55 決着?
そういえば昨日で投稿1周年でした。ここまで続けることができたのは、皆様の応援のおかげです。今後ともどうかよろしくお願いします。
なお、今回は途中で視点が変わります。
あたしはリゼ。
ママに「面白いことがある」と誘われて、クラサンドのダンジョンに来たよ。
なんでも学園の生徒達に、試練を与えるんだとか。
あたしは宝箱の中に入って待機し、誰かが箱を開けた瞬間に転移して驚かす予定だった……んだけど、うっかり眠っちゃってタイミングを逸しちゃった。
ママはゲームでよくある展開を、再現したかったらしいんだけどねぇ……。
まあ、転移自体は予定通りしたし、試練の本命は戦闘なのでいいよね?
で、私と戦うことになったのは、偶然にもエリ達のパーティーだった。
いや、偶然ではなかったのかもね。
宝箱を置いたのはママだから、エリ達が見つけやすい場所やタイミングを計算していたのかもしれない。
で、エリ達との戦闘なんだけど、手加減が難しい。
あたしが本気を出したら、エリ達はすぐ死んじゃうのだろうし、ちょっと面倒臭い。
でもエリ達は、思っていたよりも頑張っていると思うよ。
リーザは魔法なんか使えなかったはずなのに、結構な威力の魔法攻撃ができるようになっていたし、エリはあたしの力を吸い取るような攻撃をしてきて、魔法の妨害をしてくる。
もう1人は……何かしたっけ?
いずれにしても、エリ達がいくら頑張っても、あたしに攻撃を当てることができればいいという条件をクリアできそうになかった。
このままじゃ切りがないので、そろそろ少し本気になった方がいいかな?
そう思い始めた頃、リーザが奇妙な行動をしたんだ。
『!?』
突然リーザは、天井に向けて魔法を撃ち放った。
天井に当たった炎が弾けて、沢山の火花をまき散らしたんだ。
汚ぇ花火だ……ってこともなく、普通に綺麗だね。
あたしがそれに気を取られていたら、いつの間にかエリが近づいてきていた。
気配を隠蔽するスキルを使っていたんだろうけど、それではあたしの「万能感知」は誤魔化せないよ。
でも、あれっ!?
なんでエリは、あたしの位置が分かったんだろう?
「幻術」のスキルで、あたしの位置はズレて見えているはずなのに。
あたしは「幻術」を破られた理由が分からず、慌ててしまった。
だからエリが攻撃魔法をこちらに撃ち込んできた時、あたしは深く考えずにそれを避けようとして横に跳ぶ。
その瞬間、エリの背後に隠れているもう1人の姿が、あたしの視界に入った。
エリと密着していたのと、あたしが慌てていた所為で、気配を読み損ねてしまったんだ。
そもそも、今まで何も役に立っていなかったその子のことを、あたしは全然警戒していなかった。
ところがその隠れていた子は、私に向かって正確に魔法を撃ちこんできた。
やっぱりあたしの「幻術」が効いていない!?
しかもあたしの動きを予想していたのか、ちょっと躱せそうなタイミングではなかった。
そう、跳躍してエリの攻撃を回避しようとしていたあたしの身体はまだ空中で、自由に方向転換できなかったんだ。
こんなことなら、空中で自由に動ける「立体機動」のスキルをもっと上げておけば良かった!
転移魔法での回避も、エリが魔力を吸い取って妨害しているから無理だし……!
「キャン!」
あたしは攻撃を受けて、小さく悲鳴を上げた。
別に痛くはなかったけど、攻撃を受けること自体が久しぶりだったので、ちょっと驚いたよ……。
「だ、大丈夫ですか!?」
エリ様があのキツネに駆け寄っていきました。
小さな動物に炎の魔法が直撃したので、心配になるのも無理はありません。
でも作戦が上手くいって良かったですわ。
しかも私の攻撃が決め手になるなんて、ちょっと信じられない気持ちです。
そもそもあのキツネが使っていたらしい「幻術」を、私が見抜いたということ自体が予想外の出来事でした。
鑑定士は珍しいので、自分自身のスキルを知る機会が無かったとは言え、私にこんな能力があるなんて知りませんでしたわ……。
いずれにしても、ギリギリの勝利でした。
エリ様の能力によって、魔力や体力にはまだ余裕はあると思いますが、戦闘中は生きた心地がしませんでしたし、もう気分はヘトヘトですわ。
実際リーザ様も、床にへたり込んでいます。
それでも、あのキツネに攻撃を当てれば勝利という条件だったようですから、これでもう戦わなくて済みそうですわね。
しかし──、
『よーし、じゃあ1本目は、君達の勝利だね。
次は私が勝つよ』
あのキツネが発したらしい、念話が届きました。
「え、1本目!?
これで終わりじゃないの!?」
『3本勝負で、2本先制した方が勝ちだよ。
それにさぁ──』
「えっ……なっ!?」
私達の目の前で、あのキツネが姿を変えていきます。
「倒したと思ったボスキャラが変身するのは、お約束でしょ?」
と、彼女は言いますが、そんなお約束は聞いたことがありませんけど!?
ともかくあのキツネだった存在は、耳と尻尾はそのままですが、それ以外は7~8才くらいの少女の姿に変じていました。
獣人とは違いますし、伝え聞く魔族とも違うような気がします。
種族は不明ですが、心なしか例のメイド長と、顔が似ているような気がしますわ……。
あれ? ということは、もしかしてレイチェル殿下の妹だという話も、実は本当なのでは……?
それとキツネの姿から変化したのですから当然ですが、この子……全裸なのですが……。
「ちょっ、リゼ、服を着て、服を!!」
エリ様が物凄く慌てていますが、同性なのですからそこまで慌てる必要はないと思いますわよ?
まあ……このような屋外……になるのかしら?
ここで裸になるのは、はしたないとは思いますが……。
エリ様は空間収納から毛布を取り出し、その子に手渡そうとしました。
だけど──、
「がっ……!?」
「エリ様っ!?」
エリ様はその子にお腹を殴られて、崩れるように倒れました。
そして気がついた時には既に、リーゼ様が蹴り倒されてっ……!!
なんてスピード……!
先程まで比べても、桁外れに速いですわ!?
そんな風に私が驚愕している隙に、あの子はもう目の前まで迫っていました。
私は逃げる間も無く、次の瞬間には首筋に衝撃を感じて──、
「あ……」
私達が次に目覚めた時、そこは地上でした。
気絶した私達を、誰かが運んだということなのでしょう……。
結局私達は、本気を出したあの子には手も足も出なかったということになりますわね……。
私達が未熟すぎるのか、それともあちらが強すぎたのか……その判断は難しいのですが、いずれにしても「敗北」という結果を残して、ダンジョン実習の1日目は終わったのでした。




