65 お嬢様の提案
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今回は前回からちょっと時間が戻ります。
アイリス・クラウ・オーラントですわ。
殿下とそのお姉様によって、リュミエルの襲撃から救われた私達は、殿下の転移魔法によって運ばれました。
そこはまだダンジョンの中であるようでしたが、少し様相が違っているような気がしますわね……。
それに──、
「お帰りなさいませ、お嬢様」
複数のメイドが、出迎えてくれました。
明らかにここで、人が生活しているようですわ?
「あの……ここは……?」
私が訪ねると、殿下のお姉様だというアイ様が答えました。
「ダンジョンの最下層だよ~。
お母さんがここに住んでいた魔族を追い出した後に、別荘……と、メイド隊の拠点として利用しているんだって」
「なっ!?」
ここがダンジョンの最下層……!?
公式には完全攻略されたというお話は、聞いておりませんが……。
しかもここを私的に使うって、いいのですか!?
……あ、いいのですよね。
メイド長は、実質的なこの国の支配者であるそうですし……。
というか、魔族を追い出したって……。
かつてこのクラサンドで魔族との戦いがあったそうですが、それに関わっていた……ということですか?
え……魔族に勝利するって、もしかして彼女は伝説の勇者様!?
リーザ様もメイド長のことを「聖女様」と呼んでいますし、女神様がこの世に遣わした救世主なのでしょうか……。
そんなことを考えていると──、
「おや、戻りましたか。
レイチェル、アイ」
「はい、ただいまなのです」
「バカどもを片付けてきたよー!」
件のメイド長本人が来ましたわーっ!?
「あら、あなたはアイリス様ですね。
私は女王陛下の筆頭侍女、アリゼ・キンガリーです。
もう知っていると思いますが、そこのレイチェルとアイの実母でもあります。
……この度は、我々の事情に巻き込んで申し訳ありませんでした。
アイは少々突飛なところがあるので、ご迷惑をおかけしたと思います」
「い……いえ」
と、メイド長──アリゼ様は頭を下げました。
初めてお話をしましたけれど、柔らかい雰囲気の御方ですわね。
しかし──、
「え~、お母さんがそれを言う?
私が1番お母さんに、似ていると思うんだけど?」
「ですね……」
アイ様の抗議の言葉に、殿下も同意しました。
つまりこのアリゼ様の態度は、猫を被っているということなのでしょうかね……?
やはりこの御方も、なかなかなの難物なのかもしれません。
いずれにしても、軽んじて良い相手ではないことは確かですわ。
私はカーテシーで挨拶をします。
「あ……あの、お初にお目にかかります。
アイリス・クラウ・オーラント……財務大臣の孫でございます。
お祖父様がいつもお世話になっておりますわ。
どうか今後ともお見知りおきをば……」
「これはご丁寧に……。
ふむ、なかなか良い娘ではないですか。
ねえ、レイチェル?」
「は……はい」
アリゼ様が意味ありげに殿下へとかけた言葉の意味を知ったのは、少し先の話でした。
それから私は、個室に案内されました。
「アイリス様は、ここで休んでいてください。
暫くの間は、リュミエルの仲間を捕縛することで忙しくなるので、あまりおもてなしはできないと思いますが……ここが1番安全ですので」
と、殿下は言いました。
このクラサンドに入り込んだ反女王派や外国勢力を一網打尽にしようとしているのならば、これはかなりの大捕物になりそうですわね。
まあ、大半はダンジョン内でのことのようなので、それが表沙汰になるのかは分かりませんが、捕らえた者達から得た情報によっては、もしかしたら王都でも大規模な粛清が行われるのかもしれません……。
しかし今の私には、それよりも気になることがあります。
「あの……エリ様……と、リーザ様は……?」
「ああ……2人は眠っているだけなので、大丈夫なのです。
今起こしてもできることはないので、暫くそのまま眠らせておきますが……」
「そう……ですか」
それを聞いて私はホッと安堵したつもりでしたが、胸の鼓動はなかなか落ち着いてくれませんでした。
どうにも先程見てしまったエリ様の秘密が、頭から離れてくれないのですわ……。
はしたないと思いつつも、どうにもあの物体が脳裏にちらついてしまうのです。
……私をこんな風にしてしまったのですから、やはりエリ様には責任をとってもらわないといけませんわね。
それに丁度今、ここには殿下と私しかいないことですし、話しやすいと思いますの。
「殿下……恐れ多いことですが、1つお願いがあるのですが……」
「? なんでしょう?」
「エリ様を譲っていただけないでしょうか?」
「な……」
私のお願いを聞いて、殿下は言葉を失いました。
しかしすぐに、何かを察したかのような顔になります。
「まさか……それはもしかして……」
「はい……私はエリ様に好意を持っていると思います。
男性だと知った今、迷う必要はもう無いかと……」
「くっ、あのサキュバスめ……!
アイリス様までたらしこんで……!」
えっ、殿下には似合わない、罵りの言葉が口から漏れたのですが!?




