68 エリの正体
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「エリが私の弟!?
どういうことなのよ、アリゼ!!
エリが元々王族だったということにして、婚姻を進めようってことなの?」
さすがにクラリスも動揺している。
今まで弟なんか存在していなかったのだから、当然だろう。
ただしこれは、エリの身分を偽装しようという話ではない。
「いえ、エリは正真正銘のクラリスの弟ですよ。
以前彼を鑑定してもらった時に、名前が『エリリーク・ドーラ・ローラント』であることが判明したので、間違い無く直系の王族です。
心当たりがある人が、この場にもいるのではないですか?」
そんな私の指摘を受けてエリは、
「……確かに両親とは似ていなかったので、実の親ではない……と、薄々感じていましたが……。
え? 私が女王様の? え?」
絶賛混乱中である。
まあ彼も、生まれた時の記憶なんてあるはずもないので、養父母から事情を聞いていなければ、詳細を知るはずもない。
だが、実の親ならばどうだろう。
「おい、おい、おい!?」
「痛い、痛いわ、グラスちゃん!
やめてぇ!」
グラスが隣に座っていたクリスの脇腹を、肘で小突き回していた。
グラス自身には身に覚えが無いようなので、となると容疑者は自ずと絞られる。
「……そ、そういえば、こっそりと養子に出した子がいたわぁ……。
国王陛下の子じゃなかったから、表に出しちゃいけないと思って……」
当時のクリスは後宮に引きこもっていたので、妊娠・出産の事実が夫や娘にはバレなかったのだろう。
「お母様……あなたという人は……」
クラリスがドン引きした目で母を見ていた。
他の者達も似たような反応である。
でもかつてのクリスは、夫に顧みられない寂しさから男遊びに溺れ、麻薬にすら手を出していた。
そんな彼女だからこそ、隠し子の1人や2人がいても、そんなに不思議な話ではない。
そしてあまりの醜聞なので、自身の傍で赤子を育てることができなかったというのも、当然である。
むしろその赤子が、よく闇に葬られなかったものだと思う。
まあ、あの頃のクリスは自暴自棄になっていたので、その醜聞が原因で身を滅ぼすことになっても、それはそれで良いと考えていたのかもしれない。
あるいは最低限の良心は残っていたのか。
いずれにしても、結果的にエリがここに生き延びることとなっている。
「この、この馬鹿者が!」
「ごめんなさい、グラスちゃん!
反省しているから! もうしないからぁ!」
グラスがペシペシとクリスの頭を叩いていた。
今の彼女が本気で叩いたらクリスは即死するので、極限まで手加減しているし温情だな。
それにクリスに対して何も想いが無いのならば、グラスもあんなに怒ることはないだろう。
婦婦仲が良いようでなによりです。
だがな、グラス。
君も悪いんだよ?
「その辺にしておきなさい、グラス。
あの当時のことは、家庭を顧みなかったあなたにも責任があります」
「はっ……お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません」
と、グラスは頭を下げるが、血の繋がらない息子がいきなりできたようなものだから、複雑な顔をしている。
そしてそれは、クラリスも同様だろう。
「まったく……なんで今まで黙っていたのよ?」
「どうせ暴露するのならば、最高のタイミングでの方が面白いと思いまして」
「あなたねぇ~……」
と、クラリスは呆れ顔になる。
そしていきなり「弟」ができたと言われても、普通は困る。
だが、彼女の女王としての度量は大きい。
このような事態にも、すぐに適切な答えを出すことができるだろう。
「……だけど、事情は大体分かったわ。
まあエリならば、真面目に働いているのは見てきたし、人格的にも問題は無いでしょう。
弟として認めるわ。
公式にはどう発表すればいいのか、それは後で考える必要はあるけれど……。
あ、エリはキエルのところで保護されていたのよね?
本当にありがとう。
おかげで五体満足の弟に会うことができたわ。
あとで勲章も授与しましょうか」
「えっ、いいですよぉ!
大体、エリ……様を助け出したのは、レイちゃんですし」
キエルは慌てて辞退しようしていたが、一時的にせよ王弟の育ての親であったことは事実なので、そのことに対して何もしないようでは、王家としては恩知らずだということになってしまう。
ここは拒否権が無いものとして、勲章授与の計画は進めておこう。
「エリも、いずれ王弟として表舞台に立つ──それでいいわよね?」
「え、しかし……私なんかが本当によろしいのでしょうか?」
戸惑うエリ。
むしろこの場にいる者の中で、最もこの事態を受け止め切れていないのが彼なのかもしれない。
「まあ、ゆっくりと受け止めていけばいいのですよ。
私はあなたの義姉で義母になるのですから、頼ってください」
「め、メイド長が姉で母……?」
なにその嫌そうな顔は。
まあエリから私は、ちょっと恐れられているからなぁ……。
「ちなみに副メイド長のグラスは、あなたの義理の父となります。
本当の父親はちょっと分からないので、彼女にも頼ってください」
「え……?
副メイド長が父……?」
「元はクリスの夫で、クラリスの父ですからね」
「ええぇ……?」
めっちゃ困惑している。
ただ、既に男がメイドにされた実例はエリも見ているので、何があったのかはある程度理解はしてくれると思う。
ともかく、そんな困惑中のエリに、
「エリちゃ~ん、ごめんなさーい!!
捨てたりなんかして、お母さんが悪かったわぁ!!
これからは一生懸命、母親をするから、許してぇ~!!」
「うわっ!?」
クリスが抱きついてきた。
エリはいきなり王太后に抱きつかれて、どうしたらよいのか分からずに石化したみたいになっている。
まだ平民の感覚である彼にしてみれば、強引に王族を引き剥がす訳にもいかないし、そもそも女性の扱い方か分からないのだろう。
まあ、ここはクリスの好きにさせようか。
反省だけはちゃんとしているみたいだし、これまでエリに注ぐことができなかった愛情を、今からタップリと与えてやればいい。
「クラリス、エリが養子に出された経緯の説明や、今後の扱いについては、家族でよく話し合ってくださいね。
別室にて余人を交えずにどうぞ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「あ、じゃあ私も行くのです」
と、レイチェルも席を立った。
彼女も表向きはクラリスの娘なので、家族会議に出席する権利はある。
まあ、離ればなれになっていた家族の再会に水を差すような形になるかもしれないが、エリとしても生粋の王族だけに囲まれるよりは気が楽かもしれない。
私は事態について行けずに呆然としているアイリスの為に、話し相手にでもなってあげようかな。
将来は娘の嫁になるかもしれないので、今から交流を深めておきたいしね。
今年最初の更新でした。これからもよろしくお願いします。




