67 隠された真実
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はい、最近隠居気味のアリゼです。
まあ、私が本気で動かなければならない時って非常事態なので、動く必要が無いのならその方がいいし。
他人に任せられることはぶん投げて、私は好き勝手に異世界生活を満喫するよ。
でも、娘──レイチェルの恋愛事情については、私が一肌脱がないと駄目な感じ。
どうやらレイチェルは、公爵令嬢のアイリスのことが好きらしい。
前世で男から酷い目に遭わされた彼女としては、男を恋愛対象として見ることは難しいのだろうねぇ……。
そしてレイチェルにとって意中のアイリスは、お嬢様育ちにしては高慢さが無く、オーラを視ても純朴な性格をしていることが分かるので好感が持てる。
これは是非ともレイチェルとの仲を応援したい。
しかしそのアイリスは、エリのことを好いているという。
エリはねぇ……うちのメイド隊の中では戦闘力が最低レベルだけど、持っている「吸精」スキルは汎用性が高いし、本人も機転が利くタイプなので、アイリスから見ても頼れる存在だったのだと思う。
それに見た目も可愛いし。
誰彼構わずに魅了するあたり、やっぱり魔性の存在なんじゃないかな……。
だが、男だ。
そしてそんなエリはレイチェルのことが好き──と、このままでは誰の恋も実らないことになる。
そもそもレイチェルとアイリスの身分は高く、それに対してエリはメイドに過ぎないので、この身分差もどうにかしなければならない。
まあ、それをどうにかする手段はあるし、この身分差の問題さえ解決すれば、3人全員の想いを成就させることは可能だ。
「ただしこれは、あくまで妥協案です。
あなた達3人の望みを100%叶えるものではありませんし、まさに妥協してもらわなければ成立はしませんよ?」
私の言葉を受けて、レイチェル、アイリス、エリの3人は神妙に頷いた。
「とりあえず、その内容を話すのです。
私達がどうするのかは、それから決めます」
と、レイチェルに説明を促された。
「そうですね……。
ではまずレイチェル、あなたはエリと婚約しなさい」
「んなっ!?」
それを聞いたレイチェルが、椅子から腰を浮かせた。
エリはまだ状況が飲み込めないのか、固まっている。
「ど、どういうことなのです!?」
「ああ、その件ね……」
レイチェルの疑問の声に答えたのは、私ではなくクラリスだった。
「レイチェルには貴族からの求婚の申し出が、ひっきりなしにきているのよのねぇ……。
まだ小さいから、御しやすいとでも思っているのでしょうけど……。
そろそろ断るのも面倒臭いから、婚約者を決めておいた方がいい──と、アリゼとも話していたのよ。
でも、なんでエリなの?」
「レイチェルがギリギリ我慢できそうな男性が、エリしかいなからですよ。
レイチェルもむさ苦しい男から、しつこく言い寄られるのは嫌でしょう?
取りあえず形だけでもエリと婚約して、これ以上の求婚を抑制するだけでも意味があると思うのですが……」
「そ、それはそうかもしれないけれど……」
レイチェルは、語尾を弱めながら席に座り直した。
この話にはメリットもあるが、それでも婚約には抵抗感があるのだろう。
喜んで受け入れる──ということにはならないはずだ。
一方──、
「形だけの婚姻でも夫婦として一緒にいれば、将来的にはレイチェルが心を開いてくれる可能性もある訳ですし、これはエリにも損な話ではないと思うのですけど?」
「そ……それは確かに……?」
エリはレイチェルの近くにいる為だけに、女の子になると言い出し、そして女装を続けているような子だ。
今後もレイチェルの傍にいられる理由ができるのならば、嫌とは言わないだろう。
さて、問題はここからだ。
「で、仮にレイチェルとエリが結婚した場合、当面は跡継ぎの誕生は期待できないでしょう。
最悪の場合、また養子という手もありますが、血筋重視の貴族達からは、あまり評判はよくありませんからねぇ……。
そこで公爵家の令嬢であるアイリスさんをエリの側室として迎え入れて、跡継ぎを作ってもらいます」
「えっ、私!?」
「なっ!?」
いきなり話の中心になったアイリスよりも、レイチェルの方が慌てた態度を示した。
彼女はまた立ち上がって、
「反対っ、反対なのです!!
エリにアイリス様は勿体ないのですっ!!」
と、噛みついてきたけど、
「表向きにはエリの側室であるのと同時に、レイチェルの側室にすることが可能だとしても?
まあ、あなたの努力と、アイリスさんの気持ち次第ですけどね」
そう伝えると、レイチェルは静かに席に座り直す。
「……一考の価値はあるかもしれないのです」
あっさりと前言を翻した。
我が娘ながら打算的だな、おい。
一方、アイリス様はというと、
「私がエリ様と殿下の側室……」
なにやら心ここにあらずという感じで、にやついている。
まんざらでもなさそうだな。
実質的にアイリスにとってはハーレムだからね。
「……と、この方法ならば全員に得があります。
まあ、お互いに妥協しなければならないことも多いですし、少々倫理観に問題があると感じることもあるかもしれませんが、王族としてならば普通のことです。
とりあえず前向きに考えて、話を進めてみませんか?
どうしても駄目ならば、公式に発表する前までという条件は付きではありますが、途中でやめることもできますし」
「そうですね……」
「そういうことなら……」
レイチェルとアイリスは納得したようだ。
元々王族や貴族であるのならば、政略的な結婚は切り離せない。
それから比べれば、自身の気持ちにある程度添う形となっているこの縁談は、そんなに悪い話ではないはずだ。
ただ、エリは──、
「あの……その方向で行くとして、私の身分はどうなるのでしょうか?」
そんな心配を抱いているようである。
平民と王女は結婚できない。
それがこの国──いや、もしかしたらこの世界全体の常識かもしれない。
だけどその問題は、実のところとっくに解決していた。
「大丈夫ですよ。
エリはクラリスの弟なので」
「「「「は?」」」」
私の言葉を受けて、エリだけではなくクラリスとその両親も驚愕した。
今年の更新はこれで最後となります。喪中の為、年始の挨拶もできないので、このまま正月休みに突入します。更新の再開は、たぶん3日くらいからです。




