45 ダンジョン低レベルチャレンジ
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「お久しぶりです、先生!」
「おお、エリリー……いや、エリちゃん。
メイド姿なのに、不思議と前よりも逞しくなったように見えるね!」
「エリ、久しぶりにゃ!
レイ姉から、頑張っているって聞いているにゃよ」
私はキエル先生と、マルガ先生に挨拶をした。
ん……? レイ姉って誰かな?
姫様のことじゃないだろうし、もしかしてメイド長?
アリゼって、本名ではないのだろうか……。
それとアイリス様が、「誰?」という顔をしている。
「あ……以前お世話になっていた孤児院の先生です」
先生達のことをアイリス様に紹介する。
するとアイリス様は「孤児院」という単語に反応して、何か聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような表情をした。
「あら……それは……」
「ああ、気にしないでください。
今は姫様のところで働けて幸せですから」
「そ……そうですか」
「うう……あのエリちゃんが、本当に強くなって……!」
「うん、別人のようにゃ。
実際、別人みたいな格好だけど……」
なんだか先生達が感動しているけど、恥ずかしいからやめてほしい……。
その後、先生達からダンジョンでの活動について、アドバイスを受ける予定だったんだけど……、
「レイちゃ……いやアリゼさんから、エリちゃんも鍛えられたんでしょ?
じゃあ、私があえて教えることは無いと思うよ。
私とマルガだって、あの人の弟子みたいなものだしね」
「えっ、そうだったんですか!?」
一緒にパーティーを組んでいた冒険者だとは聞いていたけど、そんな関係だったとは……。
それにやっぱり「レイ」ってメイド長のことか。
メイド長の謎は、一体どれだけあるのだろう……?
ともかくダンジョンに突入する準備は整ったので、私達は先生達に別れの挨拶して出発する。
ただ、私はともかく、アイリス様とリーザ様は戦力としてあまり期待できないので、1番最後にダンジョンへ入った方がいいかな?
そうすれば他のパーティーによって魔物が減らされているから、安全に攻略することができるだろう。
まあ……結果的に良い成績は望めないけれど、まずは安全が最優先だ。
そんな訳で私達は、既に魔物が駆逐されているという第1階層を、のんびりと進みながら作戦会議をする。
「私は索敵をしつつ、前衛で魔物の動きを抑えますので、アイリス様は後衛から魔法で攻撃をしてください。
リーザ様は……何かできますか?」
「……………………」
しかしリーザ様は気まずそうな顔をしたまま、何も答えなかった。
「リーザ様……」
アイリス様も、「マジか、こいつ」みたいな顔でリーザ様を見ている。
「では、リーザ様には、マッピングをお願いします」
戦闘で何もできないのならば、誰にでもできそうなことを任せるしかない。
それすらも間違って記入する可能性も捨てきれないけれど、他に任せることができそうなものがあるかというと……無いな。
「う……うむ、了解したのじゃ」
その後、2階層に入ったけど、やっぱり魔物は他のパーティーに狩り尽くされてしまったようで、特に戦闘が発生することもなく、そのまま3階層に到達した。
……が、ここでも魔物は現れず、あっさりと4階層に辿り着いてしまった。
う~ん、これはもしかすると判断ミスかもしれないなぁ……。
ダンジョンの魔物は、下層に行くほど強くなるけど、このままだと始めて戦う相手がアイリス様やリーザ様にとって、いきなり勝ち目の無い強敵……ということにもなりかねない。
できればこの4階層で、まだ魔物が弱い内に戦闘に慣れてほしいんだけど……。
まあこの実習は5日間の予定だし、地上に戻って宿屋に泊まることも自由なので、ゆっくり行こうか……。
それから暫く歩いていると、
「む? この先に何かいるのぅ」
リーザ様が反応した。
え? 私の索敵にはまだ……あ、本当だ。
何かいる。
「よく分かりましたね、リーザ様。
索敵がしっかりとできているではないですか」
「うむ、私は様々な存在の声を聞くことができるのじゃ。
意味は分からないことが多いがの」
つまりこの先にいる、何者かの声が聞こえたということか。
私には何も聞こえないけど、普通の人間の耳には聞こえない声なのかな?
でも意外なところで、リーザ様にも役立つ技能があって良かったよ……。
「それではこれからの索敵は、リーザ様にお願いしましょうか」
「うむ、任せておくのじゃ」
リーザ様は頼られるのが嬉しいのか、得意げに無い胸を張った。
まあ、全面的に信用できないので、私も索敵は続けるけどね。
「アイリス様、この先にいる存在は殆ど動いていませんが、いきなり襲いかかってくる可能性もあるので、戦闘の準備をお願いします」
「は、はい、分かりましたわ」
で、警戒しながら慎重に通路を進むと、そこには1匹のスライムがいた。
トイレにもいるお馴染みの存在だ。
とはいえ、野生のスライムだと話は違う。
彼らは近づくと、身体を触手のように伸ばして、酸や毒を使って獲物を仕留めにくる強敵だ。
だけど距離を取って魔法で攻撃すれば、さほど怖い相手ではない。
「アイリス様、魔法での攻撃をお願いします!
ゆっくり詠唱しても大丈夫です」
「はい!」
魔法は無詠唱で発動できた方が、様々な戦況に即応できるていいんだけど、残念ながらアイリス様が無詠唱で魔法を使おうとすると失敗することが多い。
ここは時間がかかっても、詠唱した方が確実だろう。
「出でよ、炎!」
そんな掛け声と共にアイリス様が振った杖の先から、人の頭くらいのサイズがある炎の弾が出現し、それがスライム目掛けて一直線に飛んでいく。
そして──
「当たりましたわ!」
アイリス様の攻撃は、見事にスライムに直撃した。
だが、残念ながら、即死させるまでには至っていない。
……普通なら、一撃で倒せるはずなんだけどね……。
「アイリス様、もう一撃お願いします!」
「は、はい!」
……まいった。
スライムにすら手間取るようでは、この先は苦戦するどころの騒ぎではなくなるぞ……!?




