閑話 国を牛耳る人物
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「す、数奇な運命ですの!?
一体どのような……」
「うむ……女神様のお告げなので、詳しいことはよく分からぬが、そう悪いことではなさそうじゃぞ?」
「女神様が……」
私は、リーザ・アトロポスと名乗る少女の言葉に驚愕しました。
この小さな少女が教祖というのは信じがたい話ですが、エルフは見た目通りの年齢ではないと聞くので、それほど不思議なことではないのかもしれません。
それにナウーリャ教と言えば、最近各地に治療院を作り、更に新たな薬の材料を発見するなどして、民の救済に大きく貢献している教団だと聞いておりますわ。
そこの教祖のお告げならば、信憑性もあるような無いような……。
とにかく、かなりの大物ではないですか……!
そんな御方を、無理矢理この補習に参加させたのは、カナウ様が言うメイド長なのでしょうね……。
そのような権限があるということは、その御方がこの国の影の支配者であることも事実のようですわ……!!
もう少し詳しく聞いてみましょうか。
「教団のご活躍は、私の耳にも届いておりますわ。
そういえばカナウ様からお聞きしたのですが、教団とレイチェル殿下の母君とは、深い関係があるとか……。
どのような御方なのですか?」
ちょっと踏み込みすぎた質問でしたかしらね……?
だけど私の勘は、この教祖様らしからぬ御方ならば、大丈夫だと告げていますわ。
「あ~、女王様の方ではなく、聖女様の方か……」
「聖女様?」
え、メイド長が?
メイドが教団から聖人認定される──そんなことがあるのですか!?
ちょっと訳が分からなくなってきましたわね……。
そもそも王女殿下の実母が聖女って、結構衝撃的な事実ですわよね……。
ナウーリャ教団は評判の良い宗教団体ですし、そこの重鎮となれば殿下の箔をつける為に、公にしていても良いはず……。
実際殿下は養子ということで、貴族の中には血筋を疑問視する声もありますからねぇ……。
教団の後ろ盾は、あった方が有利だと思うのですが……。
それにも関わらず聖女について公式に発表されていないということは、王家としては隠しておきたいことだったのでは……?
そんな私の困惑を察したのか、リーザ様は自身の発言に問題があったと悟ったようで、
「いや……その……なんじゃ。
……偉大な御方じゃよ?」
と、言葉を濁しつつ、笑いました。
これ以上迂闊な発言をしては拙いという、作り笑いですわね。
あ、これはもう何も聞かない方が、良さそうですわ。
そんな具合に、私の危機回避能力が働いたその時──、
「はーい、これから補習を始めるぽんよ」
特別魔法講師のコロロ様が、入室してきました。
可愛らしいタヌキの獣人ですが、その見た目に反して、本業は女王陛下の親衛隊だそうで。
だけど暇な時にはこの学園で、魔法の講師も引き受けているそうですわ。
「おや、久しぶりだぽん、リーザさん。
……何故、私と同じあの学院の卒業生が、こんなところに今更いるのか、ちょっと疑問だぽんが……」
と、コロロ様は、少し非難めいた目でリーザ様を見ておりますわ。
どうやら知り合いというか、同じ学院の卒業生のようですが、学院と言えば貴族から恐れられているという噂のところがあったような……。
「院長から色々聞いているぽん。
少々さぼりすぎだ……と。
厳しくいくつもりだから、そのつもりでいてほしいぽん」
「え……はいなのじゃ……」
リーザ様は視線を逸らしつつ、コロロさまへと返事をしました。
ちょっと立場が低すぎじゃないですかね、この教祖様……。
ひょっとして、名ばかりの教祖なのでしょうか……?
まあ、カナウ様も「メイド長が管理している部署」と言っていましたし、実質的には聖女様が教団のトップなのでしょうね……。
いずれにしても同じ学院の卒業生ならば、リーザ様とコロロ様は同程度の能力があってもおかしくないはずですわよね?
それなのにお二方の間には、講師と生徒という大きな差が生じていて……。
本当に学院で学んだことを忘れる程度には、リーザ様はさぼっていたのでしょうね……。
それにまた新しい情報が出てきましたわね。
「院長」とは、これまで出てきた「メイド長」や「聖女様」と同一人物なのでしょうか?
色々と気になりますが、学院の噂もありますし、あまり深入りしても拙いような気がしますわね……。
まあ、詳しいことは、後あとでお祖父様に聞いてみることにしましょう。
それよりも今は、この補習を無事に乗り切ることが重要ですわ。
ただ、リーザ様のように、同じレベルの人がいると、凄く気が楽ですわね……。
おそらく数日だけの付き合いでしょうが、案外有意義な補習になりそうですわ。
なお後日、学院やメイド長のことについてお祖父様に訪ねましたら、「深入りするな」と凄い剣幕で怒られましたわ。
ああ……やっぱり深く関わってはいけない、この国の闇だったのですね。
しかし将来私が、件のメイド長と深く関わることになろうとは、この時はまだ全く予想もしていませんでしたの……。
あと、リーザ様とも思わぬところで行動を共にすることになったのも、予想外でしたわね……。
女神様のお告げ……当たっていたのかもしれませんわ。
次回は明後日の予定です。




