54 看 破
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「ひいいぃぃ……!!」
リーザ様の、恐怖に震えた声が上が聞こえてくる。
まあ、リゼが操る炎の塔がこちらに向かってきたのだから、当然の反応だと思う。
あれに巻き込まれたら、全身に火傷を負うだけでは済まないだろう。
……というか、骨すらも残らないかもしれない。
ただ、さすがにリゼも手加減してくれるらしく、炎の塔が直接襲いかかってくる訳ではないようだ。
炎の塔から拳大の炎の弾が出現し、それが我々に向かって飛んできた。
「わっ!」
私は慌てて回避する。
決して避けられないようなスピードではないけれど、結構な速さがあった。
しかもあの炎の塔があるかぎり、炎の弾は無限に撃ち出される。
これは脅威以外の何物でもない。
どうにかして、この炎の塔を消さないと……!
でもどうやって?
攻撃魔法をぶつけたら消える?
「リーザ様、水の魔法は!?」
「う、うむ、やってみるのじゃ!!」
リーザ様が水刃の魔法を放った。
これは魔力によって水を薄く圧縮し、刃のようにして撃ち出す魔法だが……。
しかし水刃は炎の塔を突き抜けるだけで、多少火勢を衰えさせるくらいの効果しかなかった。
この様子だと、水弾でもそんなに結果は変わらないと思う。
やはり実体の無い炎を相手にしては、魔法攻撃はあまり有効ではないようだ。
いや、継続的に水を浴びせ続ければ……。
「ひぃやああぁぁっ!?」
あ、駄目だ。
炎の塔が弾をいくつも吐き出してきた所為で、リーザ様が逃げ出した。
あの炎の弾を回避しながらだと、連続的な攻撃は難しいだろうな……。
やはり火元をどうにかしなければ──、
「……あ!」
そうか。
あの炎の塔は、リゼの魔力によって形成されているはずだ。
それならば炎の塔自体に、「吸精」をかけて魔力を奪えば、形を維持できなくなるかも……!
私は早速リゼからターゲットを変更し、炎の塔に対して「吸精」を使う。
すると狙い通り、炎の勢いは急速に衰えていった。
これならリゼが魔法を使う度に、「吸精」の対象をリゼから魔法に切り替えることで、その攻撃の脅威度を大幅に下げることができるだろう。
『えっ、なにそれ!?』
リゼも驚いている。
さすがに自分の魔法が無力化されるというのは、まったくの予想外か。
「リーザ様、リゼの魔法の方は私がどうにかしますから、攻撃の方は任せます!!」
「わ、分かったのじゃ!!」
よし、リゼはリーザ様の攻撃の回避に集中しているので、こちらが攻撃を受ける可能性が格段に下がったぞ。
ただ、未だに攻撃がリゼへと当たる気配は無い。
この状態をどうにかしないと、勝ち筋が見えてこないのだが……。
おそらく「吸精」だけでは、リゼが弱るまで数時間はかかりそうだし、どうしたら良いものか……。
そう思案していると、アイリス様が話しかけてきた。
リゼとの実力差があまりにも開きすぎている所為で、ほぼ何もさせてもらえない状態の彼女は、ある意味では暇そうにも見える。
そんな彼女が、予想外のことを言い出した。
「あの……エリ様、リーザ様のあの攻撃は、どういうことなのでしょう?」
「え? 何か変ですか?」
「私には、全く見当違いの方向に向けて撃っているように見えるのですが……」
「うん?」
私は首を傾げた。
リーザ様の魔法攻撃は、効果範囲が広い所為で大雑把ではあるけど、それでも大きく狙いを外しているようには見えない。
しかしアイリス様には、違うように見えているらしい。
「ちなみにリゼは今、どの辺にいるように見えますか?
あ、指をさしたりしないで、視線だけ向けてください」
「は、はい」
そしてアイリス様が向けた視線は、私が見えているリゼの位置から10mほど左側の位置だった。
その視線は、リゼがリーザ様の攻撃を避けて移動するのと連動して動く。
アイリス様と私とでは、見ている位置がまったく違う!?
もしかしてリゼ……幻術を使って、自分の位置を偽装している……?
さっきから瞬間移動しているように見えたのは、これの所為か!
だけどそうだとして、その幻術が何故アイリス様に効いていないのか、それがよく分からないなぁ……。
もしかして精神攻撃への耐性スキルを、彼女は持っているのだろうか?
……でもこれで、少し光明が見えてきたぞ。
『アイリス様、リーザ様、念話を送っています。
万が一にもリゼには聞かれたくないので、声は出さないで作戦を伝えます。
聞こえたら頷くだけでいいです』
と、アイリス様とリーザ様に念話を送ったら、アイリス様は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにコクコクと頷いた。
リーザ様も「なにごとじゃ!?」という顔で一瞬こっちを見て、すぐに魔法攻撃を再開したので聞こえているようだ。
私は2人に対して、リゼを倒す為の作戦を伝えた。




