61 裏での動き
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プルプルプルと、震えるアイだよ。
お母さんに誘われてクラサンドのダンジョンに来たけど、レイチェルで遊ぶのは楽しかったなぁ。
やっぱりある程度の実力者が相手じゃないと、からかい甲斐も無いよね。
ただ、レイチェルも私のことを警戒していることだろうし、当面は一緒に遊ぶ機会は無いかな?
ちょっと退屈になりそうだ……と思っていたら、すぐにお母さんが面白そうな話を持ってきた。
「冒険者ギルドのマスターからも警告されたのですが、やっぱり暗殺者や犯罪組織の構成員と疑わしき者達が、ダンジョンに入り込んでいますね。
メイド隊の方でも把握しています」
……と。
メイド隊はここ数日、ダンジョンに出入りしている者達をチェックしているらしい。
さすがに転移魔法で移動している者の追跡は難しいけれど、そんな高等魔法で気軽に移動できるのはお母さんの関係者くらいなので、その辺はさほど問題ではないようだ。
で、怪しい動きをしている者を監視しているが、現状ではまだその目的は分かっていないという。
「いっそ拘束して、尋問した方がいいのでしょうかね……」
と、お母さんは言う。
私としては「やっちゃえばいいじゃん」と思うのだが、お母さんは平和な日本での生きていた時の感覚が抜けきれないのか、なるべく穏便に済ませようとする傾向があるようだ。
でもそういうことなら、誰かが代わりにやればいい。
「じゃあ、私が潜入捜査をするよ!
怪しい奴を1人拘束して、私がそいつに擬態しつつ内部から調査するってのはどうかな?」
「う~ん……いきなり怪しい奴らを全員拘束するよりは、その方がいいかもしれませんねぇ……。
アイならば、正体が露見しても捕まることは無いでしょうし」
「じゃあ、私に任せなさーい!」
そんな訳で、新たな計画が動き始めた。
まずは標的を選ぶ。
お母さんの部下は有能で、監視対象の名前や風貌なども記録していた。
どうせならば、女の子がいいなぁ……。
お、記録の中に、ニナという良さそうな娘がいるじゃないか。
しかも反女王派と疑わしき貴族の子息と結託して、お母さんの部下のパーティーを狙っていたらしいんだよねぇ。
で、そのニナは今、町に戻っているらしい。
狙っていたパーティーをリゼが転移させた所為で見失っちゃったらしく、町で戻ってくるのを待つことにしたようだ。
そのニナを人知れず攫うことは、私にとっては朝飯前だ。
隠密スキルで近づいて、人気の無い場所で襲いかかる。
そして麻痺毒で仮死状態にしてから、空間収納に入れてしまえば、あとは簡単にダンジョンへ運び込める。
ちなみに空間収納の中には空気も温度も無いので、何も対策にせずに生物を入れると死んじゃうけど、毛布などで包んで保温した上で、気密性のある箱に空気と一緒に入れてやれば、短時間ならば空間収納の中でも生きられる。
まあ、空間収納のスキルが高レベルになると、中の時間を止めることができるようになるので、その場合は普通に入れても問題無いけどね。
止まった時間の中ならば、入れた物はいつまで経っても状態が劣化しない。
だからある種のタイムマシーンとして使うことも、不可能ではないだろうね。
ともかくダンジョン内に連れ込んだニナだけど、彼女が自発的に話したくなるまでスライム風呂の刑に処す。
「ああっ、話しますっ、話しますからぁっ!!
