72 裸の付き合い
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私達が浴室に入ると、アイリス様は感嘆の声を上げたのです。
「はぁ~……ダンジョンの最下層に、こんな場所があるなんて……!」
アイリス様としては、ダンジョンの最下層に温泉があることは勿論、大浴場とも言えるほどの浴室の広さにも驚いているようでした。
なんてったって異世界一~の規模ですからね。
「母がここを気に入ったので最下層を接収して、メイド隊の拠点にしたのです。
居住性を高める為にかなりの改造を施していますが、ここは特に力を入れていますね」
「そうなのですか…… 」
元日本人であるママの感覚としては、やはりお風呂は大事なのでしょう。
我が家の浴室もなかなかのものですが、この大浴場はママの技術と財力を総動員してリフォームをした結果、ちょっとしたスーパー銭湯みたいになっています。
ジャグジーやサウナもありますし、ここは温泉の遊園地~なのですよ。
なお、ダンジョンには床に置かれた物体を吸収して、ダンジョンを維持する為のエネルギーに変換するという性質があるのですが、さすがに最下層の居住区では家具などが置けなくなる為、吸収する機能は無いようです。
ただ、破壊された箇所が自己再生する機能はあるので、改築を施す為には魔法で色々と改変する必要があったらしいですね。
「さあ、アイリス様!
お背中を流して差し上げます。
どうぞここにおかけになってください」
「えぇ……どちらかと言えば、臣下である私の方が殿下お背中を流すのが筋かと……!」
「いいのです、いいのです。
順番ですから、私には後でしてください!」
「は……はあ」
と、半ば強引にアイリス様を座らせ、私は彼女の背後に立ちました。
白くて綺麗な肌の背中と、丸みを帯びたお尻が見えますね。
ふ~ん、えっちじゃん……なのです。
「あ、あの……殿下?」
「はっ!?
……い、今から始めますよ」
いけない、いけない。
うっかり見入ってしまったのです。
アイリス様が不審に思っていますね。
私は慌てて、アイリス様の背中を流し始めました。
勿論、素手ではなく石けんを泡立ててタオルで──なのです。
さすがに今、マッサージ術を使うのは拙いような気がしますし……。
あれを使えば、アイリス様を私の虜にすることも可能でしょうけれど、それはちょっと無粋と言うか、卑怯だと言う気がするのですよ。
それにアイリス様は、「状態異常無効」のスキルを持っている可能性があるらしいので、万が一マッサージが効かなかった場合、強引な手段を使った私への心証が悪くなってしまうかもしれません……。
ここは「ちょっと心地良い」と感じる程度で、済ませるのが無難でしょうね……。
『ふ~ん、姉さんって、色恋沙汰には案外ヘタレなんだねー』
「んんっ!?」
「えっ、殿下どうしましたの!?」
私が思わず上げてしまった声に、アイリス様も反応します。
「い、いえ……なんでもないのです」
私はそう答えましたが、正直言って動揺を隠せませんでした。
今の念話は……誰かが見ている……!?
私は周囲を見回します。
私の「万能感知」のスキルにも引っかからないほどの、「隠密」スキルを持つ者……。
そして私のことを、「姉さん」と呼ぶ者と言えば……!!
いたっ!!
少し離れた湯船の中に、誰かいる!!
──って、怖っ!?
水面から半分だけ頭を出してこちらを伺っているとか、どこの妖怪の類いですか!?
それは妹の──我が家の三女であるアリタでした。
このダンジョンに来ていたのですね……。
『アリタ……邪魔をしないでください。
今大事なところなのです』
『え~、でも私だって未来の義理の姉に挨拶くらいはしたいかなぁ。
紹介してよー。
それに姉さん、さっきからその人とあまり会話できていないでしょ。
見ていてもどかしいくらいだよ?
だから私を、話題の切っ掛けにしてもいいんだけど、どうかなー?』
『ぐぬ……。
分かりました、上がってきなさい……』
「はーい」
「えっ!?」
アリタの返事の声を聞いて、アイリス様が驚愕します。
まあ、先程まで私も二人きりだと思っていたくらいだし、当然でしょうね……。
「あれ……?
子供……?
いつからいたのでしょう……」
「済みません、アイリス様。
我が妹のアリゼナータです」
「殿下の妹ですか!?」
新たに現れた我が姉妹に、アイリス様は意外そうな顔をしました。
まあ、何人いるんだよ?──って話ですよね。
ただ、この世界の子供の死亡率は高いので、予備の為……と言ったら言葉は悪いのだけど、子供を沢山作る傾向にはあります。
少数だと何かの拍子に子供が全滅して、家系がそこで途絶えてしまうことも有り得ますからね。
だから兄弟が5人以上──時には10人前後いる家庭も、そんなに珍しくはないのです。
つまりアイリス様が驚いているのは姉妹の数ではなく、私達のような巨大な能力を持つ者が、まだいるのか──という点でしょうね。




