閑話 カナウの格付け
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あたしの名はカナウ。
普段は姫様のメイドをしているけど、実は他にも役割がある。
まあ、それについては後で話すとして、今日は実習で訪れたダンジョンで、キツネの耳と尻尾を持った恐ろしい女に出会った。
勝てないと判断したあたしは降参して、地上へ強制的に送られることになる。
その時に迎えに来たボスから聞いたんだけど、あの女はボスの妹らしい。
や、やっぱりな……。
ボスの娘のリゼと、なんか似ていると思ったぜ。
……って、ボスの正体もキツネなのか?
ともかく今日は疲れたから、ダンジョンの最深部にある自分の部屋に帰って、ゆっくり休もうかな。
あたしは転移魔法を使うことはできないけとれど、ダンジョン内にある転移トラップと隠し通路を利用したショートカットを使えば、そんなに時間をかけずに最深部へ辿り着くことができる。
で、最深部に辿り着いたら、まずは温泉に入って疲れを癒やそうか。
しかし温泉に行くと、あのボスの妹が湯船に浸かっていた。
「あ、姐さんっ!?」
「あら、さっきぶりね?」
「う、うっす」
なんだか気まずい。
できれば出会いたくなかったぞ!
とりあえずあたしは、身体を洗う。
それが終わると、あたしは姐さんから離れた場所で湯船に浸かった。
「なによ、隣に座りなさいよ。
少し話をしましょ?
あたしはシスよ」
「は、はい、あたしはカナウっす。
失礼します」
あたしは姐さんの隣に座った。
でも、何か失礼があって怒らせたら……と思うと、緊張してしまう。
「カナウ……叶う?
へぇ、日本語みたいな名前ね?」
「日本語というのはよく分からないっすけど、名前を付けてくれたボスは、昔飼っていた犬の名前だって言っていました」
「ああ、前世絡みのか……。
あなた、ある意味特別な名前を貰っているのだけど、どんな出会いだったのよ?」
「え~と、あれは確か……」
あたしはボスとの出会いを、姐さんに語って聞かせた。
あれはもう5年以上前のことだ。
当時のあたしは、今とは違う姿だった。
しかも生まれてからまだ数ヶ月で、とても弱かった。
その所為であたしは他の魔物に負けてしまい、瀕死の状態になっているところをボスに拾われたんだ。
ボスはあたしを治療してくれた命の恩人だけど、それを抜きにしても本能的に逆らってはいけない相手だと感じていた。
いつの間にか尻尾を、自然に股の間へ挟んでいたんだぜ?
だからあたしは、全力でボスに媚びを売った。
「きゅ~ん、きゅ~ん」
と、甘えた声で鳴きながら、ボスの手を舐めたんだ。
「ふふっ……魔物でも、幼いと可愛いものですね」
ボスはそう言っていたけど、あの当時でもあたしは、普通の大型犬よりも大きかったんだけどな……。
ともかくボスに気に入られたあたしは、「カナウ」という名前を与えられ、ダンジョンの最下層の入り口で番犬代わりに飼われることとなった。
そんなあたしを特に可愛がってくれたのが、姫さんだ。
あの頃の姫さんは、まだ赤ん坊に毛が生えたようなものだったけど、それでもボスと同様に勝てないと本能的に悟るほど強かった。
それに姫さんは、よくダンジョン内へ散歩に連れて行ってくれたし、毛繕いも沢山してくれたから、いつの間にか大好きなご主人様になっていたのさ。
姫さんと一緒にいると、無意識に尻尾をブンブンと振っているあたしがいたんだ。
だけどある時を境にして、あたしの立場は奪われてしまった。
リゼが生まれて、姫さんはそっちの方に夢中になってしまったからだ。
なんだよ……そっちのモフモフの方がいいのかよ……!
と、あたしは嫉妬した。
しかし生まれたばかりのリゼですら、あたしでは勝てない存在だということを本能が告げていた。
実際今となっては、リゼに戦いを挑むなんて自殺行為は怖くてできない。
それに万が一勝てたとしても、たぶん姫さんとボスは、リゼを傷つけたあたしを許さなかっただろう。
自棄を起こさなくてよかった……。
だから結局、その時のあたしにできたことは、拗ねることだけだった。
散歩を拒否したり、餌を食べなかったり、意味も無く吠えたり……あたしは態度で抗議して姫さんを困らせた。
でも姫さんは、何故あたしの態度がおかしくなったのか、それが分からなかったようだ。
あたしには姫さん達が言っていることはなんとなく分かっていたけど、姫さん達人間はあたしの言葉なんか理解できず、意思の疎通はやっぱり難しかった。
そこで、困った姫さんは、
「カナウとお喋りができればいいのに……」
と、呟いた。
そしてそれを聞いたボスが、
「じゃあ、喋れるようにしましょうか?」
と言った。
冗談かと思ったけど、ボスは本気だった。
「……そんな訳であたしは、ボスによって今の姿に改造されたんすよ」
「改造……って、お姉ちゃんも無茶するわね……」
「でもそのおかげで、姫さんと話ができるようになったし、前よりも一緒にいられる時間が増えたから、あたしは良かったと思っているっす」
会話ができるようになったことで、姫さんはあたしの不満を知り、扱い方を改善してくれた。
人間扱いされるようになったことで、前と同じように可愛がってくれる……という訳にはいかなかったけれど、あたしと姫さんの関係はより深くなったと思っている。
まあ、全身を覆っていた毛皮は無くなってしまった所為で、毛繕いはされなくなってしまったけれど、マッサージでも充分に気持ちがいいからいいや。
「あたしは姫さんのメイドである前に、最高のペットであることを目指しているっす!」
それがあたしの本当の役割だと思っている。
「そう、偉いのね……。
頑張りなさい」
と、姐さんはあたしの頭を撫でてくれた。
おお、思っていたよりも優しいな!
この人なら、ボスと姫さんの次くらいに命令を聞いてやってもいいかも!
……と思ったのもつかの間、その順位はこの後に会った「アイ」というボスの娘によって、あっさりと塗り替えられた。
ヤバイ、あいつはなんかヤバイ!
ボスはギリギリ人間だけど、アイは生物として別物って感じがする。
強さ云々の問題ではなく、捕食者としての質が違うというか……。
あいつがその気になれば、あたしを躊躇いなく食うのではないか……という怖さがある。
もしかしたら、ボスよりも逆らっちゃいけない相手かもしれないな……。
シスはゴブリン達と接触するまで、地面に書いた日本語でアイと意思疎通をしていました。アイがためしに教えたら学習したので、元々知能は高かったのです。
あと、アリゼは人間や魔物を食べることに抵抗感を持っていますが、アイにはあまりそういう禁忌が無く、むしろ食べること(吸収のスキル)で強くなるので、その辺をカナウは脅威だと本能的に感じ取っているようです。




