29 最悪の場所
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そしてついに100万PVでございます。沢山の人に読んでもらえて嬉しい。感謝、感謝。
目の前の吸血鬼・グリーグスが、魔王軍の四天王!?
そ、そんなとんでもない存在が、なんでこんなところに……。
でも魔族って元々は、私達メイド隊が現在拠点としているクラサンドのダンジョン最下層にも潜伏していたという話を聞いている。
そこにいた魔族は、メイド長が撃退したとか。
つまりメイド長がいればどうにかなるかもしれない相手だけど、今は何処にいるのか分からない。
となると……姫様ならたぶん対抗できる思うけれど、こんな危険な相手と戦わせてもいいのだろうか……。
だけどこのままだと、サンバートルの町は滅ぼされると言うし、いよいよになったら姫様を呼ぶしかないな……。
一応私の「念話」のスキルは、1kmくらいの範囲内に姫様がいれば、通じるはず……。
でも、強い魔力を持つ姫様からの「念話」ならば、数十kmは離れていても通じるはずなのに、今のところ連絡は無い。
それだけ距離が離れているのか、それとも姫様の方に何らかの事情があって、連絡できないのか……。
まだ屍食鬼を倒すことに、奔走しているということなのだろうか?
あ、さっきまで私が気絶していて応答することができなかったから、姫様の方で「念話」は通じないと思い込んでいる可能性もあるな。
これは私の方から連絡がとれるかどうか、そろそろ試してみた方がいいのかもしれない。
ただ、私の魔力操作はまだまだ未熟だから、下手にスキルを使うと、グリーグスに察知される危険性もある。
けれどもう、そうも言ってられなくなってきた。
私がそう思っていたその時、グリーグスの方が先に動いた。
「さて……そろそろお嬢さんを、罠として使わせてもらおうか。
あのお嬢さんと正面から戦うのは、少々危険な予感があるのでね……」
「わ……罠?」
私をどう使おうというのだろうか?
痛いことは勘弁してほしい。
「ふむ……その身体に、呪いでも仕込むのも良いな。
お嬢さんを解放するフリをして、助けようとした人間が触れた瞬間に、あらゆる状態異常を引き起こすような……。
あるいは、攻撃魔法が発動するというような呪いでも良いか……。
なに、お嬢さんには害が及ばないように設定しておいてあげるから、安心するがいい。
死なれては血が不味くなるからな」
「そんな……!」
これは早く姫様と連絡をとって、グリーグスの狙いを教えないと……!
しかし──、
「お嬢さんにネタばらしをされても困るので、また眠っていてもらおうか」
グリーグスが私の方に、掌を向けてきた。
また麻痺化のスキル!?
無駄な抵抗だと知りつつも、私が身構えたその時──、
「そこまでなのです!」
「ぬうぅ!?」
へっ!? 私の影が光った!?
その光を浴びたグリーグスが、何か熱い物に触れたかのように、反射的な動きで後退る。
そんな彼の顔や手が、火傷をしたかのように赤く変色していた。
吸血鬼が明らかにダメージを受けているということは、今の光は浄化の魔法なのだろうか?
そして次の瞬間、私の影の中から姫様が姿を現す。
「ひ、姫様っ!?」
これはメイド長が、たまに使っているのを見たことがある。
確か影と影を繋いで、その中を移動することができるスキルだ。
姫様もこのスキルが使えたのか。
というか、いつの間に私の影と姫様の影が繋がれていたの!?
とにかく、凄くいいタイミングで姫様が来てくれた。
これならば魔王軍の四天王が相手でも、この場を切り抜けることができるかもしれない。
「私なんかの為に駆けつけていただき、ありがとうごさいます、姫様!」
私は礼を言うが、しかし姫様からの返事は無い。
ただ姫様は引き攣った顔で、視線を周囲へと泳がせていた。
「こ……ここは!?」
「ひ……姫様……?」
姫様の顔色が蒼白になっていく。
それに身体も小刻みに震えていた。
そして──、
「なんでよりにもよって、ここに連れ込まれているのですか!?」
姫様が頭を抱えて蹲ってしまった。
「ちょっ、どうしたのですかっ!?」
私は混乱する。
そしてそんな私の前で、グリーグスが復活していた。
先程変色していた皮膚の色も、もう元に戻っている。
これが吸血鬼の再生能力か……!
「おやおや……負のエネルギーがこもっていて心地が良かったから、潜伏場所としてここを選んだのだが、そのお嬢さんに対しては思わぬ効果があったようだな……」
「負……?」
私にはよく分からないけれど、そんなエネルギーがここに満ちているの……?
でもそれが姫様と、どんな繋がりが……?
「おそらくここでは、かなり凄惨な事件があったのだろうなぁ……。
何人もの人間の怨嗟の念が、染みついておるわ。
そこのお嬢さんの反応を見るに、彼女はその事件の被害者……といったところかね?」
「……!!」
それって姫様が男嫌いになった原因の……!?
たぶんこの場所で、姫様にはとても辛いことがあったのだろう。
しかし姫様には、影の中から見聞きした情報だけでは、ここが何処なのか分かっていなかったみたいだ。
あの影を使った転移って、あらかじめ繋いでおいた影同士を行き来することはできるけれど、その位置関係までは正確には分からないみたいだし……。
で、ここに来てみて初めて何処なのかを理解し、トラウマが蘇ってしまった……ということらしい。
どのみち、1番頼りになるはずの姫様が、いきなり駄目になってしまった。
これは姫様が精神的に立ち直らなければ、当面戦えないだろう。
だけど精神的な傷なんて、すぐに回復するものではないし……。
い、一体どうすればいいんだろう……。
ハッキリ言って、勝ち目がもう完全に無くなってしまったように見える。
私達は死ぬしかないの!?
「それでは邪魔なお嬢さんを、片付けさせてもらおうか……」
「──っ!!」
私が混乱している隙に、グリーグスが姫様に迫る。
彼にとって今の姫様を倒すことは、おそらく簡単なことなんだと思う。
ここは私が身を挺してでも、姫様を守らなければ!
私がグリーグスの前に立ちはだかろうとした、その瞬間──、
「近寄らないでっ!!」
「グガッ!?」
姫様が振った手から生じた衝撃波が、グリーグスとその背後にあった部屋の壁や天井もろとも飲み込み、粉々に吹き飛ばした。
「えっ、えええぇぇぇ──っ!?」
四天王が一撃で!?
というか、私がもうちょっと早くグリーグスの前に出ていたら、一緒に吹き飛んでいたんですけどぉ!?
なお四天王は、現時点で3人までしか設定を考えていません。
次回はなるべく明後日に。




