58 見てはいけない
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「くっ、放しなさいっ!」
ニナによって拘束されてしまった私は、なんとか抵抗しようとしましたが、彼女の力は私よりもはるかに強いようで、ビクともしません。
しかも──、
「大人しくしていてください。
そうすれば、命だけは助けてあげることができるかもしれませんよ?」
と、リュミエルが懐から取り出したナイフを鞘から抜き、私に向けてきました。
「……っ!!」
私は抵抗を諦めるしかありませんでした。
今は逆らっても、状況が好転することはないでしょう。
それに気になる発言をリュミエルはしておりますし、その真意も確かめなければなりませんわね……。
「命だけは……ですか?」
彼らの犯罪行為を知った私達を、彼がこのまま無事に帰すことは考えられませんでした。
私達を口封じの為に、殺害することが視野に入っているはずですわ。
しかしリュミエルは、私達が生存できる可能性をちらつかせています。
ということは……、
「ええ、私としてはどうでもいいのですが、協力者の中に『ダンジョンで貴族の子を攫って欲しい』という者もいましてね。
なんでもそれを人質にして、現女王陛下の政策に対する不満点の改善を要求する為に使う……とか。
かくいう彼らも、協力者から借り受けた者達ですが、彼らの仲間がこのダンジョン内で他の生徒を攫う手はずになっていますよ。
まあ、私達が『公爵令嬢』という、1番の大物を手に入れたようですがね」
「馬鹿な……女王陛下が、そのようなテロリストの要求を受け入れるとは思えませんわ」
「さあ……どうでしょう?
いずれにせよ、見せしめに何人か殺されれば、少なくとも『子供を見捨てた』と、女王陛下の名に傷が付くと思いますが……。
それに人質を使って、親達を自由に動かすことができるのならば、それだけでも十分な成果だと、考える者もいるのですよ?」
「くっ……!」
これは……陛下への要求を通すのが目的ではなく、国内の政情を不安定化させるのが目的なのかもしれませんわね。
そうなれば、それだけ動きやすくなる存在というのもあるのでしょうし……。
たとえば、他国の工作員のような──。
それに標的が貴族の子ならば、それはリュミエル自身でもいいということに彼は気付いていないのでしょうか?
どうにも彼は、何者かに利用されているだけのような気がして、ならないのですが……。
それにも関わらず、リュミエルは全てが順調に進んでいるかのように、余裕の態度で語り続けます。
「まあ、あなたほどの大物ならば、簡単には殺されないでしょう。
いくらでも使い道はありそうですから……。
ただ、用済みになれば、良くて奴隷として売り払われることになるかもしれませんね」
「そんな……!!
奴隷の売買は、国内では犯罪奴隷以外の取引が禁止されたはずですわっ!」
「そうですね……。
国内では……ね」
「……っ!!」
やはりリュミエルは、外国勢力と繋がりがありそうですわね。
しかしなんと口の軽い……。
自分達が失敗するとは、考えていないのでしょう。
だけどエリ様の同僚がダンジョン内を巡回しているらしいので、まだこの状況を覆すチャンスはあるはずですわ……!
なんとか時間を稼がなければ……!!
しかし──、
「坊ちゃん、そろそろ……」
「おお、そうだな」
あの破落戸風の男達も、リュミエルが喋りすぎていると感じたのか、次なる行動を促しましたわ。
「お前達、そこのメイドの服を脱がせてくれ。
平民の分際でこの私に舐めた態度をとったこいつだけは、メチャクチャにしなければ気が済まん!」
リュミエルの指示を受けて、男達がエリ様に群がっていきました。
そして彼女の服を引き裂いていきます。
「なっ、何をするつもりなのですかっ!?
やめなさいっ、やめるのですっ!!」
「おっと、静かにしてよ。
大声を出したら、魔物を呼び寄せちゃうでしょ?」
「ふぐっ!!」
私はニナに口を塞がれてしまい、抗議の声を上げることすらできなくなりました。
ああ……私はなんて無力なのでしょう……。
悔し涙で視界が歪んでいきます。
その視界の先で、エリ様の美しい裸体が露わに──、
…………………………?
…………………………………………はて?
…………………………エリ様の股間に、見慣れない物体があるのですが?
「なんだこいつ、男じゃねぇか!」
そんな声が聞こえてきましたが、頭がそれを理解することを拒みますの。
……エリ様が男性?
そんな馬鹿な。
学園一の美少女と言っても過言ではないエリ様が、男性だなんて……。
だけどあの見慣れぬ物体は……。
見てはいけないような気がするのに、何故か目が逸らせませんわ。
なんだかそれを見ていると、顔が熱くなって動悸も激しく──。
ああっ、だけどそれを凝視するなんて、はしたない……っ!!
でも、でもっ、男性のそれがついているということは、やっぱりエリ様は男性だということで……!?
えっ、嘘っ、本当に!? ええっ!?
ふええええええええええええぇぇぇぇぇ────っ!?
「もがっ、ふがっ、んんんっ──っ!?」
「ちょっと、暴れないでよ。
混乱する気持ちは分かるけどさぁ……」
そんなニナの言葉を理解している余裕は、私にはありませんでした。




