60 処分方法
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ニナ様……いえ、アイ様の姿が変化しました。
幻術は私には効かないらしいので、彼女の身体自体が変化したということになりますわね……。
噂では肉体を変化させるスキルもあるとは聞きますが、大抵は魔物が使うスキルですし、仮に人間が手に入れても、それを使いこなすことはかなり難しいと聞きます。
失敗したら元の姿に戻せなくなるのですから、安易に練習ができない所為ですわね……。
それよりもこの御方、辺境伯を名乗ったのですが……。
つまりそれは、この場にいる誰よりも位が高いということになります。
私の家は貴族で最上級の公爵家ですが、公爵なのは当主であるお祖父様であり、私はその孫に過ぎませんから、たとえ相手が下から数えた方が早い男爵家であったとしても、その当主と比べれば地位は低くなります。
まあ……家格というものもありますから、実際の力関係は違う場合もあるのですがね。
たとえば一代限りの騎士爵は殆どの場合領地を持っていませんし、貴族の中には同じ爵位を持っているとは認めていない者も多いと聞きますわ。
だから騎士爵と公爵家の令嬢ならば、私の方が重んじられることが多いでしょう。
しかし辺境伯は外敵から国を守る為に侯爵相当の大きな権限を与えられているので、私ごときが逆らってもいいような相手ではないですわね……。
だけどその辺境伯に、悪事の数々を知られてしまったリュミエル達は違います。
おそらく辺境伯の判断によって、今この場で処刑されてもおかしくない状況に追い込まれてしまったと言えますわ。
結果彼らにできるのは、目の前の現実を否定することだけでしょう。
罪を認めて謝罪すれば許されるような段階はとっくに過ぎているので、逆らって勝つしか生き残る術は無いのです。
「は……はは。
お前のような小娘が辺境伯などとは、冗談も大概にしろ!
そんな訳が無いだろっ!?」
「え~、そんなことあるけどぉ?
だって私、レイチェルの実の姉だし」
「「は!?」」
思わず私とリュミエルの上げた声が、重なってしまいました。
へっ!? レイチェル殿下の姉!?
公式には姉なんて存在していない筈ですが、メイド長やリゼも公式には発表されていませんし、そういうこともあるのでしょうか……?
その時──、
「私としては、姉とは認めたくないのですけどねぇ……」
「「「「!?」」」」
男達の背後から声が聞こえてきました。
「やっぽー、レイチェル!
昨日ぶりー!」
アイ様が陽気に呼びかけたのは、殿下でした。
殿下は転移してきたのか、突然男達の背後に現れたのです。
「はぁ……勝手に関係をばらしたりして、なにをしているのですか、あなたは……」
殿下は頭痛をこらえるように、額に手を当てましたわ。
その口ぶりから、姉妹というのは事実──!?
それは私が知っても、大丈夫な情報なのですか!?
「で、殿下!?
こっ、これは──っ!!」
リュミエルが慌てています。
辺境伯よりも更に逆らってはいけない御方が現れたのですから、当然ですわね。
しかし殿下は──、
「黙りなさい。
これまでのやりとりは全部見ていました。
私、言いましたよね?
『次はありませんよ』──と。
しかも今回の行いは、更に悪質……。
廃嫡程度では、済みませんね」
言い訳すらも許さない、厳しい態度でしたわ。
「こっ、このっ──!!
お前達、やってしまえっ!!」
追い詰められたリュミエルは、殿下を亡き者にしてこの場から逃れるつもりのようです。
しかし次の瞬間、彼らは力なく床に崩れ落ちました。
「えっ──!?」
殿下が何かをした様子はなかったのに、リュミエル達は動けなくなっているようですわね。
「なん……!?」
「麻痺毒ですか……。
別にあなたの手を借りなくても、どうとでもなったのです」
殿下はアイ様の方を見ました。
どうやらアイ様が麻痺毒を使ったらしいのですが、彼女の動きも私には分かりませんでしたわ。
「まあ、いいじゃない。
この方が楽でしょ?」
「まあ……そうですが……。
グラス、この者達を運んで、情報を引き出しなさい。
それとエリ達の手当もお願いします」
「かしこまりました」
殿下が背後に向かって呼びかけると、何処となく女王陛下に似た容貌のメイドが現れました。
それともう一人……10才くらいの小さなメイドもですわ。
これがエリ様の同僚達なのでしょうか?
「コンスタンス、この者達が用済みになったら、好きなだけ血を吸ってもいいですよ。
あなたに処分を任せます」
「本当ですか、お嬢様!?
う~ん、でもそこのアホな坊ちゃんはまだしも、おじさんの血はあまり美味しそうじゃないなぁ……」
「ならば母に頼んで、美味しそうに見えるようにしてもらいなさい。
……そうですね、後で人員の補充に使うのもいいかもしれません」
「ああ、そうですねぇ。
それは面白そうです!」
小さなメイドがはしゃいでいますが、何か不穏なことを話していたような……。
私がどのように反応したらいいのか分からずに硬直していると、殿下が歩み寄ってきました。
「大丈夫ですか、アイリス様?
お怪我はありませんか?」
と、心配そうな顔で話しかけてくる殿下は、本気で私の身を案じているようでしたわ。
「愚か者達をあぶり出す為とはいえ、怖い目に遭わせてしまって済みません。
もっと早くお助けできれば良かったのですが、より犯罪の証拠が出揃うまで様子を見よう──と、馬鹿な姉が方針を立ててしまいまして……。
どうかお許しください!」
そしてついには、私に抱きついてきます。
だから私はつい、
「いえ……お役に立てたのならば幸いですわ……」
と、答えていました。
こんなに可愛らしい態度を取られては、許さない訳にはいきませんわね。
そもそも私の立場では、殿下には逆らえませんし……。
いずれにしても今は、詳しい話を聞けるような状況ではありませんわ……。
というか、これ以上詳しいことを聞いても、私の命は大丈夫なのでしょうか……?
昨日は掃除機が壊れたので、新しいのを買って来ました。




