないからねぇ。
いざという時は、私自身がみんなを守らねばならない。
「……!
……っ!!」
……なお、カーシャはずーっと黙っているけど、平気なのかそれとも我慢しているのか……。
オーラを視る限り、後者だな、こりゃ……。
そして下り坂に差し掛かったトロッコは、更に速度を上げていく。
おおおおお、ガタガタと振動も凄いし、マジで怖いわ、これ!
そして──、
「あ」
バン!! という、大きな音が聞こえた。
そして何か大きな物体が、後方へと吹っ飛んでいく。
「ねえ……今何か轢かなかった……?」
「たぶんコボルトでしょうねぇ……」
トロッコの前面には「結界」を展開してあるので、よほど大きな物に衝突でもしない限り、こちらには影響は無い。
ただ、なにか重大な犯罪を犯してしまったかのような気分になるのは、私に前世の交通事故の知識があるからだろうか……。
私自身は物損事故しか経験が無いけれど、それでも警察に行ったり、保険や修理の手続きをしたりと、色々と大変だった。
ましてや人身事故ともなると加害者も被害者も、それはもう悲惨なことになると聞く。
それこそ時として、文字通り人生が終わるような──。
とはいえ、魔物が相手ならば救護義務も無いし、無視だ無視!
しかしそれからも、何度かコボルトを轢いてしまったので、なんとなく精神的にダメージを受けることになった。
安全運転したいけど、残念ながらトロッコにはハンドルもスピードを調節する機能も無いんだ……。
結局、コボルト達の犠牲は避けられないが、それでもトロッコは順調に進んで行く。
ところが──、
「えっ!?」
急に広い場所に出た──と思ったら、レールの先に何も無く、巨大な穴が広がっていた。
さすがにこれは、私も予想外!!
私達を乗せたトロッコは空中に放り出され、暗い穴の中に吸い込まれていった。




