36 4姉妹+1
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「朝か……」
目覚めると、胸から下に重みを感じた。
視線を少し下げると、クラリスが私の胸に顔を埋めて眠っていた。
窒息しかねないからやめなさい……って、いつも言っているんだけどなぁ……。
まあなんだ、昨晩はお楽しみでしたね?
クラリスは満足そうだけど、私はスライム風呂で疲弊した後に、彼女から全力で愛されたので、少々お疲れです。
睡眠時間も殆ど無かったけど、万能耐性があるから睡眠不足にもある程度は耐えられる。
とはいえこの身体、体力は無限に近いほどあるけれど、精神的に疲れるとやはり身体もだるくなるのだ……。
病は気からなんだよなぁ……。
でもまあ……疲れてはいるが、肌はツヤツヤだな……。
あのスライム風呂は体中の汚れを完全に落としてくれて、まるで脱皮をしたような爽快感だ。
これなら定期的にアイにお願いしたいような気もするけど、クラリスからは浮気にカウントされそうなので難しいかも……。
「さて……」
私はクラリスを起こさないようにゆっくりと身体を起こして、ベッドから出る。
なかなか寝心地のいいベッドだった。
それにアイが用意してくれた部屋は、ちょっとした高級ホテルのような豪華さがある。
これを私達だけで楽しむのは気が引けるので、娘達を迎えに行こうか。
レイチェルからは、魔王軍の四天王を撃破し、町を襲った屍食鬼も駆逐したとの念話が入っているので、もう彼女達の守りが無くても、サンバートルの町は問題ないだろう。
一応クラリスや領主達と取り決めたことも、転移で領主の館に行って家令に伝えておいたので、領主と領軍が町に戻るまでの対応も、滞りなく進むはずだ。
というか領主の館の一部と、例の離れが破壊されていたんだけど、何があった……?
そんな訳で連れてきた我が娘達、レイチェル・アリゼナータ・リゼの3人。
ここにアイを加えての、4姉妹が初の勢揃いだ。
「これまた個性的な面子だね……」
アイはそう言うが、「お前が言うな」案件である。
それよりも、まずは自己紹介をどうぞ。
「私はアイ!
悪いスライムじゃないよ!
君達のお姉さんさ!」
「そんな訳で、もう1人姉妹がいました……」
「え……私が長女じゃなかったのですか?」
突然現れた姉の存在に、レイチェルは少し愕然としたような表情になっていた。
まあ……長女というポジションの所為で生じる責任やプレッシャーとかも、少なからずあったのだろうしな……。
それが実は必要の無い物だったと今更言われたら、途方に暮れるだろう。
一方、今までとはあまり立場が変わらないアリタは、「へー」っと呑気な態度だ。
それよりも劇的な反応を示しているのは、むしろ4姉妹の誰でもなく、私の妹の方である。
「お姉ちゃん!?
お姉ちゃんがもう1人いる!?」
シスにとってリゼの姿は、死に別れて以来初めて見る本来の姉の姿であり、おそらく唯一出会った同族だ。
その驚きと感慨は相当なものなのかもしれない。
「末っ子のリゼですよ。
最初の私の身体と魂を持っています」
「うわぁ~、懐かしい……!
あの頃のお姉ちゃんそっくりだぁ!」
「? 誰なの?
なんとなく懐かしい匂いはするけど……」
しかしリゼは、人間の姿をしているシスが誰なのか分からないらしい。
そこでシスは、本来のキツネの姿に戻る。
「これでどう?」
「妹ちゃん!?
