64 告 白
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アイリス様に、私が男だと知られてしまった。
それは彼女を欺いていたことを、知られてしまったということでもある。
私が女性だと信じて疑っていなかった彼女には、ショックが大きかったことだろう。
彼女は女性同士でなければ話せなかったことも、私に話していたからだ。
具体的に言うと、ダンジョン内でのトイレ事情とかそういうこと……。
いつトイレに行った──とか、そういうことが男に筒抜けになっていたのだと知れば、アイリス様は辱めを受けたと感じるかもしれない。
「あ、あの、ご──」
私は咄嗟に謝ろうとしたけれど、
「申し訳ありませんでしたっ!!」
アイリス様が先に謝った。
え? 私は彼女から、何もされていないと思うんだけど?
「わ……私、エリ様の大切な部分を見てしまって……!
もしも私の立場だとしたら、もうお嫁に行けなくなるほど恥ずかしいことですわ……!」
う……う~ん、確かに恥ずかしいことだけど、私がお嫁にはいくことは有り得ないので、アイリス様の言葉には、いまいち共感しにくい。
だけど彼女は、かなり深刻に捉えているようだ。
「ですから私、責任を取ってエリ様を、婿養子として我が公爵家に迎えようと思っていますの!」
……うん?
「え、今なんと……?」
「結婚しましょう、エリ様っ!!」
……うん、アイリス様は、ご乱心なされたようだ。
「えっと……そこまで責任を負わなくても大丈夫です。
さすがに飛躍しています。
見られたことでいちいち結婚していては、私は他の人とも結婚しなければならなくなります」
実際今回のことではアイリス様の他に、アイさんやリュミエル達にも私の裸を見られているはずだ。
それ以前に、キエル先生とかにも見られている。
「まあっ、私が妻では不満だと!?」
「いや、そういう話ではなく……」
アイリス様は魅力的な女性だとは思うけど、私が好きなのは──、
「私は姫様をお慕いしております……」
「……!!」
私の告白に、アリス様は目を見開いて言葉に詰まった。
しかしまだ諦めきれないのか、
「しかし──」
まだ食い下がろうとしているようだ。
そこへ──、
「はい、そこまでです。
アイリス様」
と、姫様が割って入った。
「ね、言ったでしょう?
エリの本命は私だと……」
「殿下……」
姫様とアイリス様の間で、緊張感が高まっていった。
あれ? なんだかお2人が、私を取り合っているかのような構図に見えるな、これ……。
姫様は私とアイリス様の間に入ってくることが多かったし、これは期待してもいいのだろうか……?
ところが次の瞬間、姫様の口から出た言葉に、私は驚愕した。
「だからエリは諦めて、私と付き合うのが良いと思うのですよ?」
……え? え!?
「どうなのです、アイリス様?
エリよりも私は、あなたを大切にするのですよ?」
「あの……女性同士ですし、私はエリ様の方がやっぱり……」
今、姫様はアイリス様を口説いた?
あれ? 今まで私とアイリス様の間に割って入ってきたのも、私ではなくアイリス様の方が目的だった──!?
「ええええええぇぇぇぇぇぇ──っ!?
そっちぃぃ──!?」
「エリ、うるさいのですっ!!」
姫様って、アイリス様が好きだったの!?
というか、女の人が好きだったの!?
……あ、でも、母親のメイド長が、女王様と恋人同士であることを考えると、そんなに不思議なことではない!?
でも、それじゃあ……私にはまったくチャンスは、無いってこと……?
いや……元々平民の私では、身分違いだけど……。
こうして絶対に可能性が無いという、そんな現実を突きつけられると──、
「あれ……?」
目から涙が溢れてくる。
「あれ……止まらない。
どうしよう……!」
涙は拭っても拭っても、次から次へと溢れ出てきた。
「エリ様……泣かないでください。
その傷ついたお心、私が慰めて差し上げますから……」
「あっ、エリ!
ずるいのです!」
アイリス様が、私を優しく抱きしめてくれた。
いい娘なんだよなぁ……。
姫様がいなければ、迷うことも無かったのかもしれないけれど……。
だけど今の私はまだ、姫様しか考えられない。
「アイリス様……ごめんなさい。
ごめんなさい……っ!」
「エリ様……!」
それが拒絶の言葉だと悟ったアイリス様は、
「うう……うううぅ……!」
嗚咽を漏らし始めた。
「あ、アイリス様、このハンカチを使ってください!」
姫様が焦っている。
私もアイリス様を泣かせたかった訳じゃないけれど、どうしよう、この空気……。
その時、空気を読まない明るい声が聞こえてきた。
「いやぁ、見事に全員が一方通行の三角関係だねぇ」
アイさんの声だった。
いつの間にか私達のすぐ近くに、彼女はいたのだ。
「でも、この問題を解決する為の妥協案が、あるんだよね、お母さん?」
「そうですね。
他にも話を聞いてもらいたい人がいるので、食堂へ向かいましょうか」
気がつくと、アイさんの隣にメイド長もいた。
いや、本当に突然現れるなぁ、この人達……!?




