33 戦い終わって
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途中から視点が変わります。
私の名はレイチェル。
目の前で私の浄化魔法を受けたグリーグスが、消滅していきます。
索敵の反応からも消えていくので、これは完全に倒したと見てもいいでしょう。
ニ●ラムが効いてくれて良かった……。
……しかし今回は、酷い目に遭ったのです。
王女の私を差し置いて、エリが攫われたのはまだいいのです。
普通、立場が逆じゃない?──とは思いましたが、まあそれには目を瞑りましょう。
だけどまさかこんなところで、魔王軍の四天王に遭遇するとは思っていませんでした。
いえ、それだけなら問題は無かったと思います。
クラサンドのカシファーンのように、本気さえ出せば撃退することはそんなに難しくはなかったはずです。
そもそも吸血鬼なんて、鞭で頭部への攻撃を繰り返し、正体を現したところで聖水ハメをすれば、ノーダメージでも倒せるものですしね、某『悪魔城』的に。
実際にグリーグスは中威力の浄化魔法で硬直していたので、その隙に他の攻撃で生命力を削りきるなんてこともできたと思います。
まあ、高威力の浄化魔法でも普通に倒せたので、最初から私の実力が発揮できていれば、敵ですらありませんでした。
しかし場所が悪かった……。
まさかあの離れに潜伏しているとは……!
エリを救出する為にあの離れに転移して、そこが何処なのか理解した瞬間に、発狂するかと思ったのですよ……。
あそこは私の前世が長年閉じ込められて陵辱を受け、そして殺された場所ですから、恐怖が魂に染みこんでいたようです。
まあ、その後に暴走して、グリーグス諸共あの離れを破壊し尽くしてやりましたけど、復活してきたグリーグスが全裸だった所為で、トラウマ再起動。
やめてください、死んでしまいます!
その所為で戦闘不能になった私を庇いながら、エリはよくやったと思います。
もしもこの場にいたのが他のメイド達だったら、グリーグスには勝てなかったかもしれません。
ケシィーはそこまで戦闘力は高くありませんし、ダンジョンのメイド達は元々は魔族の配下みたいなものですからねぇ……。
ママに鍛えられているとは言え、さすがに元上司とも言える四天王の相手は厳しかったと思うのです。
そもそも元魔物ということで浄化魔法は不得意ですから、不死身に近いグリーグスに対しての有効策を持っていなかったでしょう。
まあ元人間のグラスならば、ギリギリなんとかなった可能性もありますが……。
あと、妹達がいれば余裕で勝てましたが、彼女達は町の中で増殖している屍食鬼の退治をお願いしていたので、無い物ねだりなのです……。
エリは……強くなかったのが、逆に良かったのかもしれませんね。
グリーグスと正面から戦えるだけの実力が無かったからこそ、自分のやれる範囲で全力を尽くすことが、結果として私が復活するまでの時間を稼ぐことに繋がったようです。
ただ、私に「自動回復」のスキルがあったから復活は間に合いましたが、本当にギリギリで命を長らえたと言えますね。
それでも勝利は勝利です。
まあ……その代償として、エリの全身はボロボロですが……。
しかも力を使い果たして気絶しているので、回復魔法をかけても当分の間は目覚めないかもしれません。
とにかく、まずは治療をして……って、まだ手を繋いでいることに今更ながらに気付いて、慌てて手を離します。
……でも本来ならば、男の人と手を繋ぐなんてことは考えられないのですが、不思議とそんなに嫌ではなかったかもです……。
やっぱりエリの見た目が、完全に女の子だからですかね?
もしかすると私よりも美少女に見える外見をしているので、ちょっとした嫉妬心すら覚えてしまうのです。
それに先程エリから流れ込んできた力は、温かくて案外心地良くて……。
ハッ!? だからってエリの存在を、完全に認めた訳ではないのですからねっ!!
……この私を惑わすなんて……。
本当にこの子は、雌淫魔なんじゃないですかね……?
いずれにしても今回の戦いで、エリが頑張ったことは事実なので、あとで褒めて上げるのは吝かではないのですよ……。
我が輩の名はグリーグス。
魔王軍四天王が1人、闇のグリーグスである。
……が、今や小さなコウモリの姿だ。
この分身を別の場所に隠していたから良かったようなものの、そうしていなければあのまま浄化の光で、完全に消滅させられるところだったわい……。
なんなのだ、あの化け物のような強さは!?
今代の勇者なのか!?
あのような強者が人間の中にいるとは、聞いてはおらぬ──いや、以前カシファーンめが、拠点を失って逃げ帰ってきたことがあったな……。
まさかあの小娘にやられたというのか!?
いや……それにしては、年齢が合わぬような……。
これはすぐにでも、カシファーンを問い質さねば……!!
あやつめ……今後の立場が悪くなることを恐れて、様々な情報を隠蔽しておったな?
現在の魔王軍は、魔王様が不在故に、四天王がバラバラに動いておる。
だから多少のことならば、お互いに不干渉を貫いている場合が多い。
実際、拠点を1つ失った程度のことならば、人間との戦いの中ではそういうこともあるだろう……と、気にはしなかった。
過去には数で勝る人間によって、いくつもの拠点を奪われておるからな。
だがさすがに勇者かもしれない存在の隠蔽は、看過できぬぞ……!
強さが地位に直結する魔王軍に身を置く以上、たった1人の小娘に敗北したとなれば、進退に関わるだろう。
我が輩だって、今後の立場は悪くなるやもしれぬ。
だからカシファーンが敗北を隠したい気持ちは分からぬでもないが、あのような強者の存在については早急に対策を立てねば、魔王様復活の障害なるわ……!
我が輩は拠点に戻る為に、夜空へと飛び立った。
力を失いすぎていて、今は転移魔法も使えぬ……!
この身体ではあまり速く飛べぬし、昼間の日光を妨げる洞窟を探しつつだと、何日かかるか分からぬが、なるべく早く帰還せねば……!
そもそもあんな恐ろしい小娘がいるような町には、いつまでもおられぬ……!
──っ!?
下から何かが来る!?
って、キツネだと!?
ここは上空100mはあるのだぞ!?
まさかここまで跳躍して──、
『ガッ!』
噛みつかれたっ!!
しかもなんて力だっ!!
これでは抜け出すことどころか、身動きすることすら難しい。
そしてキツネは、こともなげに地面に着地し、我が輩に念話を送ってきた。
『あ~、君さぁ。
夕方に捕まえた怪しいネコと、似た気配をしているねぇ?』
『!?』
このキツネ……!
あの小娘達と一緒にいたあいつか!?
まさかあの時点で、我が使い魔の存在に気付いていただと!?
『君は町を襲った連中の、仲間だよねぇ?
このまま逃がす訳にはいかないなぁ……。
たまたまあたしの近くを飛んでいてくれて、良かったよぉ。
いや、君にとっては悪かったんだろうけどね?』
そう伝えてきたキツネは、更に顎へと力を入れ始めた。
やっ、やめろぉ!!
この身体は、以前ほどの不死性を持っておらぬ。
この身体が死ねば、もう復活できぬのだぞぉ!?
『やめっ、やめんかっ!!
ああああああぁぁぁぁ──』
ブチンと何かが千切れた音そのが、我が輩の聞いた最後の音だった。
次回は明後日の予定です。




