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37 終わる夏休み

 ブックマーク・感想をありがとうございました!

 私はエリ。

 ……気がついたら夏休みが終わっていた。

 正確には、明後日(あさって)から新学期だという。

 

 サンバートルで魔王軍の四天王と戦っていたところまでは覚えているんだけど、そこから先の記憶が無い……。

 目が覚めたらいつの間にか王都に帰ってきていて、自室のベッドの上だったんですけど……。


 どうやら私は、10日(とおか)近くも眠っていたらしい。

 その間の飲食はともかく、トイレの方をどうしていたのかは、あまり考えたくない。

 たぶん垂れ流しになっていたのを、浄化魔法で処理した……ということなのだろうけれど、まさかメイド長(アリゼ様)や姫様の手を(わずら)わせてしまったのだろうか……。


 いずれにしても、そんな醜態を他人に見られたのかと思うと、頭を抱えたくなるよ……。

 まあ、誰も何も言わないという配慮をしてくれたことについては、本当にありがたいけど……。


 ……ともかく何日も眠っていたにも関わらず、体調には問題はなかったので、すぐにメイドとして復帰することになった。


「姫様、長らくご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。

 今日から職務に復帰します!」


 私がそう挨拶すると、姫様は少し不本意だという顔をしつつ口を開いた。


「……謝罪は不要です。

 その……魔族を相手にあれだけ戦えたのですから……よくやったのですよ。

 本来ならば勲章を与えてもいいほどの働きですが、魔族の件は国民に不安を与える為、単なる魔物の襲撃ということで発表されています。

 だから我々と四天王との戦いも、ありませんでした。

 いいですね?」


「は……はい」


「その代わり、褒賞金を出すことにしたのです。

 それに今後の給金も、上げることにしました。

 あなたは……(みずか)らの手で、自身が有能であると証明したのです」


 つまり姫様は、私の実力を認めてくれたということなのだろう。

 まあ……私個人の人格を認めてくれたのは分からないけれど、少なくとも今後は能力不足を理由に解雇されるようなことが無くなったのは確かだと思う。


「あ……ありがとうございます!」


 私の感謝の言葉に、姫様は照れたように視線を逸らした。


「……働きを正当に評価しただけなのです」


 なお、褒賞金は金貨500枚という、今までに見た事も無い大金で、更に月の給金もこれまでの5倍になっていた。

 えっ……本当にこんなに貰っていいの?──と、なんだか怖くなったんですけど……。




 そして始業式の日、これまでと同様に姫様は、私とカナウ先輩を連れだって転移した。

 学園に到着すると、目ざとく私達を見つけたアイリス様が近づいてきた。


「あら、ごきげんようなのです、アイリス様」


 姫様はこのアイリス様のことを気に入っているらしく、本人がいないところで「あの悪役令嬢のような見た目なのに、小心者でポンコツだというギャップがたまらないのです」と、なんだかよく分からないことを言っていた。

 だからなのか、姫様の方から先制して挨拶をする。

 

「ごきげんよう、殿下。

 カナウ様とエリ様もお元気そうでなによりです」


 そんなアイリス様の言葉に、先日まで昏睡状態だった私は、内心では苦笑いしつつも挨拶を返す。


「おはようございます、アイリス様」


「こんちゃー、お嬢!」


 ん? 珍しくカナウ先輩が挨拶をしている。

 しかもちょっと馴れ馴れしい……?


「おや? 珍しくカナウが人の顔を覚えていますね?」


 姫様の言う通り、カナウ先輩は人の顔を覚えるのが苦手で、必要最低限の関係者の顔しか覚えていない。

 そういえば、アイリス様も夏休み中に補習を受けていたらしいけど、その間にカナウ先輩と仲良くなったのかな?


「おー、お嬢に助けられて、補習のテストもなんとか合格できたんだぜ、姫さん!」


「ああ……コロロが、6回も再テストを繰り返した……と(なげ)いていましたね。

 アイリス様、うちのメイドがご迷惑をかけたようで、申し訳ないのです」

 

「い、いえ、(わたくし)も、カナウ様に勉強を教えることで内容を理解できたので、有意義でございましたわ」


「そうですか。

 この難しい話が苦手なカナウに学ばせたのですから、アイリス様は人を教え導く才があるのかもしれませんね」


「そんな……殿下。

 恐れ多いお言葉ですわ」


 そう言いつつも、アイリス様は嬉しそうだ。

 私も姫様に褒められると嬉しいから、その気持ちは分かる。


「……そういえば、ナウーリャ教のリーザ様とも一緒に勉強をしておりましたが、殿下もあの御方とは面識がおありなのですよね?」


「ああ……リーザですか。

 一時期、一緒に暮らしていたのです」


「そ、そうだったのですか!?」


「ええ……母が鍛えようとしていたのですが……。

 でも、あの人が教祖には、全く見えなかったでしょう?」


「いえ……それは……」


 アイリス様が、なんと答えていいのか困っている。

 私もそのリーザという人には会ったことが無いので、どんな反応をしたらいいのか分からない。

 ただ、ナウーリャ教団は、私が以前いたクラサンドに本部があったから、キエル先生とマルガ先生ならば面識はあるのかもしれないな。


「あれでも、本当に女神様のお告げを聞く能力はあるのですよ。

 ただその能力の為に、他の才能を犠牲にしているようなものなので、いくら努力しても成長できず、腐っているのです。

 アイリス様も、またリーザに会う機会があったら、温かい目で見守ってあげてください」


「そ……そうだったのですか。

 承知いたしました。

 ナウーリャ教と関わる機会はなかなか無いとは思いますが、心に留めておきますわ」


 いや、女神様の声を聞けるって、凄くない!?

 姫様の人脈って、やっぱりおかしいな……。


 そしてこの時のアイリス様の返答が、メイド長や姫様達がよく言う「フラグ」だったということが分かったのは、もうちょっと先の話だった。

 まさか私にとっても他人事ではなくなるとは、思っていなかったよ……。

 今日からストックが尽きるか、日曜日までは毎日更新したいと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かに、アイリスさんは何か萌え可愛い悪役令嬢という枠に相応しいですねwww
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