32 繋 ぐ
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私は気絶している姫様の手を握った。
あ……思っていたよりも小さくて、そして柔らかい。
……って、そんなことに感動している場合ではない。
私は全力で「吸精」のスキルを使い、姫様から力を吸い上げる。
「ひぐぅ!?」
しかし姫様から流れ込んできた力は、想定外に膨大だった。
な、なにこれぇ!?
多いっ! 多すぎるよっ!!
こんなの私、パンクしちゃうぅ!?
これはたぶん、姫様の中で暴走していた力が溢れて、私の方に無理矢理流れ込んできているんだ。
こ、これは早く外に出さなきゃ、今度は私の中で力が暴れ出すだろう。
そうなれば、この身体はおそらく耐えきれない。
そうなる前に私は、力を浄化魔法に変換して、グリーグスへと放った。
『ぎあああああぁぁぁぁぁぁ!?』
あ、効いている!
やっぱり姫様から直接吸収した膨大な力で発動した浄化魔法なら、吸血鬼であるグリーグスを滅ぼすことができそうだ。
しかし同時に、私の中を通過していくあまりにも膨大な姫様の力は、私の身体を崩壊へと導いていく。
全身が軋みをあげ、もう死ぬほど痛い。
実際に皮膚のあちこちが割れて、出血すらしていた。
大きすぎる力が、血管を通り道として通過した結果だと思う。
たぶんこのままだと、私の心臓は破裂する。
だけど今浄化魔法を止めたら、グリーグスはすぐに反撃してくるだろう。
そうなれば私達の命は終わるので、この浄化魔法による攻撃は、死んでも中断する訳にはいかなかった。
……が、いくら心でそんな覚悟を決めていたとしても、身体の方がついてこない。
「あ……?」
気がつくと、私の身体は地面に倒れていた。
限界を超えてしまったのか、まるで言うことを利かなくなっている。
当然、浄化魔法も強制的に中断させられることになった。
『ぐおぉぉぉ……おのれぇ……っ!
よくもこの我が輩を、ここまで追い込んでくれたな……っ!!』
浄化魔法の責め苦から解放されたグリーグスは、焼けただれた全身から白い煙を吹き上げつつも、憤怒の形相で私達に迫ってきた。
『最早血の味を愉しむなどと、悠長なことを言っておられぬ!
貴様達の全身を引き裂いて肉塊にせねば、我が輩の怒りは収まらぬわっ!!』
グリーグスが大きく口を開いた。
またあの見えない衝撃を、撃ち込んでくるつもりなのだろう。
姫様はともかく、私は確実に死ぬ。
身体が動かないから、逃げることもできない。
ああぁぁぁ~っ!!
こんなところで人生が終わるだなんて、想像もしていなかったよぉ……っ!!
私はまだ離していなかった姫様の手を、つい強く握りしめてしまった。
すると姫様の手が、握り返してきたのだ。
えっ!?
「エリ、ここまでよく頑張りました!」
突然姫様が上半身を起こした。
この土壇場のタイミングで、復活してくれた!?
そして──、
『なっ……!?』
姫様の手から伸びた光る剣が、グリーグスの腹に深々と突き刺さる。
『グガァァァァァーっ!?』
グリーグスが悶え苦しむ。
姫様の光る剣は高熱を発し、突き刺さった場所からグリーグスの身体を燃やしていくのだから当然だろう。
……あの光る剣って、学園の実技訓練で金属製の的を融解させた、光線のアレンジだよね……?
金属が溶けるような熱を、体内に突き入れられるとか、想像もしたくないな……。
いずれにしてもグリーグスは口から煙と火の粉を吹き上げているから、体内に引火していることは間違いなさそうだ……。
……それでもあいつは、まだ生きている!
『お……おのれ……!!』
グリーグスの周囲に真っ黒な靄のようなものが浮かび、それが無数の槍の形を作り始めた。
闇属性の魔法!?
魔物や魔族が得意とする属性らしいけれど、その効果は絶大だと聞く。
あれを発動されるのは拙い!
ただ、その危険性は姫様も分かっているらしく、その手にしていた光の剣を、上方へと振り抜いた。
「させないのです!」
『グガッ!!』
結果、グリーグスの腹から頭頂部までを、光の剣は一気に斬り裂いた。
その瞬間、彼の周囲に浮遊していた闇の槍は唐突に消え失せる。
さすがに頭部を破壊されては、魔法を制御することはできないようだ。
しかしそれでも、グリーグスは死なない。
斬り裂かれたはずの傷が、すぐに塞がり始めたのだから、その生命力は異常すぎる。
たぶん身体の全てを消滅させないと、何度でも復活してくるはずだ。
「まったく……しつこいのです……!」
姫様の顔に、少し焦りの色が見えた。
やはりトラウマに苦しめられた直後だからなのか、まだ本調子ではないのだろう。
……私が力を吸収して、弱体化させてしまった所為というのもあるかもしれない。
ただ、姫様が精神的に立ち直ったおかげが、力の暴走は止まったようで、私の方に溢れてくることは殆ど無くなっていた。
これなら……!
「ひ……姫様。
お借りした力を、全てお返しします。
それに私の力も、限界までお渡しします。
それで浄化の魔法を使えば、あいつを倒せるかもしれません。
しかし……今の姫様のお身体で、制御できますか……?」
「エリ……!
私を誰だと思っているのですか?
いいから、今すぐ渡しなさい!」
「は、はい!」
姫様は自信に満ちた顔で答えた。
姫様の身体の状態に不安が無い訳ではないけれど、その顔を見れば今は信じるしかない──そう思わせる。
私はありったけの力を、繋いでいた手から姫様へと流し込んだ。
途端に、私の全身から力が抜けていく。
それと同時に、意識も薄れていった。
ボロボロになっていた身体から、更に力を急激に抜いたのだ。
もう全てが限界に達していた。
意識が途切れる寸前、私は眩い光を見たような気がした。
次回は明後日の予定です。




