70 決まっていく方向性
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途中で視点が変わります。
リーザがエリの側室に名乗りをあげた。
↓
私が却下した。
↓
アイがリーザを引き取ると言い出した←今ここ。
「アイ……軽々しくそういうことを言わない。
そもそも、オモチャが欲しいだけでしょ、あなた」
「うん、そう」
あっさり認めるなよ。
……ただ、案としては悪くない。
「ふむ……開拓地で、リーザを鍛え直してもらうのも、いいかもしれませんねぇ……。
最近、ノーザンリリィの町よりも更に北へ、開拓を進めているのですよね?」
「そうだよー」
「……!!
嫌じゃあ、開拓地に左遷は嫌じゃあ!
というか誰なのじゃ、この恐ろしい気配をしている娘は!?」
リーザは全力で首を左右に振る。
「あれ? そういえばアイと会ったことはありませんでしたっけ?」
「擬態した姿だけだねー」
と、アイはニナの姿に変わる。
「お前ーっ!?」
「いやあ、しっかりと騙されてくれたねぇ。
私はお母さんの娘で、レイチェルの姉のアイだよ。
よろしくね」
「聖女様の……!?」
リーザの頬が引き攣った。
私の娘という時点で、絶対に逆らってはいけない相手だと、理解したようである。
とりあえずリーザの処遇については、アイに丸投げすることにしよう。
「まあ、今後のことは2人で話し合ってください」
「そ……そんな……!!」
愕然とするリーザだが、サボり癖を改めろと言っても、なかなか改めないお前が悪いんやぞ。
ちゃんとやっていれば、ここまで厳しいことは言わんわ。
そんなやりとりをしていると、頼んでいたパンケーキが運ばれてきた。
お……きたきた、きましたよ。
「あなたがもっと心身を鍛えて、頼れるようになったら側室の件は考えます。
取りあえず今は、それを食べなさい」
「う……うむ!」
で、側室のことなどもう頭の隅に追いやってしまったかのような勢いで、パンケーキを貪るリーザ。
どんだけ腹を空かせていたんだよ?
……まあ、今は私もパンケーキを頂こうか。
うん、美味しい。
アイリス・クラウ・オーラントですわ。
もう少しでアイリス・ドーラ・ローラントになるかもしれませんわね。
えへへ……。
……失礼、少々妄想に浸ってしまいました。
まさか私がエリ様の側室候補になれるとは、夢のようですわ。
まあ……レイチェル殿下の側室にもなるのかもしれないという話には、戸惑いますが……。
女性同士というのは、どうなのでしょう……?
ちょっと想像の及ばないところもありますが、あの愛らしい王女殿下に愛していただけるのは、光栄なことであるような気もしますわね……。
ただ、私の方から殿下を愛せるのかは、よく分かりませんの……。
それにしても、エリ様が女王陛下の弟君だというのは、予想外でしたわ……。
アリゼ様に少しだけ事情をお聞きしたのですが、王太后陛下は一時期荒れた生活をしていた為、子育てができるような状態ではなかったそうで……。
結果としてエリ様は養子に出されたようですが、女王陛下も両親から顧みられることもなく、かなり寂しい想いをしていたと聞きます。
その所為で女王陛下は周囲に当たり散らす、ひねくれた子供になっていたそうです。
が、そんな陛下の心の穴を埋めて立ち直らせ、親子の関係も修復させたのがアリゼ様だった……とか。
まさか魔族の呪いを受けていた前国王も救っていたとは、これまた予想外ですわ。
まあ、その結果が、あのグラスというメイドだというのは、もっと予想外ですが……。
前国王がメイドに姿を変えて生き延びているとか、さすがに訳が分かりませんわよ!?
まあ……あのリュミエル達が女性の姿に変えられたのを私も見ているので、そういうこともあるのかもしれませんわね……。
だけどこれを吹聴したら、命を狙われるレベルの機密なのでは!?
お祖父様は、このことを知っているのでしょうか……?
いずれにしても女王陛下がアリゼ様といかに強い信頼関係を築いているのか、その馴れ初めを聞くと理解できるような気がしますわね。
それが少し、羨ましくも感じますの。
私と殿下も、同じような関係を築くことができるのでしょうか?
「おや、話は終わりましたか、クラリス?」
その時、女王陛下と殿下が戻ってきました。
噂をすれば……という感じですわね。
あら……エリ様は?
姿が見えませんわね。
「お母様は、グラスに城へと送らせたわ。
……なんというかあの人、ペットを可愛がりすぎて死なせるタイプよね」
「エリからクリスを引き剥がすのには苦労しました。
エリは疲れたので、また寝る……と、部屋に戻ったのです」
呆れたような陛下と殿下。
エリ様の身に一体何があったのでしょうか……。
おそらく酷いストレスを感じるようなことが起きたのだと、なんとなく察しますが……。
「とりあえずエリについては、生まれつき病気を持っていた為、王位継承権も与えずに辺境で療養させていた……ということにしたわ。
まあ実際、エリの存在が表沙汰になっていたら、反女王派から旗頭として担ぎ上げられて国が二分する危険性もあったし、隠していた理由にも納得感はあるでしょう」
まあ妥当な判断でしょうね。
今になってエリ様が表舞台に出るのも、王女殿下との婚約が決まっている為、王位の継承権で揉める可能性が無くなったからだ……と、事情を知らない方々からは理解されるでしょう。
むしろ殿下が養子だということで、次期女王候補であることに反発していた勢力も、女王の弟君との婚姻で反対する理由を失うことになると思いますわ。
正統な王族が王配になる訳ですから、もう血筋云々では文句の付けようがありません。
「それで、婚約の発表はレイチェル達が学園を卒業する時……と、考えているから、そのつもりでいてちょうだい。
それまでにオーラント公爵家とも話を進めておくわ」
「は、はい」
学園を卒業する時というと、あと1年ほど先ですわね。
まだまだ時間はありますし、まずは落ち着いて、ゆっくりとことを進めましょう。
しかし──、
「アイリス様、一段落したので、一緒にお風呂で身体を休めませんか?」
「え……?
はい……」
殿下のお誘いで、私はまだまだ落ち着けないのだと悟りましたの。




