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43 実習当日

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 ダンジョンでの実習の日。

 参加する生徒──基本的に在学生全員だ──は校庭に集められていた。

 その前にメイド長(アリゼ様)が姿を現す。


 多くの生徒が「何者か?」とざわめいているけれど、正体不明のメイドが出てきたら、そんな反応になるのも無理はないだろう。

 しかし実は彼女が、この王立クラリーゼ学園にとって重要な人物であることを、私や姫様などの一部の者は知っている。

 学園の名前からして、女王様とメイド長の名前を合成したものだしね……。


「私は女王陛下の筆頭侍女である、アリゼ・キンガリーです。

 この学園の創設者でもあります」


 生徒達のざわめきが大きくなった。

 学園長の存在ならばともかく、創設者の存在は今初めて知った人も多いと思う。

 うん……私もだ。

 関係者だとは思っていたが、メイド長がそんなことまでしているとはさすがに知らなかった。


 でもよく考えれば、私が居候(いそうろう)している家の隣にあるノルン学院を作ったのもメイド長だと言うし、そんなに不思議な話でもないのか。

 ただ、どれだけ手広く事業に関わっているのか──と、不思議に思う。

 一体どこにそんな暇があるのだろうか……。


「はい、静かに。

 これからみなさんには、ダンジョンに挑戦してもらいます。

 皆さんの保護者からは、何があっても自己責任である──という、念書をいただいておりますので、多少の危険は覚悟しておいてください。

 ただ、余程運が悪いか、無謀なことをしなければ死亡することはまず無いと思います。


 ……それでも覚悟ができないという方は、今から不参加を選ぶこともできますが、当然今後の成績や授業の選択肢に影響があることをご理解ください」


 あ~……、実戦から逃げるような人に、学園卒業後の進路として騎士などの戦闘職に推薦する訳にもいかないから、それは仕方が無いのだろうねぇ……。

 それにダンジョンでは実戦以外でも学ぶべきものはあるし、その経験の有無で一見ダンジョンに関係がない分野での成長にも影響があると思う。

 

 結果として不参加になることで将来の選択肢が狭まる訳だけど、でもこのままだと将来はメイド一択の私よりはマシなのかもしれない。

 今のところ姫様から離れるつもりは無いけれど、メイド以外で姫様の(そば)にいられるビジョンが全く想像できないからなぁ……。


「そんな訳で不参加の人は、これから30を数える間にこの場から立ち去ってください」


 と、メイド長がカウントダウンをはじめる。

 ゆっくりと数字が読み上げられる中、動く者はいない。

 まあ、他の生徒達から、「逃げた」と思われるのは恥だろうしね。

 特に体面を重んじる貴族の子弟は、逃げる訳にはいかないのだろう。


「ご──、よん──、さん──、に──、いち──、はいゼロ」


 そしてメイド長のカウントダウンが終わった瞬間、私が見ていた風景が突然変わった。


「「「「「「!?」」」」」」

 

 生徒達の間から、大きなざわめきの声が上がる。

 何が起こったのか、まったく理解できていないのだ。


 でも、私はよく知っている。

 これは転移の魔法だ。


「はい、クラサンドに到着しました」

 

 そんなメイド長の言葉で、生徒達の混乱に拍車がかかる。

 こんな100人以上もの人数を、一瞬で王都からクラサンドまで運べるような転移魔法の使い手は、おそらく他に存在しないだろう。

 私だってメイド長が、ここまでできるとは知らなかった。


 そしてこのメイド長の実力を見て、彼女を「ただのメイド」と軽んじる者はもういないはずだ。

 それだけこの転移魔法は凄まじい。


 で、到着したクラサンドだけど、そういえば私ってダンジョンの中と、孤児院の周辺しか知らないんだよね……。

 目の前にある高い塀に囲まれた建物は、たぶんダンジョンの入り口なのだろうけれど、初めて見るものだった。


 ん? その入り口の周囲に聖職者の服装をした集団がいるけど、それが私達の方に近づいてくる。

 あれが今回協力してくれるという、ナウーリャ教の人達かな?


「って、あれ?」


 その集団の中に、見覚えのある人がいた。

 キエル先生と、マルガ先生だ。

 二人も協力者なの!?


「はい、今回のダンジョン実習に同行してくれる治癒魔法の使い手と、指導役のSランク冒険者です」


 メイド長がそう言った。


「え……Sランク?」


 確か先輩達がそれに相当する強さだったよね?

 あの人外の強さを誇る先輩に匹敵するって、先生達はそんなに強かったんだ……。

 そんな私の反応を見て姫様は、


「母はキエルやマルガと一緒に、このクラサンドで冒険者をしていたこともあるのです。

 当然母も、元Sランクですよ」


 と、教えてくれた。

 そっか……メイド長が誇る強さ──その秘密の一端が、分かったような気がする。

 そして先生達と知り合いだったその縁で、私も姫様に出会うことができたんだから、感謝しなくちゃ。


「それとダンジョン攻略に必要な物は、こちらで用意しました。

 装備や食料などの他に、救援を呼ぶ為の魔道具も用意していますので、これは必ず受け取ってください」


 次の瞬間、メイド長が空間収納から武器やら鎧やら、諸々の道具を取り出した。

 たぶんここにいる全員分以上の数があると思う。

 どんな容量をしているの!?

 それを見た生徒達が、またざわめく結果になってしまった。


「これからパーティー編成をしてもらいますが、飛び抜けて実力が高い者は、ソロで挑戦してもらうことになっています」


 メイド長が数人の名前を呼び上げる。

 その中には、姫様やカナウ先輩の名も含まれていた。


「他の者は自由に、最大6名までのパーティーを組んでください。

 1つのパーティーに最低1人、ナウーリャ教からお借りした治癒魔法使いをパーティーに入れてもらいますが、術者の能力はバラバラです。

 それを見定め、パーティーに加入してもらう為の交渉をするところまでもが、実習の一環となります。


 そしてパーティー編成が終わり、装備品を選択して準備を終えた班から、Sランクの冒険者からアドバイスを受けて、出発となります。

 私も冒険者の資格を持っていたので、私に聞きに来ても良いですよ?


 では、始めてください」


 そんなメイド長の宣言により、ダンジョンでの実習が開始された訳だが……。

 私は誰とパーティーを組めばいいのだろうか?

 ソロで参加することになった姫様とカナウ先輩を除くと、殆ど知り合いがいないんだけど……。

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