48 宝箱の中身
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ダンジョンで発見した謎の宝箱──。
私達はそれを開けてみることにした。
勿論、何の対策も無いまま開けるのは危険だ。
たとえこの宝箱を設置したのがメイド長だったとしても……いや、だからこそ油断はできないな……。
あの人、何をやるのか分からないところがあるし……。
ともかく、まずは罠の有無を調べてみよう。
ダンジョンでの訓練を受けてきた私としては、一応罠を看破する技術は身につけている。
罠は……無いかな?
でも念の為、魔法でも判定してみるか。
「エリ様、それは……?」
「害意などが残っているのかどうか、それを調べる魔法です。
罠を仕掛けるということは、誰かに危害を加えるのが前提ですから、そのような害意の残り香の有無を感知するのです。
まあ、あまり古い物には通用しませんが、これはどう見ても新しいので……」
「なるほど……。
それで結果はどのような……?」
「害意は……無いと思うのですが、なんか変な反応はあるんですよねぇ……。
悪戯心のような……」
「それならば、やはりこの宝箱は無視した方が無難なのでしょうか……?」
アイリス様は難色を示し、それには私も同意だった。
しかしリーザ様は、
「いや、この宝箱を開けるのじゃ!
女神様からは『神竜』というお告げがあった。
おそらく竜の神様の力を借りることができるような、強力な武器が隠されているはずじゃ!」
いや、何その「神竜」って……。
余計に不安なんですけど……。
しかしリーザ様は、この宝箱を開ける気満々だった。
それに罠を仕掛けたであろう、メイド長の意図も気になる……。
「それじゃあ……開けてみましょうか?」
「おお、じゃあ開けるぞよ!」
「「あ!」」
リーザ様がいきなり宝箱の蓋を開けた。
そんな無警戒に!?
何が起こってもおかしくないのにぃ!?
「…………あれ?」
しかし変化は特に現れなかった。
私は恐る恐る宝箱の中を覗いてみると、そこには──、
「ええぇぇぇ……?」
腹を上に見せて呑気に眠っているという、野生を忘れた動物の姿があった。
うん、たぶん知っている子だ。
「あら……可愛らしいキツネですわ?」
アイリス様が宝箱に近づこうとするけど、
「いや、近づかない方がいいです。
場合によっては危険です!」
私は慌てて止める。
そしてその時、リーザ様が動揺したような声を上げた。
「な、な、なんでこんなところに、聖女様4号が……!?」
「……聖女様?
このキツネが?」
「4号……?
リゼが?」
いや、何を言っているのか、よく分からないな……。
いずれにしてもリーザ様は、リゼをメイド長と同じ聖女だと認識しているってこと……?
つまり同列の存在……?
だとするとリゼは、メイド長に匹敵する能力を持っている可能性があるということになる。
味方なら心強いけど、もしも敵だとしたら、勝ち目なんか無いのでは!?
「リーザ様やエリ様は、このキツネのことを知っているのですか?」
「う、うむ、聖女様2号……レイチェルの妹じゃ……」
「妹ぉ!?」
おおぃ!!
そんなことを言ったら、アイリス様が混乱するでしょ!!
というか、姫様も聖女なの!?
それじゃあ3号は、アリタちゃんの流れでしょ、これ!
なんなの、あの親子……?
「そうじゃなくて、姫様が妹のように可愛がっている……ということです!」
「あら……殿下のペットなのですか?」
「いえ……ペット扱いをしたら姫様が怒るので、やめてください……」
よく分からないけど、姫様はリゼのことを本当の妹のように扱っているからなぁ……。
しかしこれからどうしよう……。
正直言って、このままリゼを眠らせたままの方が安全なんだけど……。
だけどリゼを放置したまま私達が立ち去った後に、彼女の身に何かあったら絶対に姫様やメイド長が怒る……!
やっぱりリゼを起こして、ここで何をしていたのか確認した方がいいよね……。
そもそもリゼって、今は新しくできた辺境伯領で生活しているはずなんだけど……。
その辺も聞いた方がいいのかな?
「あの……リゼ、起きて。
起きてください」
私はリゼの身体を揺すってみる。
それを何度か繰り返すと、彼女は目を開けた。
『うにゃ……あ、エリ久しぶり!』
リゼは私の顔を見ると、すぐに誰なのかを認識してくれた。
良かった……。
似ているだけの、同種のキツネではなかったようだ。
「あの……ここで何をしているのですか……?」
私がそう聞くと、リゼは寝起きでまだ頭が働いていないのか、暫くぼんやりとした顔をしていたが、不意に何かを思い出したかのような反応をする。
『あ!』
そして次の瞬間──、
「なぁ!?」
「なんですの!?」
リーザ様とアイリス様の悲鳴が上がる。
気がつくと私達は、広い空間にいたからだ。
これは……どの階層なのか分からないけれど、かつてダンジョンの守護者がいたフロアだと思う。
私達メイド隊は、このようなフロアで訓練することがよくある。
そこへ強制的に転移させられたのだ。
『いけない、いけない。
ママから生徒達の試練になれって、言われていたんだ。
本当なら箱を開けた瞬間に、ここへ転移させる予定だったんだけど、待ちくたびれて寝ちゃっていたよ」
試練って何しているの、メイド長!?
『とにかくあたしに勝たないと、ここから出られないよ?』
その宣言と同時に、リゼの周囲には何本もの炎の塔が立ち上る。
「……うむ、救難信号を出すのじゃ、エリ殿!」
「えっ!?」
いきなりリーザ様が諦めた。
だけどその気持ちは、分からないでもない。
リゼの周囲で竜巻のように蠢く炎の塔は、見るからに私達を一瞬で焼き殺せるほどのものだったからだ。
今回は『ウィザードリィ』のカルフォのことを思い出しながら書きました。




