27 夜 襲
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リゼをようやく見つけたのは、夕方頃だった。
リゼはまたネコを見つけて追跡していたらしく、町外れの草原でネコを咥えていたところをようやく見つけた。
それからリゼを連れて別荘に帰宅すると──、
「放っておけば良かったのです。
リゼには帰巣本能があるので、勝手に帰ってくるのですよ。
それにその気になれば、アリタの索敵能力ですぐに見つけることができたはずです」
「えっ!?」
姫様の指摘を受けて私がアリタちゃんの方を見ると、彼女は目を逸らして口笛を吹く真似をした。
うん……音、出ていないよ?
そして悪びれもしない口調で、
「まあ、リゼを捜しながら、あちこち見て回れたから良かったよー」
と、開き直った発言をした。
ええぇ……。
結局、観光の続きをしていただけなのぉ!?
なんだかどっと疲れた……。
そんな訳で私は、今日の分のメイドの仕事を片付けた後は、早めに就寝することにしたのだが……。
しかし夜半になって、私は大きな音で目を覚ますことになった。
たぶん2~3時間しか、眠れていないと思う。
「なんだろう……?
外が騒がしいような……」
二階にあるこの部屋の窓から外を見ると、屋敷の敷地の外には夜中なのに何人も出歩いている人の姿が見えた。
さっきの音の正体を確かめる為に、出てきたのかな?
私も状況を確認しようと、軽く身支度を整えて部屋の外に出る。
するとケシィーさんが廊下にいた。
「エリも起きましたか。
先程から爆発音が、遠くの方から聞こえてきているようです。
もしかしたらご主人様の方で、何かがあったのかもしれません」
「メイド長に……?」
確か用事があるって、女王様と出掛けているけれど、何処で何をしているのだろうか……?
とにかく外に出て、ちょっと様子を見てみよう。
何か問題があるのなら、場合によっては避難しなければならないしね。
「私はアリタ様とリゼ様の様子を見てきます。
レイチェル様も先程外に出ていきましたので、エリは跡を追ってください。
まあ……レイチェル様のことですから、危険は無いと思いますが……。
よろしく頼みましたよ」
「は、はい」
そんな訳で私が玄関から外に出て、門から敷地の外に出ようとすると、屋敷の前を通る道の先に姫様の姿が見える。
その近くには、複数の人影も確認できた。
姫様は索敵のスキルで私の存在に気付いたのか、振り返り叫ぶ。
「エリ、あなたは屋敷から出ないでください!
町が屍食鬼に、襲撃されているのです!」
「へ?」
一瞬、姫様の言葉の意味が分からなかったけれど、よく見たら姫様の周囲にいる人達の様子がおかしい。
ダンジョンの暗黒地帯で、暗視のスキルも鍛えられた私だから夜中でも見えるけど、彼らの肌には血色が無くて青白いし、目もぼんやりと赤く光っている。
そしてその動きも、酔っ払っているかのように、ヨロヨロとぎこちなかった。
確かにあれは、生きている人間って感じはしないなぁ……。
動く死体と同様の、死に損ない系の怪物って印象だ。
えーと、屍食鬼って吸血鬼に血を吸われた結果、吸血鬼になり損ねた犠牲者がなる怪物だっけ?
もう人間としての意識も無くなっていて、獣のように獲物を追い求めるだけの存在になる……って聞いたことがある。
そして屍食鬼による犠牲者もまた、屍食鬼になる……とか。
しかもその犠牲者になるのは、大抵同じ人間らしい。
吸血鬼と性質が似るのか、元同族の血肉を好む傾向があるようだ。
それじゃあもしかしてあの人達って、屍食鬼に襲われた町の人のなれの果てってこと!?
だとしたら今頃町の中は、屍食鬼で溢れかえっているんじゃ!?
というか、吸血鬼もこの町に入り込んでいる!?
これは姫様の言う通り、屋敷に立てこもっていた方が安全かもしれない。
でも、姫様は本当に大丈夫なの?
……と思っていたら、姫様の方が光った。
そしてその光を浴びた屍食鬼達は、豪雨に曝された砂山のように、あっさりと形が崩れていく。
あ……浄化の魔法か!
あれって死に損ない系の魔物には、特効だったはずだ。
いや……私も掃除とかで使うし、本来はそっちの方がメインの使い方なので、私が使っても魔物に対してあんなに効果があるとは、ちょっと思えないけれどね……。
それだけに、その浄化の魔法であれだけの威力を発揮できる姫様ならば、この町で増殖しつつある屍食鬼を殲滅することも可能なのかもしれない。
逆に言えば、私にできることは無さそうなので、やっぱり屋敷の中に引きこもっていようと思う。
そんな訳で、私が屋敷の玄関へと向かっていると──、
「エリ、危ないっ!!」
「え?」
姫様の叫び声が聞こえてくる。
そしてその瞬間、私のすぐ隣に人影が現れた。
「ぎゃんっ!?」
私はその人影に対して、何も反応することができなかった。
相手の姿を確認することもできず、気がついた時にはもう、全身に衝撃が通り抜けている。
そしてその後はもう、身体のいうことがきかなくなっていた。
ぐぅ……っ!
身体が痺れている……!
これって「麻痺化」のスキル……!?
それを自覚しても、私には抵抗する術もなく、それどころか意識すらも薄れていく。
闇に沈みゆく私の意識は、姫様の珍しく焦ったような呼び声を聞いたような気がした。
「姫……さ……ま」
次回は明後日の予定です。




