46 ドーピングするしかない
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今回も途中で視点が変わります。
……さて、困った。
アイリス様の戦闘能力が、かなり低い。
スライムを倒してから暫くして、オオカミ型の魔物4匹に遭遇した。
私が「結界」での防御に徹して、アイリス様に攻撃を任せてみたが、素早いオオカミの身体にその魔法攻撃が当たらないのだ。
当たったとしても一撃では倒せず、何回も当てる必要があった。
結果としてアイリス様は、途中で魔力切れを起こして何もできなくなる。
そもそもリーザ様は、最初から何もできない。
結局、私が全部倒すことになった。
「エリ様は……お強いですわね……」
アイリス様の魔力回復の為に休憩することになったが、彼女は膝を抱えつつそう呟いた。
私との実力差を実感して、落ち込んでいるようだ。
……特に気にした様子も無く保存食を食べているリーザ様は、アイリス様を見習ってほしい。
まあ、オオカミの解体作業では頑張ってくれたので、良しとするけど……。
しかしこのままでは拙い。
確かに私は30階層くらいでならソロでもいけるので、私が全面的に戦えば浅い階層の魔物は敵ではない。
だけどそれでは、アイリス様達の修練にならないんだよね……。
しかし彼女の実力では、まともに倒せるような魔物がほぼ存在しないし、これではあまりにも効率が悪すぎる。
う~ん、私が睡眠の魔法で敵の動きを封じて……。
いや、それだと確実に眠ってくれるとは限らないので、下手をするとアイリス様達が魔物の攻撃を受ける可能性も有り得る。
そしてそれが、致命傷になってしまうことだって……。
そもそも動かない敵を倒しても、修練にはならないし……。
どうせやるならば、実力が伸びる方向でやった方がいいよね。
これはもう、私の「吸精」のスキルを使うしかないなぁ……。
少々ズルだけど、今はアイリス様に戦闘経験を積ませて、せめて戦い方の感覚だけでも身につけてもらおう。
上手くいけば、無詠唱魔法を失敗しないように発動できるようになるかも……。
私だって姫様の魔力を使って強力な魔法を使った経験が、なんだかんだで魔法技術の向上に繋がっているような気がするしね。
「あの……ここから先は、私のスキルを使おうと思います」
「スキル……ですか?」
「できれば、このスキルのことは秘密にしておいてほしいのですが……。
敵を弱体化させつつ、味方を強化するような感じです。
これを使っていれば、アイリス様は魔力切れを殆ど気にすることなく戦えるようになるはずです」
「それは凄い……のですが、エリ様には負担は無いのですか?」
「それはまあ大丈夫です」
むしろこのまま私以外の戦力が無い状態の方がキツイ。
そんな訳で、やるしかないのだ。
私はアイリス・クラウ・オーラント。
ただのポンコツですぅ……。
まさかおトイレでお馴染みの、あのスライムを倒すことにすら苦労するとは思いませんでしたわ……。
他の魔物が相手だと、もう手も足も出ない状態ですし……。
私の能力、低すぎ……。
そんな私を見かねたのか、エリ様がスキルを使って支援してくれることになりました。
スキルの中には物凄く強力で有益なものもある為、物によっては所持者が国に管理されたり、拘束や処分されたりすることもあるらしいので、本音では秘密にしておきたかったのでしょうね。
そのスキルを私の為に使ってくださるエリ様には、感謝しかしありませんわ。
「はい、スキルを使います。
前方から3匹、落ち着いて狙ってください」
「は、はい!」
エリ様の指示を受けて、私は呪文の詠唱を開始しました。
そうしている間に、3匹の巨大なネズミのような魔物が接近してきます。
でも……心なしか動きが鈍く、弱っているような印象ですわね?
これならば……!
私が撃ち出した炎の弾は、ネズミになんとか命中しました。
そして……一撃でトドメをさすことができたようです。
ネズミが弱っていたということもあるのでしょうけども、私の術の威力も上がっていたような……。
「や、やりましたわ……!」
ともかくこれならば、ネズミが我々のところへ到達するまで、もう一撃魔法を発動することができるでしょう。
結局、私が倒せたのは2匹までで、残りの1匹はエリ様に対処してもらいましたが、スライムにすら苦戦していた時とは思えないほどの戦果ですわ。
それに魔力も、そんなに減ったようには感じません。
「素晴らしいですわ、エリ様!
これならば私も戦えます!」
「はい、この調子で戦闘に慣れていきましょう」
「はい!」
それにしてもこのエリ様のスキルは、恐ろしく有益ですわね……。
これが軍隊にも使えるのならば、我が国の防衛力は相当上がるはずですが……。
国が是非とも欲しがる人材だと思いますが、おそらく殿下もその辺を理解して、エリ様を傍に置いているのでしょうね。
それから何度か戦闘を繰り返した後、
「これ……もしかして、私も魔法が使えるようになるのではないかの……?」
「えっ?」
リーザ様がそんなことを言い出しました。
「どうやら私は、女神様達の声を聞く為に魔力の大半を使っていて、魔法に使うだけの魔力が足りないようなのじゃ。
しかし、エリ殿が魔力を供給してくれるのならば、私でも魔法を使えるのかもしれん」
はぁ……殿下からは才能を犠牲にしているというような話を聞いておりましたが、そういうことだったのですのね。
それならばエリ様のスキルの支援があれば、どうにかなるかもしれませんわね。
しかし──、
「確かに理屈の上では使えますが……。
リーザ様は、魔法の詠唱などの発動方法を覚えていますか?」
「あ」
覚えてはいないようですわね……。
だから普段から勉強が重要ですのに……。
結局リーザ様に少しずつ魔法を教えながら、ダンジョンの攻略を進めることになったのです。




