表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/392

4 責 任

 ブックマーク、ありがとうございました。

 さて、決闘──とは言っても、今の私が本気を出すと、「おいおい瞬殺だよ」ってことになりかねない。

 それだとゴブリン達も、逆に納得しにくいんじゃないかな?

 たぶん何が起こったのか、理解できないと思う。

 あるいは、インチキを疑われるかもしれない。


 となると、魔法や毒とかは禁止だな。

 単純に身体能力のみで、戦った方がいいだろう。

 そんな訳で、私は無手(素手)


 一方、ゴブリン王は石斧(せきふ)を握っている。

 当たると痛そうだけど、当たらなければどうということはない。

 そもそも当たったところで、今の私の防御力なら、余裕で耐えるだろう。


「オ前、武器ハイラナイノカ?」


「ああ、このままで十分です」


 そんな私の言葉に、ゴブリン王は(あなど)られたと感じたのか、憤怒(ふんぬ)の形相で斧を振り下ろしてきた。

 当然、余裕で避けるけどね。


 というか今の私は、コウモリの超音波による反響定位(エコーロケーション)──つまり、音の反響で周囲の状況を把握する能力は勿論、この数年間でそれを進化させた索敵能力も使えるから、目を閉じていても避けられますわ。

 

これは身体に流れる魔力を体外へ薄く広げ、その魔力に触れた物の動きを察知することができるという仕組みで、100mくらい離れているネズミの存在だって分かるし、音の反響とは違って、相手の魔力や生命力の大きさなども読み取れる。

 目の前にいる相手のことなら、なおのこと分かりやすい。

 

 そんな訳で、私にとっては攻撃は避けることができて当たり前なんだけど、攻撃が全く当たらないことにゴブリン王は勿論、観衆のゴブリン達も動揺している。


「クッ、逃ゲマワルナ、卑怯者!」


 あら、もう()を上げたか。

 折角すぐ終わらないように、こちらから手出ししなかったのに。

 じゃあ、私も攻勢に出るかな。


 たぶんゴブリン王は、私が攻撃をする時に生じる隙を狙うつもりだったんだろうけれど、そんな隙は分からないと思うよ。

 だって、私はスピードを更に上げるし。


「!?」


 正面から突撃してきた私に、ゴブリン王は斧で斬りかかってきたけど、攻撃が当たったと思った瞬間に、私の姿を見失ったようだ。

 ふっ、斬りかかったそれは、残像だ。

 私は既に、ゴブリン王の背後にいますよ。


 で、即背後から危険タックル。


「フゴッ!?」


 私は倒れたゴブリン王の足を掴んで、すかさずジャイアントスイングをかける。

 しかもヘリコプターの回転翼のようなスピードで、ぶん回す。


「アアアアアアアアアアアアアアーッ!?」


 ゴブリン王が悲鳴をあげている。

 おそらく、それ以外にできることが無いのだろうな。

 脱出できる手段があるのなら、とっくに別の行動を起こしているだろう。


 むしろ気絶していないだけでも、大したものだ。

 普通の人間なら脳に血が上って、脳内出血とかも有り得るような回転の勢いなんじゃないかな?

 さて……もう勝負は付いたと思うのだけど、どうだろう?


「ねえ、王様。

 降参してよ。

 じゃないと、手を放すよ?」


「!?」


 この勢いで手を放したら、ゴブリン王は吹っ飛んでいくはずだ。

 そしてたぶん、岩か木にでも激突して、即死すると思う。

 それはもう、トマトのようにグチャッと潰れて。

 ゴブリン王にも、それが分かったのだろう。


「ワ、分カッタ、俺ノ負ケダッ!

 ダカラッ、()メテクレッ!!」


 こうして私にとっては、結果が分かりきっていた戦いは終わった。

 それじゃあ、例の少女を解放してやるか。

 解放された少女は、訳が分からないという顔をしていたが、私が森の方を指さすと、逃がしてもらえるということだけは理解したらしい。


 それでも少女は、何か納得していない様子で、背後を何度も振り返りながら帰って行く。

 まあ、私がこっそりと後を追っていったので、彼女の警戒も間違いではないのだけどね。

 このまま彼女に人間の町の位置を、教えてもらおうという寸法である。


 それに、少女が遭難したり、他のモンスターに襲われたりでもしたら、助けた意味が無いしねぇ……。

 彼女が無事に帰還するまでは、責任を持ってガードぐらいしてやるさ。


 で、結局少女は、多少道には迷ったものの、山とかの目印になるような物があったのか、なんとか無事に町へと辿り着いた。

 おお……人口は千人かそこらってところかなぁ。

 たぶん開拓者の拠点だと思うが、その割には思っていたよりも大きい町だな。


 文明のレベルは、やはり異世界のお約束で、中世ヨーロッパと同じくらいだろうか。

 まあ、魔法の技術もあるのだろうから、ある面では地球よりも発達している可能性はあるのかもしれないが。

 

 ともかく、ようやく人間の文明と接触できた。

 まだ人間になる為の手段は見つからないけど、これは大きな一歩だ。

 思わず目から涙が溢れてくる。

 年を取ると、涙もろくなるなぁ……。

 

 そして私は、少女が町に入るのを見届けて、一旦ゴブリン達のところへと戻る。

 ゴブリン達には、人間達と出会わないような土地へと移動してもらわなければならない。

 私が今まで人間に出会わなかった北の方がベストかな?

 他の方角には、何があるのか知らないし。

 

 そのことを説明すると、ゴブリン達はいまいち納得していない様子だった。


「ソンナコト言ワレテモ……。

 我々モ、北カラココニ逃ゲテキタバカリダシナァ……」


 ん?


「トンデモナイ化ケ物ニ追ワレテ来タノダカラ、今更北ノ地ニハ戻レナイシ……」


 んん?

 それって私のことじゃないよね?

 でも私、北の方でそんな化け物に出会った記憶は、全く無いんだけど……。

 途中からは、余裕で勝てるようなのばかりだったよ……?


 いやだからこそ、ゴブリン達は私の巨大な気配に脅えて逃げた……ということもあるのか?

 …………う~ん、これはもしもゴブリンの南下の原因が私なら、私が責任をもって対処しなきゃ駄目かなぁ?

 まあ急ぐ必要も無いから、人間の町へ行くのは後回しにして、まずはゴブリン達を新しい住処(すみか)となる土地へと導いてやるか。


「大丈夫! 北にどんな化け物がいようとも、この私の敵ではないので!

 安心して着いて来て」


「オオ!」


 私の宣言にゴブリン達が湧き上がった。

 そして、新たなゴブリン王を讃える万歳三唱(的なもの)をしている。


 …………うん、私が原因なのに、なんかゴメン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