もうらめ、らめぇ……」
うん、ニナさん、5分ももたなかったね。
まあ、お母さんでも10分もたなかったんだから、無理もない。
「やあ、良かった良かった。
これで話さないようなら、私の分身を寄生させて、自我を奪うしかなかったよ」
「ひいぃぃ……」
さすがに私も、そこまで外道なことはしたくないからね。
そもそもニナが持っていた情報はあまり多くなかったので、そこまでしても割に合わなかったかもしれない。
ニナはリュミエルという貴族の子に依頼されて、ダンジョン内での案内をするのが主な役割だったらしい。
元々は金に困っただけの冒険者に過ぎず、犯罪組織との繋がりも薄いようだ。
そんな娘に対して、やりすぎは酷だろう。
いずれにしても欲しい情報は手に入らなかったので、これはやっぱり私がニナと入れ替わって、リュミエルから直接情報を引き出した方が良さそうだな。
いいね、スパイ物みたいだ。
あ、ニナについては貴族を狙う企みに加担した時点でアウトなので、ことが済んでも無罪放免という訳にはいかない。
彼女の身柄は、「メイドを増員したい」って言っていたお母さんに進呈しよう。
さて、ニナに擬態した私は、リュミエルが標的にしているという、エリがいるパーティへと接触した。
そしてリュミエルの口が軽くなるように、彼の企みが順調であるように見せかけなければならない。
その為にエリ達には、毒を盛った。
2時間後くらいに──丁度ダンジョンの中で効いてくるように調整した、強い眠気を誘う毒だ。
これが効き始めれば、何者も抵抗することができずに意識を失うことになるだろう。
これは私の体内で分泌した物で、これを解毒できるのは、たぶんお母さんかレイチェルくらいじゃないかな?
……と思っていたんだけど、なんであの公爵家のご令嬢──アイリスって言ったっけ?──には効いていないんだ?
特殊な耐性を持っているのだろうか?
まあ、予定は狂ってしまったけれど、アイリスを拘束するのは簡単だったし、彼女が私の聞きたいことをリュミエルから引き出してくれたので、結果オーライだね!
その後、エリが全裸に剥かれてしまったけれど、まさか男の娘だったとは、私も驚いたなぁ……。
私も基本的には女の子の方が好きだけど、これだけ可愛いのなら有りかな。
男だろうが女の子として扱えば女の子になるんだよ。
そういうもんだぜ、エヘヘヘヘ。
そして後から出てきたレイチェルが、裸にされたエリの方を見ないように必死になっているのは、ちょっと面白かった。
男が苦手だとは聞いていたけど、本当に弱点なんだねぇ……。
あと、レイチェルからは、エリが裸にされる前に助けられなかったのか?──と、後で苦情がきたけど、まあ裸くらいいいじゃん。
私なんか常に全裸だよ?
それにアイリスにエリの性別を知られたことで、後々面白い方向へ話が動きそうだしね。
その後、リュミエルが外国勢力と繋がっていることがほぼ確定的になったので、お母さんのメイド隊は、一斉に監視対象者の捕縛に動いた。
ただ、捕縛した者達から引き出した情報は、それほど多くはなかった。
結局彼らも末端でしかなく、本体の尻尾を掴む結果にはならなかったのだ。
リュミエルも元々は単独でエリを襲うつもりだったらしく、その手勢を集める為に犯罪組織と接触したことが切っ掛けで、外国勢力に話を持ちかけられただけらしい。
なお、本来リュミエルと一緒にダンジョン実習に参加するはずだったパーティーメンバーは、今回の事件とは無関係だったけど、彼が単独で動くことを学園に報告しなかったということで、なんらかの処罰を受けることになっている。
同行していたナウーリャ教団の者に対しても、「彼は体調が悪いので、一時的にパーティーを外れるが、成績に関わるので黙っていてほしい」と、サボりを隠蔽するような真似をしていたそうだよ。
彼らも貴族の子息だし、たかが男爵家の長男に逆らえなかったということは考えにくく、何らかの形でリュミエルと利益などを共有していた可能性が高い。
たとえばリュミエルから性的に遊べる女性を、融通してもらっていた……とか。
だから今後彼らは、要監視対象者となる。
おそらく余程態度を改めなければ、将来出世は望めないだろうなぁ……。
ともかく今回の事件は、「帝国」とか言うのが関わっている可能性が非常に高いので、お母さんは──、
「とりあえず国境を封鎖して、帝国からの人の流れを止めた方が良さそうですね。
幸い我が国は、殆どの産業が国内のみで自給自足できているので、鎖国しても問題は無いでしょうし」
との方針を打ち出した。
「うん、輸出入が必要なら、出島のような地区を作って、そこの監視を強化すればそれで済むと思うよ」
私も同意する。
後に内輪で、「ナガサキのデジマ作戦」と呼ばれる政策である。




