74 姉達と弟
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エリです。
結局私達は、ダンジョンの実習を途中で棄権した──という扱いになった。
だけどさすがに犯罪に巻き込まれたという、どうしようもない理由があったので、成績については考慮してくれるという。
本来は採取した素材で評価されるはずだったけど、リゼに1回勝利した時点で実力は十分だということになったようだ。
その結果、メイド長からのリーザ様の評価が少しだけ上がったらしいのだけど、そのリーザ様がいつの間にか私の側室候補になっているという話には度肝を抜かれた。
いや……あの人はどうかなぁ……。
見た目だけなら可愛いんだけど、中身がちょっと……。
まあ、今リーザ様は、遠い北の地で修行させられているらしいので、その成果次第だという話だけど……。
いけないとは思いつつも、他人の失敗を少しだけ願ってしまった……。
そして、ダンジョンの実習から数ヶ月。
その間私は、アイリス様のご家族にご挨拶しに行くなど、着々と婚約の準備が進められていた。
まあ、主導しているのがメイド長なので、私は言われるままに動いているだけだし、あまり実感は無いけれどね……。
勿論、姫様のメイドは今も続けているし、学園にも通っているけれど、それとは平行して王族としての振る舞いについての講習を受けたりと、色々と大変な日々が続いている。
そして今私は、王城にある女王様の自室で、女王様とメイド長の3人で昼食を頂いています。
どうしてこうなった……。
「むぐ……このお好み焼きというの、美味しいわね。
それに焼きたてが食べられる、ホットプレートというのも便利だわ」
「まあ、私が魔道具で再現した物なので、元の世界にあるものとは厳密には違うのですけどね。
そういえば、あちらでは身分の高い者は、温かい料理を食べることができなかった時代もあったと聞きますねぇ。
解毒や浄化の魔法が無かったので、毒味役の他人に食べさせて安全を確認してからでないと食べられなかった……とか」
「へえ……魔法が無い世界というのも不便なものねぇ」
「まあ、現在では色々と問題を克服しているので、こちらの世界の方が不便に感じることも多いですよ」
と、女王様とメイド長が話していた。
どうやらメイド長は異世界から来たらしく、その話を聞いて私は妙な納得感を持ったものだ。
この世界の存在にしては、メイド長は常軌を逸した部分が多すぎるからだ。
ただそれでも、未だに謎が多い存在だと言う印象は拭えず、それなのに女王様はよく付き合っていられるな……と、思わないでもない。
多分女王様もメイド長の全てを理解している訳ではないと思うのだけど、それにも関わらず正体不明な部分もひっくるめて、受け入れているらしいというのが凄いと思う。
え、姫様もメイド長とそんなに変わらない?
いや、姫様はメイド長から比べると、まだ分かりやすいような気がする。
……気がするだけかな?
でもどちらかというと、アリタちゃんの言動の方が分からないような……。
ともかく、そんな女王様が私の姉だと言われても、ちょっと受け入れがたいよ……。
女王様との血の繋がりが判明してから数ヶ月が経つけど、未だに慣れる気配が無い。
そして結婚こそしていないけど、女王様のパートナーであるメイド長も我が義理の姉のような存在となるらしい。
それがまた信じられない。
「あら、エリ。
食が全然進んでいないわね。
いつもはもっと食べているでしょう?」
「まだまだ沢山焼きますから、遠慮せずに食べなさい」
「はひ……」
いや、緊張で喉を通らないんですけど……。
女王様に呼び出されて、3人だけで食事をしているという、この状況は一体なんなのだろう……。
「まったく……エリったら、なかなか私と打ち解けてくれないのよねぇ。
折角二人きりの姉弟なのだから、もっと仲良くして欲しいものだわ」
あ……この食事会は、その為の交流の場なのか。
でも、平民として育ってきた私が、女王様と家族づきあいをするというのは、ちょっと難しいのですが……。
「エリ、いずれは未来の女王となる我が娘と結婚するのです。
今から王族との付き合いに慣れて、その振る舞いを学んでおいた方がいいですよ」
「そうよ、まずは私のことを『お姉様』って呼んでみなさい?」
「おね……いや無理です」
「私にはお義姉ちゃんでも、お義母さんでも、どちらでもいいんですよ?」
「もっと……無理です」
恐れ多いのと、恥ずかしさとで、なんだかもう駄目だ。
顔が熱くなるのを感じる。
「も~、情けないわねぇ……」
「ふむ……、これはもっと親しくなる為には、何か切っ掛けが必要なのかもしれませんね」
「ほう、例えば?」
「……そうですねぇ。
一緒に、冒険に行くとか?」
「いいわね、それ!」
「女王様が、駄目でしょ!?」
思わず大きな声を出してしまう。
でも、女王様が冒険者の真似事をするのは、危険が大きすぎるんじゃない?
万が一その身に何かあれば、この国全体に影響があるし……。
「も~、ツッコミだけは一人前なんだから……」
女王様がニヤリと笑う。
「あ……」
あれ、私からかわれた?
それにつられてしまった?
「じゃあアリゼ、冒険に行く場所を選定しておいてね」
「はい、お任せを」
「あれっ、やっぱり本気なんですか!?」
「当然でしょ!」
女王様は、何故か勝ち誇ったような顔で宣言した。
そしてその時──、
「エリちゃんが来ているって本当!?」
王太后様が副メイド長を伴って現れた。
ひいっ、1番面倒くさい人が!!
実際この人、私に抱きついたり、頭を撫で回したりして、なかなか解放してくれないから、困るんだよなぁ……。
我が母親ながら、厄介な人だと言わざるをえない。
「エリちゃ~ん!」
王太后様が私に狙いを定めて近づいてくる。
そこへ──、
「あら、お母様。
これ美味しいから、食べた方がいいわよ?
アリゼの手作りなんだから」
と、女王様が皿に載せたお好み焼きを差し出した。
「本当!?
わあ、美味しそうだわ!!」
王太后様はあっさりと標的を変更した。
ありがとうございます、女王様!
私を庇ってくれたんですね!?
ホッと胸をなで下ろす私。
すると私の頭を副メイド長が優しく撫でてくれた。
「……色々と大変そうだが、頑張りなさい」
「はい……!」
確かに大変なことは沢山あるけど、山賊に家族を殺されて独りぼっちになっていた頃から比べたら、今の私は凄く幸せだな……と思った。




