51 無敵の壁
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この壁が魔物の擬態──!?
この私の「万能感知」を誤魔化すほどの隠蔽能力なんて、このダンジョンの魔物には無かったはずなのです!
私が驚愕していると、壁がドロリと溶け、私の身体に絡みついてきます。
スライム!? まさか──!?
『ふっふっふ……ひっかかったね』
微妙に変声機を通したようなこの声は……人間とは違う声帯を使って発声した時のものなのです。
しかし通常、スライムは喋りません。
ゴブリンのような人型ならまだしも、そうでないものは肉体の構造的に殆ど喋ることができません。
ただし魔法やスキルを使った場合はその限りではなく、これはそのような手段を使って発声した時の声ですね。
こんな真似をできる存在を、私はママくらいしか知りません。
しかしこれはスライム。
となると──、
「まさかあなたは……っ!!」
最近判明した長女ですね。
『ふっふっふ、アイです、アイですよ。
レイチェル』
「んなぁ……何をやっているのですか、あなたは……!」
『お母さんに誘われたんだよ。
そしてダンジョンを舐めている連中の、度肝を抜いてやれと!』
あの母は……!
確かに私にとって、ダンジョンの攻略など朝飯前ですが、だからってこんな罠を仕掛けるなんて……!
「面白いのです!
このような試練など、あっさりと乗り越えてみせましょう!!」
『できるかな?
お母さんですら意識を手放した、このスライム風呂に!!』
「っ!!」
スライムが私の身体を包み込み、撫で回し始めました。
確かにこれは、ママのマッサージに近いものがありますね。
このまま無抵抗で受け続ければ、気絶させられることもあるかもしれないのです。
……というか、このままでは服を溶かされて、こんなダンジョンの中で全裸にされるぅ!?
「させません!!
私は優しいママとは違うのです!!」
私は手からビームサーベルを生み出し、スライムを斬り裂いて脱出しました。
しかしスライムは無数の触手を伸ばして、私に襲いかかってきます。
私はそれを「結界」で防ぎつつ後退し、ある程度距離が離れてから熱線を撃ち込んでみました。
「なん……!?」
だけど熱線はスライムの身体を多少焼いたようですが、効きが悪いですね……。
全力ではなかったとはいえ、これは……。
どうやら耐性によって、威力を散らされているようです。
しかしそれ以上に質量が圧倒的で、焼け石に水って感じですかね。
まるで心太のように、通路全体にスライムがミッチリと詰まっているのですから、厄介なのです……。
全力の熱線ならばもう少しは通用するのかもしれませんが、この狭い通路で使うと私自身も巻き込まれて危ないのです。
となると……時間はかかりますが、ビームサーベルで延々と斬り刻み続けるか、他の属性魔法を試してみるか……。
その時私はそんなことを考えてはいましたが、決して油断をしているつもりはありませんでした。
しかし──、
「えっ……!?」
背後からスライムが私の身体に巻き付いたのです。
私はそれを慌ててビームサーベルで斬り落とし、そして振り向きます。
そこには、今や後方となった先程までの前方と同様に、ミッチリとスライムが通路に詰まっていました。
これはまさか……これまでに何度も道を塞いでいた壁──スライムの分身体……!?
それを遠隔で操っていたということなのでしょう。
あるいは擬態と隠蔽を駆使して、身体の一部が何処かで繋がっていたのかも……。
いずれにしても、これじゃあ前後のどちらが本体なのか、分からないではないですか!
ぐぬぅ……厄介ですねぇ!!
さすがは最初期にママから分かたれた存在……!
ある意味ではオリジナルのママに1番近い、純粋な存在だと言えるのです。
悪知恵や強かさも似ているのかもしれません。
これはもう、ママを相手にしていると思った方がいいのかも……。
だけど私にも、色んな物が混ざっているとはいえ、ママと一心同体で長い年月を戦ってきたという自負があります!
そう簡単には、負けてはあげないのですよ!
私は新たに現れたスライムの壁に目掛けて、熱線を撃ち込んだ──ように他者がいたらそう見えたのでしょうけど、実際には冷凍光線なのです。
熱を操ることができるのならば、マイナスの方向に変換することだって不可能ではないのですよ!
『……!!』
どうやらスライムに冷気の耐性は無いようで、狙い通り凍結して氷の壁と化したのです。
これならば割れる!!
「はああぁ──っ!!」
私は氷の壁を蹴ったのです。
そう、キャノン●パイクなのですよ!
そして砕けた壁の向こう側に、通路が現れました。
一旦そちらに退避して、体制を立て直しま──
「な!?」
その時私は、おかしな事実に気がついて、動きを止めます。
今私がいる場所よりも、現れた通路の天井の方が高いのです。
いや、あれが本来の高さで、こちらの天井の方が低い──!?
つまりこの天井は、スライムが擬態したものだということ!
いつの間に!?
私がそれを認識した瞬間、天井が形を崩し、雪崩のように押し寄せてきました。
「しまっ──!!」