妹ちゃん、元気だったんだー!?」
リゼはシスとの再会でテンションが上がったのか、ピョンピョンと跳ねながらシスの周りを一周する。
何これ、可愛い。
それにしてもシスは私が生んでいないけど、それでもリゼにとっては血の繋がった妹なんだよな。
私が「分裂」で生んだ身体って、遺伝子レベルで以前の身体とほぼ同じっぽいし……。
いや、歴代の「私」の遺伝子も何かしら混じっているかもしれないので、全く同じではないのかもしれないが。
で、別人になってしまった今の私と、妹のシスには血の繋がりは無い。
その上、リゼの妹のはずのシスも、実際にはリゼよりも年上だし、レイチェルやアリタから見れば叔母でしかない。
むぅ……なんだかややこしい関係だな……。
そんなややこしい姉妹関係のリゼとシスは、お互いにペロペロと舐め合い、毛繕いを始めた。
うむ……尊い。
その毛繕いの様子を、私達はほんわかした気持ちで眺めていた。
もふもふがじゃれ合っている姿って、癒やされるよね……。
しかし毛繕いが終わると、突然シスがとんでもないことを言い出した。
「お姉ちゃん!
この子、あたしにちょうだい!!」
「いや、あげませんが?」
実の娘をそんな犬猫みたいに、簡単には譲渡できんよ。
ただ……、
「リゼが望むのならば、ここに預けるのは有りかもしりませんね。
リゼも都会で暮らすよりも、ここの自然の中で、同族と生活する方が性に合うかもしれませんし」
という方向でならば、考えてもいい。
「お姉ちゃんはそう言っているけど、あなたはどう思う?
ここでなら、山での狩りの仕方とか、人型への変身の仕方とか、色々と教えて上げられると思うんだけどなぁ」
そんなシスの誘いに、リゼは考え込むような仕草をする。
だけど結局、答えを出すことができなかったようで、
「ママ……?」
すがるような目で私を見た。
「あなたの好きなようにすればいいのですよ。
ただ、私もここには頻繁に訪れますし、あなたも転移魔法を使えばいつでも王都の家に帰ってこれるでしょう……?
だからそんなに寂しくはないと思いますよ?」
私はそう後押しする。
リゼと離れて暮らすのは寂しいけれど、キツネとしてはとっくに親離れしていてもおかしくない年齢なので、彼女の好きなようにさせたいと思う。
というか都会で生活するのなら、人間の姿になれるようになってからでも遅くないし、そちらの方が都合がいいのも事実だ。
それにリゼがこの地に留まることで、対魔王軍の戦力強化も期待できる。
勿論、万全を期して、ダンジョンからメイドを何人か派遣して、リゼの護衛&お世話をさせようとは思うけれど。
「うん、分かったよ、ママ!
あたし、ここで頑張ってみる!!」
そんな訳で、リゼがちょっと早めの独立をすることになった。
まあ、実際にはまだ準備とかがあるので、今すぐにという訳にはいかないが、準備が整う数日間は、家族全員で避暑を楽しみたいと思う。
そして王都に帰る日──。
リゼ達とはお別れ……とは言っても、私は数日中にまた転移で来るし、悲壮感は無い。
「じゃあまたねー、ママ!」
「ハイ、お姉ちゃん達の言うことを聞いて、良い子にしているのですよ」
私から親離れするリゼも、今のところは問題なさそうだ。
それから──、
「それと、アイ。
これをハゴータに渡しておいてください」
私は空間収納から、1本のスコップを取り出した。
最近は暇な時に錬金術を学んでいるので、その錬金スキルで生み出した合金を使った特製スコップだ。
たぶんその辺の名剣よりも、はるかに強いと思う。
「ボロボロのを使っていましたからね。
許しはしませんが、働きに対する正当な報酬は必要でしょう」
実際、あの魔物の群れを相手に、部隊を指揮して被害を最小限に抑えたハゴータの働きは、評価すべきものだった。
いつまでも私的な感情で、認めないという訳にはいかないだろう。
まあ、顔を合わせるつもりは無いけれど。
「ここも正式に辺境伯領になるのですから、そこの幹部が見窄らしい装備では問題ですしね」
「……うん、あいつも喜ぶよ」
「では、また後日」
それから私達は転移して、ノーザンリリィを後にする。
これから王国へノーザンリリィを編入する手続きや、防衛力整備の計画作成などで、忙しくなるなぁ……。
つまり夏休みなんてものは、もう吹っ飛んでしまったのだ。
次回は明後日の予定。




