26 町の観光
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予定では明日の更新にしようかと思っていたんだけど、なんだか明日の方が忙しくなりそうだったので予定変更……。
私はエリ。
王女レイチェル様お付きのメイドをしている。
……男の子なのにメイドとは、これいかに……。
さて、私は王女様お付きのメイドだけど、常にお側にいる訳ではない。
今日の姫様はなんだか不機嫌で、別荘からもあまり出たくないようだ。
よくわからないけれど、このサンバートルの町にはあまりいい思い出が無いらしい。
そんな訳で私は姫様の妹であるアリタちゃんと、キツネのリゼが町の観光をしたいというので、彼女達に付き添って町へと出掛けている。
普段はテンションが低く、家にこもってお絵かきしていることが多いアリタちゃんも、観光は楽しいらしい。
その結果私は、あちらこちらへと連れ回されている。
子供の行動力についていくのは、凄く大変だった。
いや、年齢的には、私も子供のはずなんだけどなぁ……。
というか、幼児なのにアリタちゃんの体力が凄すぎる。
それにリゼは俊敏で、ちょっと目を離すと遠くに行っていることもあって困る。
そして今も──、
『あー、ママがいたー!』
と、いきなり走り出したと思ったら、黒ネコの首筋を咥えて戻ってきた。
「ちょっ、何をしているんですか!?」
もしも飼い猫を狩ったのだとしたら、問題だよ!?
「あー、大丈夫、大丈夫。
あれ、ちゃんと加減して噛んでるよー」
「え……そうなんですか?」
私にはよく分からないけれど、確かに黒ネコは生きているようだ。
ただ、突然の事態にびっくりして、身体が硬直しているっぽい。
『ほら、お姉ちゃん。
ママにそっくりー!』
「ん……ああ、確か似ているかもねー。
先祖があの時のママの、兄弟なのかも」
なんだかよく分からない会話をしているな……。
子供って、こんなものなのか……?
それに彼女達の年齢だと知らないはずの古い町のことを、まるで自分の目で見て知っているかのような発言をすることもある。
「昔はこの町も、もっと小さくてねー。
あの丘の辺りなんて、家とかは建っていなかったよ」
「そう……なんですか……」
姫様も謎が多いけど、この妹達も謎が多いなぁ……。
その後、公園を見つけたのでそこのベンチに座り、持ってきたお弁当を食べることにした。
「これ……ケシィーさんに渡されたお弁当なのですが、3人前全部同じものですよね……?
キツネが人間の食べ物を食べても、大丈夫なんですか……?」
「ああ、大丈夫だよー。
リゼって、そんなに柔な身体のつくりはしていないから」
『あたし、カレー大好きー』
リゼが言う通り、お弁当を入れたバスケットの中身はカレーパンというものだった。
見た目だけでは中身までは分からないのだが、匂いで分かったのだろうか?
でもそれだけ香りが強く、しかも辛みがある料理だったはずだ。
それに油で揚げてあるので、かなり油っこいと思う。
人間はともかく、動物には明らかに害になりそうなんだけどなぁ……。
でもリゼは美味しそうにバクバクと食べているので、実際に大丈夫なのだろう。
そして私がカレーパンを食べ終えて、水筒に入れてきたお茶を飲みながら一息吐いていると、アリタちゃんが話しかけてきた。
「エリは男の子なのに女の子の姿をしているけど、やっぱり男の人が好きなの?」
「ぶふっ!?」
私は思わず、飲みかけのお茶を吹いてしまった。
「私は一族の中でも、珍しくそっちの方にも理解があるから、エリが望むのなら協力するよー?」
「違いますっ!
どちらかというと、男の人は苦手で……!!」
「……そうなの?」
「なんで残念そうなのですか……?」
この子は一体、私、何を期待していたというのだろうか……。
まあ私も世の中には男なのに男が好きと言う人がいることは知っているし、実際に私も攫われた時にそういう人から色々とされたけど、だからこそ男の人は苦手というか、怖いんだよね……。
「そっかー。
私はママから、『腐ってやがる、早すぎたんだ』ってよく言われ人だから、リアルでBL的な物を見る機会があったら、じっくりと見たかったんだけどねー」
なんだかまたよく分からないことを言っている……。
でも好きなことだからなのか、いつもよりも饒舌になっているなぁ。
この子に、こんな一面もあったんだ……。
「……って、メイド長は、そのことを把握しているのですか?」
「うん、『私の娘なのに、何故そっちの趣味に……』と、凄く不思議がっていたよー」
ああ、メイド長って女王様と恋人同士なんだっけ。
確かに親子で正反対の好みを持っている──と、言えるのかもしれないな……。
その時アリタちゃんは、何かに気付いたように声を上げる。
「あ~、そうかー。
姉さんは男の人が嫌いだから、その関係でエリはそんな格好なんだー」
「まあ……そうですね」
姫様も多少は私に馴染んできているような気もするけど、まだまだ親しいとは言えない感じなんだよね……。
「まあ、姉さんの気持ちも分かるけど、私は男の人にそんなに酷いことをされてないから、嫌いじゃないんだよねー。
むしろ好きかもー?」
う……今アリタちゃんが、凄く色っぽい表情をしたような……。
本当に幼児なのか、この子……?
というか、今の言い方だと……、
「アリタちゃんは、姫様が男嫌いになった原因を知っているのですか?」
「まあ、家族はケシィー以外、みんな知ってると思うよー。
たぶん、キエル達も知っているかなー」
先生達も……!?
一体何があったんだろう?
「それを教えてくれるという訳には……」
「……う~ん、結構深刻な話だから、本人から聞いた方がいいと思うよー。
ただ、姉さんが喋るかどうかは、エリとの信頼関係次第かなー?」
そうだよね……言いにくいよね……。
なんとなく私と同じなんじゃないか……と、想像はできるんだけど、私だってそのことは人に話したくないし……。
でも同じ傷を持っている者同士だからこそ、私が姫様を支えてあげないと……!
そんな風に私が決意を新たにしたその時、アリタちゃんが思い出したように言葉を発した。
「あ~、そういえばさー」
「え、なんですか?」
「リゼが、どっかに行っちゃってるねー」
「えっ!?」
あっ、本当だ!?
何処にもいないっ!!
私は慌てて、リゼを捜し始めた。
アリタの前世では、オーラを視る能力によってヤバイ男との接触は避けていたので、あまり酷い事はされていません(一般常識からみれば、十分酷かったのかもしれないが)。ただし、最後の最後で空腹に負けて接触しちゃったけれど……。
次回は明後日の予定です。




