63 増えるメイド隊
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今、目の前にいる5人の新入りメイドは、私達を襲おうとした者達のなれの果てらしい。
男爵家の長男であるはずだったリュミエルが、完全に女の子にしか見えない姿になっているということは……メイド長の仕業!?
あの人は私を本物の女の子にすることできると言っていたけど、その実例を目の前にすると、ちょっと……いや、かなり引く……。
なんというか、男としての本能的な恐怖感を覚えるというか……。
でもだからこそ、女性を食い物としか見ていなかったリュミエルには、丁度良い罰なのかもしれない。
女装をしているだけの私でさえも、男から性的な目で見られるなど、その大変さを感じることがあるので、リュミエルにもそれを実感して反省してもらいたい。
勿論、強制的に性別を変えられることが罰なのであって、女性になること自体は罰ではないので、案外気に入ってしまう可能性もあるけれど……。
私だってこんな見た目なので、一生懸命男の子として振る舞おうとしても、結局女の子に間違われて馬鹿にされていた頃から比べると、実は今の方が楽だし……。
「だけど大丈夫なんですか、この人達をメイドにしちゃって……?
危険なのでは……?」
元々は私達に敵対していた訳だし……。
反抗する危険性は無いのだろうか?
しかし姫様は、私の危惧を否定した。
「まあそこは、マッサージとかで支配は可能ですし、なによりも彼……いえ、もう彼女達は、コンスタンスの吸血によって眷属化していますからね」
「そうなんですよ、先輩!
この子達、もう私に絶対服従なんですよぉ。
ほらお前達、先輩へ謝罪しなさい」
「「「「「ははっ、ご主人様。
エリ様っ、この度のご無礼、まことに申し訳ありませんでしたっ!!」」」」」
「は……はあ……」
と、コンスタンスに促されて、5人は一斉に土下座をした。
あの高慢なリュミエルが、こんなにもあっさりと低姿勢で謝罪するとは、別人のような変わりようだ……。
「よくできました。
ご褒美をあげますよー」
そう言ってコンスタンスが、リュミエルの背中をグリグリと踏みつけている。
するとリュミエルは、
「あ……ああ……。
ありがとうございます、ご主人様ぁ……!
私、ご主人様の下僕になれて、幸せですぅ……!」
と、リュミエルは快感に震えるような、声を上げていた。
本当にコンスタンスからの扱いに、悦びを感じているようだ。
うわぁ……絶対服従どころか、主人からは何をされても嬉しく感じるようになるのか……。
こわっ!
怖すぎるよ……。
コンスタンスへは、絶対に私の血は飲ませないぞ……!
「姫様……いいのですか、これ……?」
「……あまりよくはないのですが、コンスタンスの力があれば、効率よく絶対服従のメイドが増やせるのも事実ですからねぇ……。
それに吸血鬼にしてしまえば、事実上寿命は無くなるので、100年以上でもこき使えるという、コストパフォーマンスの良さも無視できないのです」
姫様は複雑そうな顔で答えた。
まあ、確かに便利かもしれないけれど……。
でもそれだと、コンスタンスの権力が強くなりすぎない?
吸血鬼軍団とか、怖すぎるんだけど……。
いや、姫様やメイド長の浄化魔法なら一瞬で消滅させられるから、万が一反乱を起こされてもそんなに脅威ではないのか……。
でも、私じゃ対抗できないけどね!?
「これから捕縛した数十人が、順次吸血鬼メイドにされていく予定らしいから、エリちゃんも先輩として頑張ってね!」
そうアイさんから無責任に言われたけれど、なんだか頭痛がしてきたよ……。
私……これから上手くやっていけるのだろうか……。
その後、吸血鬼メイド達を下がらせた姫様は、私を連れてアイリス様のところへと向かうことになった。
彼女は談話室として使われている場所にいるという。
「……まずは、遠くからアイリス様の様子を見るのです。
あれが今の彼女の状態なのですよ」
と、姫様が言うので、私は談話室の入り口からアイリス様の方を覗き見る。
するとアイリス様は、ボ~っとした表情で座っており、そのまま動く気配を見せなかった。
しかし暫くその姿を見守っていると、不意に彼女は両掌で頬を挟み込む。
そして難しい顔をしながら首を振った。
……うん、明らかに様子がおかしい。
何かに悩んでいる……?
「あれはどういうことなのですか……?」
「アイリスちゃんは、恋する乙女なんだよ……」
「恋……?」
アイさんの言葉の意味が飲み込めず、ポカンとしていると、
「くっ!」
何故か姫様が悔しそうに呻いた。
しかしそれでも姫様は──、
「このままでは話が動かないので、エリはアイリス様と直接対話してくるのです」
と、私に促す。
状況がよく分からないけど、私は従うことにした。
「で……では、いってきます」
私がアイリス様の前へ行くと、
「エ、エリ様!?
良かった……!
お目覚めになったのですわね……!
具合が悪いところなどは、ありませんか!?」
彼女は物凄い勢いで立ち上がった。
「は、はい、この通り全然平気……です」
「そうですか……。
良かった……!
良かったですわ……!」
そう言いながら、アイリス様はあっという間に距離を詰めてきた。
なにやら彼女には、随分と心配をかけてしまったようだ。
それは彼女の慌てているようでいて、同時に安堵もしているような、複雑な態度にも出ている。
ただ、私はアイリス様の勢いに、少し気圧されてしまった。
「あっ、私、エリ様に謝罪しなければならないことがありますの!」
「えっ、謝罪ですか……?」
私には身に覚えが無いことを言われて、困惑する。
アイリス様から謝られるようことは、何もされてないはずだけど……。
「その……リュミエル達が眠っているエリ様の服を、剥ぎ取ってしまって……。
私、色々と……その、見てしまいましたわ。
本当にすみません!」
と、アイリス様は頭を下げた。
……そういえば、着ていた服が別の物に替わっている!?
色々と見られたって、つまり彼女に私の性別が知られてしまったということぉ!?
私の顔から、一気に血の気が引いた。




