59 そして動く
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「ふざけるなっ、男だとっ!?」
リュミエルが激高しております。
彼はエリ様を陵辱しようとしていたようですから、あてが外れて悔しいのでしょう。
私は……エリ様が男性であることが衝撃的すぎて、どう反応すれば良いのかまだよく分かりませんわね……。
でもこれで、エリ様の貞操は守られることになりそうですわ……。
いえ、そもそも男性であるエリ様には、守らなければならない貞操など無いのでしょうけども。
しかし──、
「でもよ……こんなに可愛いのなら、俺は男でもいいような気がしてきたぜ……」
「お……俺も」
「奇遇だな、俺もだ」
「むしろ、ついていてお得?」
男達がエリ様に下卑た視線を向けています。
というか、ニナまで食いついて……!!
ああっ、いけません!
男性同士でどうするのかはよく分かりませんが、やっぱりエリ様の貞操の危機は、まだ去っていませんわ!?
……確かに私だって、エリ様を抱きしめたいと思ったことはありますし、どうにかしたいという彼らの気持ちも分からないではありませんが……。
でもこのままエリ様を、好きなようにさせてなるものですかっ!!
成功率は低いのですが、無詠唱の魔法ならば、このニナによって口が塞がれた状態でも発動できるはず……!!
なんとか抵抗を試みてみますわ!
ところがその時──、
「ええい、黙れ黙れっ!!」
リュミエルが喚きました。
「殿下は男が苦手と言っておったが……。
それで自身は女装とは……!!
殿下に近づく為なのか知らぬが、卑しい平民らしい行為よなぁ……!」
リュミエルは興奮した様子で、エリ様に歩み寄って行きます。
「どけ……!」
男達をかき分けて、エリ様の前に立ったリュミエルは、右足を後ろに引き──、
いけません、エリ様の頭を蹴るつもりですわっ!?
「ふむぅっ!!」
私は慌てて、無詠唱で魔法の発動を試みます!
「ぐあっ!?」
やりましたわっ!
私が生み出した炎の弾は、リュミエルの足に命中しました。
ただ、威力は低いので、彼に多少の火傷を負わせた程度ですが、これでエリ様への攻撃はひとまず止めることができたようです。
しかしこれによって、彼の標的が私へと変わりましたわ。
「貴様ぁ!
女の分際で逆らいやがってっ!!
生かしてやるつもりだったが、もう許さぬっ!!」
リュミエルは、私を威嚇するように怒鳴りました。
今は性別とか関係ないでしょうに!
彼が普段から、いかに女性を下に見ているのかが分かりますわね。
──って、リュミエルがナイフを振り上げて、こちらに……っ!?
ちょっ、待っ、ああっ、拘束されている私には避けようが──っ!!
確実に迫る死に、私は覚悟する間もありません。
ただ、迫ってくるナイフの刃を、凝視するしかありませんでした。
「!?」
しかしそのナイフは、唐突に止まりました。
何者かの手によって、リュミエルの腕は掴まれていたのです。
その手の持ち主は──、
「はーい、さすがにこれ以上は駄目ね」
何故か私を拘束していたはずのニナが、私を助けてくれました。
……どういうことなのです?
何故に?
これは仲間割れなのでしょうか?
「貴様っ、どういうつもりだっ!?」
リュミエルは、ニナの手を振りほどき、男達のところまで下がりました。
いざとなれば、全員で襲いかかるつもりなのでしょう。
それに対してニナは、余裕の態度で動きません。
「どういうつもりもなにも、最初から……いや、途中からあんたの味方じゃなかったってだけだよ。
ゴメンね、お嬢様。
諺にもあるでしょ、敵を欺くには、まず味方から……ってね」
え……?
そんな諺は存じませんが、この御方は味方だったのですか……!?
「ニナ……様、一体どういうことなのですか……?」
「あいつらから情報を引き出す為に、味方のフリをしていたってところかなー。
でも君達に危害を加えられそうになったら、さすがに見過ごせないし、ここら辺が引き時だったねぇ」
そんなニナ様の言葉を聞いて、リュミエルの顔色が変わりました。
ニナ様がただの裏切り者ではないと、気付いたのでしょう。
明らかに内偵をしていた……という感じですものね。
「貴様っ、何者だっ!?」
「ふっふっふ、よく聞いてくれたね。
では教えてあげよう!
ある時は美少女冒険者ニナ、またある時はノーザンリリィ辺境伯、しかしてその実体は──」
えっ!? なにか今、さらりと聞き捨てならないことを言いませんでしたか、この御方!?
ノーザンリリィ辺境伯ですって!?
最近北方で新設された領ですわよね!?
「愛と勇気のスライム系美少女戦士──アイ!
月に代わってぇー、折檻よ!」
そう名乗りを上げた直後、ニナ様の姿がピンク色の髪をした、幼い少女の姿に変わっていきましたわ。
ええぇぇ……なんですの、これぇ……!?
リーザ「私の影が薄いどころか、消滅しているような気がするのじゃが……」。
それはさておき、明日は用事があるので、更新はお休みすると思います。




